これが若者のすべて/フジファブリック × ASIAN KUNG-FU GENERATION × くるり「ノンフィクション」(2024.11.10)
フジファブリックのメジャーデビュー20周年を祝うイベントシリーズ、そのラストを目撃するべく大阪城ホールに足を運んだ。「ノンフィクション」と名付けられたこの3マンライブに集ったのはASIAN KUNG-FU GENERATION、くるりという豪華なラインナップ。2組はそのキャリアにおいてフジファブリックと大きく関わっている。
フジファブリックは2010年のフジ富士フジQから2011年『STAR』のリリースまでライブ活動を休止しており、その期間に金澤ダイスケ(Key)はアジカン、山内総一郎(Vo/Gt)はくるりにサポートメンバーとして参加していたという縁がある。アジカンは『マジックディスク』のツアーにおいて解散危機を迎えつつある時期で、くるりは新メンバーが加入するその手前の時期。フジファブリックも前ボーカル・志村正彦を亡くし、山内総一郎がボーカルへと移行する時期ということで、3組ともこの当時、大きな節目のタイミングにいた。
あれから10数年が経ち、再びこの縁を確かめ直すような座組がなされたこの3マン。込み上げるものの多いライブだったので、今もまだ続くエモーショナルな気分のまま感想を書き残そうと思う。
17:00- ASIAN KUNG-FU GENERATION
ドラムのカウントからハッとする。1曲目はフジファブリックの大名曲「茜色の夕日」のカバーである。後藤正文(Vo/Gt)が歌い出す瞬間に落涙する。もう既に特別な夜は確約されたのである。思えばゴッチは『アラモルト』の時点で「茜色の夕日」は名曲と日記に書いていたことがある。ソングライター志村正彦とゴッチの共通のルーツである奥田民生もカバーした曲で、ゴッチは志村と同じく東海地方からの上京者で...と様々な文脈が脳裏によぎり熱い気持ちになる。しかし何よりフジファブリックは志村正彦が居なければ始まらなかったことを心から讃える選曲としてグッときた。
沁み渡り尽くしてからは、大サービスな選曲でトッパーの役割を果たしていく。ペンライトが輝く中で「君という花」が城ホールを揺らし、日本で3番目くらいに有名なサビを有する「リライト」が大合唱を巻き起こす。「ソラニン」「君の街まで」「荒野を歩け」とセンチメンタルな昂りを引き起こす楽曲もこのアリーナに映えまくる。個人的には2週間前にアジカンをライブハウスの2列目で観たばかり。そこでは近距離の爆発力を実感したが、この日は大会場を沸かすバンドとしての迫力に圧倒される。この国のギターロックを牽引し、今なお最前線に居続けるアジカンの地力だろう。
ここでゲストとして金澤ダイスケを呼び込む。演奏曲は「迷子犬と雨のビート」だ。2010-2011年のツアーで使用したプリセットが残っており、その当時のサウンドを再現し、この曲は披露されることになった。このツアーは2011年3月11日の東日本大震災の影響で完結せず中止となり、そこからアジカンは再び4人のバンドとして蘇っていくのだが、その直前まで辿り着くエネルギーをもたらしていたのは潤滑剤(ヒアルロン酸!)としての役割を果たしたダイちゃんなのだろう。幸福感に満ちたこの曲がそこから続いてきたアジカンとダイちゃんの歩みを祝福しているように響き渡る。
ラストは「今を生きて」。このライブに相応しい選曲だろう。一瞬一瞬がすぐに過去になっていき、決して元に戻ることはないのがこの世界の宿命である。しかしだからこそこの今がかけがえなく、忘れがたい記憶として焼きつくのだと歌い上げる楽曲であり、サビには《優しく笑って今日でさよならしようぜ》とある。私にとってはこの日が最後のフジファブリック。その前に歌われるこの温かな惜別のフィーリングは強く胸を打つ。またきっと出会うための別れとして、この後に控えるフジファブリックに向き合う決意ができた。アジカンらしい餞を送る、素晴らしい50分だった。
《setlist》
1.茜色の夕日(フジファブリックcover)
2.君という花〜大洋航路
3.リライト
4.ソラニン
5.君の街まで
6.荒野を歩け
-MC-
7.迷子犬と雨のビート with 金澤ダイスケ
