ベールなどなかった/9.20 羊文学 TOUR2024「"soft soul, prickly eyes"」@ Zepp Fukuoka
羊文学、1年ぶりのワンマンツアー。去年は参加できなかったので福岡でワンマンを観るのはこれが初めてとなる。いちおうアルバム『12 hugs(like butterflies) 』が出てからは初の全国ツアーだが冒頭3曲が「金色」「電波の街」「風になれ」と続き、アルバムとは無関係なことをそれとなく示す。既にリリースから9ヶ月が経過しているゆえ今回はフラットに、今歌いたい曲が選ばれているように思えた(「GO!!」が無かったことには驚いたが。) 。
そして印象的なのはステージの前面にずっと紗幕が掛かっていることだ。メンバーの姿は薄っすらとしか見えない時間がずっと続く。かなり幻想的な光景であり、世界観を強固にする演出かと思っていたのだが、最初のMCが始まっても開かない。「あと少しだけ開きません」とも言う。全然、幕の存在に触れるし、ちょっと冗談めかしてさえいる。神秘のベールに徹する幕と、それを悠々と飛び越えてくる本人たちとのギャップがとても面白く映る時間だ。
激しめな「countdown」や「Girls」で遂に幕が開くかと思いきや開かず、8曲目「光るとき」のイントロでようやく幕が開く。そこからの開放感は至高だった。「あいまいでいいよ」「永遠のブルー」と爽快な楽曲が続き、そのステージングの身のこなしがとにかく痛快で、自然体。MCでは塩塚モエカ(Vo/Gt)と河西ゆりか(Ba)が座りこんで喋るなど、ラフな佇まいが終始続く。こんなに福岡のおすすめスポットを言ってくれるツアーバンド、他にいない。
しかしこの空気感こそが羊文学の真実の姿なのだろう。えげつない轟音でもしなやかに届け、沁み入る時間もさらっと聴かせる。切実だけどノリは軽い。ノイジーなサウンドにホーリーな歌声、そして切ないメロディとなれば”神秘のベール”のような演出がハマるのは当然だが、彼女たちの軽いノリはそうした視線をずらし、ジャージ姿で会話するように豪快な音楽を届ける姿勢の表明に見える。羊文学に神秘のベールは似合うが、その核にベールなどなかったのだ。
「祈り」のアグレッシブなイントロから間髪入れずに演奏された最新曲「Burning」はこの日のハイライトだ。バックスクリーンには塩塚のものと思しき巨大な"目"が映され、サビでクワッと開く。我々が羊文学を眼差す時、彼女たちもまた眼差し返す。視線を浴び続け、容易く消費されかねない今の上昇気流に対する苛烈な業火のような演出と楽曲だ。ゆるい空気を纏いながらも、制する部分は確実に制する。彼女たちの気高さが見える美しいひとときだった。
終盤は四つ打ち曲を並べてひとしきり踊らせ、ライブ自体のテンションコントロールも抜群。しかしラストへの向かい方はかなり以外。2018年リリースの「涙の行方」がまさかゴスペルのようなコーラスアンセムとして活躍するとは。《私は私でもうすぐ誰かの歴史になってゆく》と今歌う意味をじっくりと噛み締める時間だった。その後、歓声を煽り「Addiction」のギターを鳴らし始めた塩塚モエカのロックスターすぎる立ち姿含め、完璧な締めくくりだった。
「2024年は疲れたのでツアーはゆっくり回りたい」と言うなど、“若手らしさ”から積極的に逸脱していく羊文学。ドラマー・フクダヒロアが現在活動休止という選択をできているのもそうしたムードがあってこそだろう。気ままな気高さを持った彼女たちが若い世代から支持されているのも納得だ。定石を外しつつ楽しませる選曲、ライブ全体のカタルシスへの運び方など新鮮味も満載。このままどこまでも突き抜けてくれ!と手放しで思いたくなる夜だった。
《setlist》
1.金色
2.電波の街
3.風になれ
4.深呼吸
-MC-
5.countdown
6.Girls
7.人魚
8.光るとき
9.あいまいでいいよ
10.永遠のブルー
-MC-
11.tears
12.honestly
13.つづく
14.祈り
15.Burning
16.OOPARTS
17.more than words
-MC-
18.くだらない
19.涙の行方
20.Addiction