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僕だけが夏に取り残されたままだ
日本は長引いた残暑もいよいよ終わりを迎え、本格的に秋に移ろいつつある。
僕のいる砂漠の国には冬はない。雨もなく、雲すらない。
僕は夏が一番好きな季節で、言の葉の庭という作品に出逢って雨も素敵だと知ったけど、それでもやっぱり雨は苦手でお日様が好きだった。
だから常夏の国なんて最高だと思ってた。
でも雨も、季節の移ろいも、あの子のことも、失ってからその大切さに、愛らしさに気付かされる。
昨日の朝は夢を見て起きた。夢の中で僕は宇宙人をレーザーガンのようなもので撃ち殺すんだけど、実はそれが自分の大切な人だったと殺めてから気づく、そして茫然自失の最中で目が覚めた。
それで哀しみで心が覆われてしまって、起きてから2時間くらいベッドから動けなかった。
実際に僕が殺めてしまったのは、僕と彼女が大切に育んできた、ひっそりとして穏やかで優しさに満ちた2人の時間だった。付き合い始めて、ただ眠る場所だった僕の6畳のワンルームは2人の秘密基地になった。僕らは社交ダンスでペアを組んでいて、家具を脇に寄せて狭い部屋で練習したこともあった。僕が2年生の頃はお互いダンスにお金がかかるせいで、普段はお金があんまりなくて、業務スーパーで買ったパスタソースをパスタにかけて2人でよく食べてた。明太子ソースとミートソースで半分こずつ。
2人でよく行った近くの小さなスーパー、一緒に行った銭湯やラーメン屋さん、京都の何気ない風景、その全てに君との思い出で優しい色を塗った。河原町のラーメン屋さんに2人で行った時、君があまりの美味しさに目を丸くしてくれて、自分で作ったわけじゃないのにすごく嬉しかった。
でも全部僕が壊してしまった。仕方なかった、こうするしかなかったということは重々承知の上で、それでも本当に自分はなんてことをしてしまったんだって思いがふとした時に押し寄せてくる。
僕が東京土産に買ってきた2冊の本を、貴女はすごく喜んでくれて、今度一緒におしゃれなカフェで読もうって約束した。君が素敵な観光地をたくさん見つけてきて、その度にまたそこに旅行に行こうって約束した。出国の前に早めに君の誕生日をお祝いしようって自分から約束した。お別れの少し前には、2人で読んだ漫画に出てきた東寺の弘法市に行こうって約束した。それなのに約束全部全部破っちゃって、本当にごめん。僕は貴女の最初で最後の恋人になれなかった。
一番好きな人とは結婚できないのが人生とどこかで聞いたことがある。
僕は、一番恋した人とも一番愛した人とも結ばれなかった。これから先の恋愛では、きっと僕はもっと臆病になって、より現実的な観点が常に伴った恋愛しかできなくなってしまうだろうって、そんな風に心の形が変わってしまったと、別れてから気がついた。
お別れしてすぐ日本を離れて、大変な日々を過ごす中でなんやかんや自分は立ち直っていくのだろうと気楽に思ってた。でもだめだった。時間が経つごとに君のいない日々に喜びを見出す難しさに打ちひしがれる。君との時間をいい想い出に変えるには、まだたくさんの時間をかけて、哀しみを涙に乗せてすこしずつ流してあげないといけないみたいだ。
今日が君の誕生日ってこと、ほんとはちゃんと覚えてるよ。でもおめでとうって連絡するなんて残酷なことは絶対にできないし、やっちゃいけないことだ。君が前を向こうとしているのに、僕が後ろ髪を引くわけにはいかない。そして今後立ち直って前を向いた後の君の古傷を抉ることも絶対にしない。だからもう僕は君に2度と連絡を取ってはいけない。
だからせめて、日記の中で伝えます。
世界で一番素敵な貴女へ。
お誕生日おめでとう。
卒論や就職や両親のことで大変なことが多い一年になるとは思うけど、どうかどうか貴女が素敵な一年を過ごせるよう、遠くから、でも心から祈っています。