8.今を生きて
※サポートメンバー:Keyboard - George(Mop of Head)、Cholass - アチコ(Ropes)
18:05- くるり
奏で始めたのはいきなりの「東京」である。岸田繁(Vo/Gt)は山内総一郎と同じ関西からの上京者。その心象を重ねたような選曲に先のアジカン「茜色の夕日」との呼応も感じ、またしてノスタルジックになる。そしてそのスケール感を引き継ぎ、「潮風のアリア」がアリーナを包み込んでいく。1、2曲目がスローテンポという、かなり攻めたオープニングだがこれこそがくるりらしさだろう。お祭りだろうと自分たちのやり方を崩さない、ストイックなまでのマイペースさ。定番曲「Morning Paper」のグニャグニャ変化するテンポでいつの間にかくるりのムードを作り上げた。
個人的にくるりをこのようなアリーナで観るのは初めてだったが、その豊かな情感が隅々まで行き渡る様に恍惚としてしまった。「ブレーメン」のたおやかなグルーヴ、「Time」のまとまりある小品にような可愛げ。繊細な部分までもが溢れることなく伝わっていく。大人気曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」のファンキーなハネっぷりから、「ばらの花」のしめやかな感傷への移行も実にナチュラル。いったいどれほどの種類の曲を作ってきたのだろう、と遠い目をしてしまうほどに変幻自在なバンドサウンド。フジファブリックが初期から共鳴し合う存在であると納得のいく奇異さである。
ライブ終盤、ここで山内総一郎がステージに呼び込まれる。2010-2011年のくるりのサウンドに欠かせないギタリストであった総くんは、十数年を経てギターボーカルとしてくるりに帰ってきた。演奏曲は「ロックンロール」。イントロからMVよろしく前後に歩くなど、くるりラバーとしての表情が窺える。大興奮だったのはラストの猛烈なギタープレイ。岸田と張り合うようにニッコニコの笑顔で爆裂に弾き倒すその姿。くるりが2012年からメンバーを増員し、バンド形態になったのは総くんの放つ無邪気な“バンドをする喜び”に感化されたかもしれないとこの時に思い至った。
そして大団円を迎えるに見せかけて、最後に異国の風が吹いては独特の空気を醸し出す新曲「La Palmella」。これは正直、めちゃくちゃ面白かった。温まりきったフロアでまばらにライトが光る中、岸田の勇壮なパァルメェエラァである。こうでないと!と強く思いもした。音と戯れ、音楽で楽しみ続けるくるりにとってはここに「奇跡」や「Remember me」を演奏するだけでは物足りないのだ。切なさに浸るのでなく、面白さを希求する。活動を止めるフジファブリックに向けた、こちらもくるりらしいユニークさを持った、しばし別れに向けた挨拶だったと言えるかもしれない。
《setlist》
1.東京
2.潮風のアリア
3.Morning Paper
-MC-
4.ブレーメン
5.Time
6.琥珀色の街、上海蟹の朝
7.ばらの花
-MC-
8.ロックンロール with 山内総一郎
-MC-
9.La Palmella
※サポートメンバー:Guitar - 松本大樹、Drums - 石若駿、Keyboard - 野崎泰弘
20:10- フジファブリック
出囃子のなかった前2組と異なり、スペイシーなSEで着実に高揚感を募らせ幕開けとなったフジファブリック。最新アルバムの表題曲「Portlait」からそのバンドとしての生き様が炸裂する。山内総一郎がボーカルを務めて以降は大きく開かれ続けていく心模様がそのまま柔軟な音楽表現につながっていたように思う。この曲もラストで突然アッパーになり、言い切れぬ想いを音に託しているかのよう。続く「破顔」「LIFE」も格別なオープンさをもってこちらに届く。人生の痛み、そして歓びが綯交ぜになったポップソングの応酬である。
MCを挟み、衝撃的なイントロが。アジカンの「ループ&ループ」である。鍵盤によってウワモノが補強され、ニューウェイブな風味が足されたフジ版のカバーはストレートさが際立つ。《最終形のその先を担う世代》として戦ってきた2組のこれまでを想い、熱い気持ちになる。そして続くのはくるり「魔法のじゅうたん」のカバー。総くんがサポート期の楽曲で、その穏やかな曲調が晴れた気分をくれる。「ループ〜」は10年前の共演時からカバーを希望し、「魔法〜」はかねてより思い入れのあった曲とのことであり、このライブだからこそ強い意味を伴う愛のある返歌だった。
