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白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター~the pillows「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.3」@福岡DRUM LOGOS

「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」という曲を知ってるだろうか。the pillowsが2002年8月にリリースした19枚目のシングルで10thアルバム『Thank you ,my twilight』にも収録されている楽曲。「Funny Bunny」や「ハイブリッド・レインボウ」ほどの知名度はなく、ライブアンセムとしても馴染みはない、ピロウズのシングルの中でも地味めな曲ではあるのだけども、初めて聴いた時から心を掴まれて離れず、結果としてピロウズで1番好きな曲であり続けている。他にもその時々で、胸が熱くなる曲やグッとくる曲が沢山あるバンドなのだけど、1位は殿堂入りでこの曲なのである。


恐らくは↑の動画をニコニコ動画で観たのが出会いだと思う。このスライドショーのパワーも凄まじいと思うが、楽曲に宿る"途方に暮れるほどの郷愁"にぶっ飛ばされてしまった。長い長いイントロがじんわりと心に沁み込めば、いつだって夏にワープさせられる。淡々と刻まれるビート、ループするアルペジオのフレーズ、張りつめた空気を纏ったサウンドの中に山中さわおの抑えたボーカルが入り込む。どこまでもなだらかに続きそうな曲調の中、最後のサビを終えると山中が絶唱。いつしか歪んだギターが降り注ぐ。そして熱を冷ましていくようにギターが掻き鳴らされて終わっていく、という構成。


6分近い長尺というのもあるのだろうが、聴き終わるとそれ以外の曲が入ってこないくらいに浸ってしまう。山に囲まれた祖母の家、海にほど近い実家、大学時代の散歩道、旅行で行った森や島、様々な夏の記憶がスライドショーのように駆け巡りながら自動的に心をノスタルジーでべこべこにしてくる。なぜそれが"最も好き"に直結しているかは分からない。悲しい、とか、切ない、とかそういう共感めいた感動を超えて、心に未解明な何かが押し寄せてくるのだ。そしてこのなぜ好きかが謎、という点もまたこの曲をピロウズ史上最好曲に君臨させている理由だ。説明がつかないから、圧倒的なのだ。


そんな大好きな曲だが今までライブで聴けたことはない。ピロウズの曲の中でも内省的な部類に入るし、曲全体の質感も珍しく日本的情緒が強いためセットリストに入れづらいのは納得。そもそも夏の曲ということでやる時期は限られるし、夏にワンマンツアーを廻ることもそんなに多くはないため当然のように選考に漏れていた(数年前のフェスで1度だけセトリ入りするバグはあった)が、この度ついにこの曲を聴ける機会が。2017年から行っている過去作再現ツアー「RETURN TO THIRD MOVEMENT! 」、その第3弾として9thアルバム『Smile』と10thアルバム『Thank you ,my twilight』が行われるという。

福岡でピロウズのライブが開催されるのは2年以上ぶり。ただでさえ「久しぶりじゃないか!」なのに、そこに名盤再現が乗っかっているのだから期待はとんでもない。山中さわおの第一声目の「アウイエ!」で感極まりかけた。ピロウズはこのコロナ禍に至ってから、他のバンドが当たり前のようにやってきた有料配信ライブを一切行わなかったバンドで、twitterなどのオフショットで明らかな通り、本来はよくないことなのかもしれないが、これまで通りのバンドマンとしてメンバーたちが生き続けている希少種なのだ。久々に、歓声も多めでマズいなぁと思いながらもこっちも盛り上がってくる。

まずは『Smile』の再現。カラッと健やかな「Good morning good news」や「FUN FUN FUN OK!」、高揚感溢れる「WAITING AT THE BUSSTOP」や「WINNING COME BACK!」などもあれば、ずっしりと孤独感が沁み入る「Monster C.C」や、中盤で急激に怒髪冠を衝く表題曲「Smile」など一貫して情緒不安定かつ曲順も整合性のない混沌とした一作。MCで「いつか終わることを歌った曲が多い」と語っているが、メンバー全員が50代を迎えてなお元気でロックバンドをやっている姿は逆説的にこの時期のピロウズを肯定しているように思う。「昔より今のほうがしっくりくる」と語られた「日々のうた」や軽快に小爆発をくれる「Calvero」など古びない名曲たちの先で連れていかれた「この世の果てまで」の昂ぶりたるや。約束の歌のようだった。