プログレッシブな展開で突き進む「ショウ・タイム」からライブは後半。ペンライトの海を颯爽と「銀河」が飛びほとんど最高潮なフロア。ここからどう続くか?と構えていると、「ミラクルレボリューションNo.9」だ。ギラギラのシンセとダンサブルなビートというフジの強みを活かす近年のナンバーだが振り付けや総くんのハンドマイク歌唱やらでとことん盛り上げまくっていて驚いた。さらにそこに「Feverman」が投入され、狂騒を巻き起こす。御囃子から琉球音階までを駆使して、根源的な祭りへの欲動を突く強烈な1曲だった。「銀河」後にこれほどの曲が待ち受けているとは。
この3組の中だと実はフジファブリックはかなり久々に観たのだが(3年半ぶりだろうか)、いつの間にか飄々と大爆発を起こすようなグルーヴを極めていて驚嘆した。コロナ禍によってブーストがかかったのだろうか。いずれにせよ、まだここから見果てぬ境地もありそうなレベルの可能性に満ちていた。踊り疲れきった体に本編ラストの「手紙」はじっくりと効く。総くんのパーソナルな想い、故郷への眼差しが刻まれたこの曲。自分自身がソングライターとなり、ボーカルとなり、フジファブリックを続けてきたからこそ生まれた曲だ。大阪で聴くからこそ、の特別さがあった。
そしてアンコール。ゲストとして、ゴッチとくるり両名が登壇。始まったのは「若者のすべて」だ。朴訥とその情緒を高める岸田、伸びやで逞しくメロディを際立たせるゴッチ、そして温かく真っ直ぐな総くん、それぞれの歌声の折り重なりは格別で夢のようだった。この曲を書いた志村はもうここにいない。しかし歌い続けてきたからこそ、愛され続けた。とうに若者と呼ぶには憚れる中年になった彼らが歌い繋いだこの日、永遠の輝きがもたらされていたと思う。長く歌い継がれる歩みこそが、“若者のすべて”と名付けられたこの曲の運命を象徴しているように思えた。
これこそが若者のすべて。と心の底から思い浸っているところに、正真正銘のラストナンバーである「SUPER!!」が溌剌と鳴らされる。《まだまだ行けるさ/明日をもっと信じたいんだ》とこのライブの最後に歌うと、そこに複雑な気分が去来しないわけはない。しかし、それでも続いていく未来の可能性を信じるからこそこのポジティブなマインドをトドメに届けられる覚悟に至ったのだろう。思い返せば《遮るものは何もない さあ行こう》と歌う「破顔」も、《戻らない日々に手を振って行くのさ/今日も続いてく》と歌う「LIFE」もあった。信じて待つしかない。そう思える夜だ。
《setlist》
1.Portlait
2.破顔
3.LIFE
-MC-
4.ループ&ループ(ASIAN KUNG-FU GENERATION カバー)
-MC-
5.魔法のじゅうたん(くるり カバー)
-MC-
6.ショウ・タイム
7.銀河
8.ミラクルレボリューションNo.9
9.Feverman
-MC-
10.手紙
-encore-
11.若者のすべて with 後藤正文、くるり
12.SUPER!!
サポートメンバー:Drums - 伊藤大地、Percussion - 森瑞希
この日、ライブステージにはバックドロップやド派手な演出は一切なかった。それだけでなくステージ上にはスタッフや次バンドの機材も置かれ、全てが剥き出しだった。そう、これが「ノンフィクション」というタイトルの真の意味だったかと気づく。何も隠さない、嘘をつかない、ただ心のままに表現をし尽くす。歴史を共有する3バンドだからこそ、この名前のイベントのもとに集えたのだろう。都合いい現実逃避でも、呆れるようなファンタジーでもない。今ここにある現実と対峙するための音楽を作り続ける、現実の中で現実を見つめるロックバンドたち。こんな日があって良かった。また、ここから続く私のノンフィクションと向き合うために何度となく思い返すはずだ。
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