そして後半は『Thank you ,my twilight』。『Smile』から一転してmハイファイなサウンドメイクやダンスビートなどを取り入れたピロウズ第3期の中でも異端な1作。アッパーなロックンロール「ビスケットハンマー」、グランジな質感の「Come on,Ghost」などは今もしっくり来るが四つ打ちやデジタル処理が印象的な「My Beautiful Sun(Irene)」「ROBOTMAN」などは新鮮味たっぷり。終盤、「バビロン、天使の詩」で火照り切ったフロアへ表題曲をずっしり届けた後、「Ritalin202」がもうひとギアあげる流れは素晴らしく興奮度の高い時間だった。でも、1番盛り上がっていたのは「何をルーツに作ったか分からない」というイェイイェイソング「Rookie Jet」なのだから楽しすぎる。何を模してもピロウズになる、どんなサウンドでも芯は一切ブレない。


さてここで紙幅を割きたい。「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」との対峙だ。お馴染みのメンバー紹介MCでしっかり笑いを取った後、その瞬間は訪れた。さわおさんがギターをかまえた時に察し、アルバムバージョンのイントロを弾き終わってからタイトルを言い放つ。あぁ、ライブ映像では何度も観た場面だ、と。そこからずっとあの曲があの曲のままで鳴らされていく。これは驚くべきこと。ここまで聴き込んだ曲だ。期待しすぎてちょっと違うな、とか思っちゃうんじゃないかと恐れていたが、何一つ裏切らないあの曲だった。もちろん、テンポがヨレたり、粗い部分もあった。何より円熟味が増している。しかしこれは過去と向き合う曲だ。その地点から時を経ようとも無邪気だった季節はそこに息づき、夏の記憶として動くことがない。イヤホンで感じ取ったこの曲の情景はこの日より鮮明に見えた気がした。


何も変わらないまま届いた、と書いたが正確に言えば曲が進むにつれて感じ方は少しずつ変わった。「あの虹」(この後も節目の楽曲に登場する「ハイブリッド・レインボウ」のモチーフ)を<それでもまだ見てる>というスタンスは20年前から少し変わったように思う。自虐的に「末期」と称することも増え、ここに集まったバスターズたちをぶっきらぼうながら祝してくれる。ハングリーに上を目指すよりも同じ思いを変わらず歌い続けることにシフトしたように思う。20年を経てこの曲を迫真的に歌う様は、内省に耽る元の曲の印象を超えてとても頼もしく思えた。センチメンタルな懐古の歌だったはずが、最後の<Hello>のシャウトに至るまで、ここまで辿り着いたことを強く噛み締めるような歌に聴こえたのだ。更に大切な曲になってしまった。

この日はトリプルアンコールにまで応えてくれた。1番最後に演奏された「No Surrender」は間違いなく我々に向けられた鼓舞の歌だった。さわおさんは「狂った世界に負けんじゃねえぞ!」と叫んだ。その通りだ、と思った。またここに辿り着き、思いきり歌いたい。生き延びて、また会いたい。

<setlist>
1.Good morning good news
2.WAITING AT THE BUSSTOP
3.FUN FUN FUN OK!
4.WINNING COME BACK!
5.Skim Heaven
6.Monster C.C
7.Vain dog(in a drop)
8.THUNDER WHALES PICNIC
9.Calvero
10.日々のうた
11.Smile
12.この世の果てまで
13.RAIN BRAIN
14.ビスケットハンマー
15.Rookie Jet
16.My Beautiful Sun(Irene)
17.Come on,Ghost
18.ROBOTMAN
19.ウィノナ
20.白い夏と緑の自転車 赤い髪と緑の自転車(original egoistic version)
21.バビロン 天使の詩
22.Thank you,my twilight
23.Ritalin202
-encore-
24.そんな風に過ごしたい
-double encore-
25.Fool on the planet
-triple encore-
26.No Surreder

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