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M-1グランプリ2023 1回戦に出てみた感想

9/10、別刊というコンビでM-1グランプリ2023に出場した。客としてしょっちゅう行ってるよしもと福岡ダイワファンドラップ劇場にエントリー料だけで立てるなら良い思い出になるなぁくらいで出ようと思ったのだけど、やるならやるで目標は置きたい。そこで合否に関わらず一回戦の全会場で選ばれるナイスアマチュア賞を獲ることを目指して漫才をやっていこうとなった。

しかし結果はあっさり敗退、そしてナイスアマチュア賞もならず。このnoteではいかにその挑戦が難儀だったのかという振り返りをしていこうと思う。



①誰にも知られていない奴が挑む難しさ

テレビでの人気者たちはもちろんのこと、舞台にある程度の回数立っている人たちの”既に知られている強み“というのは凄まじい。この人が舞台でこう言うことをしそう、という予感はこれからの笑いの助走になっているし、その期待に応えるのも、裏切るのも自由。無限の選択肢が広がっているのだ。

こうした“他者からの目線”に既に慣れたコンビとは違い、我々はあまりにも何者でもなさすぎる。こいつらが今から何をするのか分からないというのは観客からすれば怖いことだろう。私だって舞台に出てきた知らない芸人を完全オープンな気分で最初からは観れないではないか。当然のことである。

そこで我々は自分たちの職業を全面に出すことにした。私は精神科医、相方は銀行員。特徴を衣装にも反映し、私は白衣、相方はスーツ。最初に職業を名乗り、キャラは分からなくてもとにかく精神科医と銀行員という記号として存在することでせめて社会的に何者であるかを示すことにしたのだ。


②笑っていい題材を選ぶ難しさ

衣装が白衣とスーツなのに格好と無関係な話題の漫才や「店員と客」に設定になるのは違和感しかない。ゆえにネタの内容も精神科医と銀行員という立場を活かした内容になると自然に決定した。Mおじことスーパーマラドーナの武智さんも“自分の資格は活かすべし”と一回戦の指南動画で語っていた。

しかしここで問題となるのは精神科医と銀行員に“笑っていい要素”が大変少ないということだった。何も考えず攻めたネタを選ぶにしても精神科医は道徳的に当然禁じられるべきであり、銀行員は専門的すぎる部分がある。何にしても笑いづらい、という壁があった。コミカルな余白がない職業なのだ。

せっかく笑いに来ているのに不快な気分になるケースというのは、ただつまらない場合もあるが、選んでいる題材に引いてしまって起きるということもある。ネタを作る前段階において早速、精神科医と銀行員で設定を縛る弱みが出てきたのだがアマチュアで突出するにはこれしかないと確信していた。

③強い一撃を狙う難しさ

ネタ作りにあたって一回戦突破対策動画をたくさん観た中で、とりわけ令和ロマンのくるま氏が提唱していた「ぜったいれいど」を狙っていけ、という言葉が刺さった。これつまり、捨て身だろうがどれだけ大味だろうが、インパクトの大きな強い一撃の笑いを狙っていけ!ということである。

しかしこれこそが難しい。めちゃくちゃ頭を捻れば漫才っぽい会話のやり取りは浮かんでくるのだが、いかんせんインパクトはない。アマチュアには力技でひとくだりを繰り返すようなことをする勇気がそもそも出ない。手堅い感じでありながら、強力なぜったいれいど。このハードルは随分と高い。

1度、舞台慣れするために出たアマチュアライブで自分たちなりの”ぜったいれいど“をかましたつもりだったが、どうやら状況が伝わりきらなかったのか1分間ほどの恐怖のスベリ時間が生まれてしまった。そう、ぜったいれいどには”一発で伝わらなきゃ終わり“というとんでもないリスクが伴うのだ。



④当日以外で把握できない難しさ

アマチュアライブからネタを全て変え、いよいよ本番が迫った3日前。大舞台を想像するとそこで新しいネタをやるのはあまりに難しく(というか相方がそもそも面白くないと言い出した)、結果的にアマチュアライブでやったネタを磨いて本番に挑むことに。伝わりづらかった部分を丁寧に修正してみた。

そして本番当日に気づいてしまう。そういえばサンパチマイクを使って漫才をやったことがない。漫才師がマイクの前に立ってノールックでマイクの高さを調整するあのカッコいい動作をやったことがない。どんな声量でいけば良いか、どんな高さのマイクがそこにあるのか。1つも分からないのだ。

出番直前。カチコチの状態でもう1つ問題が発生してしまった。出囃子のどこで出るべきか、ということである。そこまで流れていた曲で何とかタイミングを図ろうとしてたが我々の出番直前でその曲までも変わってしまった。このように、当日にならないと把握できないことがあまりに多すぎた。


⑤そこそこウケるがゆえの難しさ

完全に出るタイミングもミスり、あわあわした状態で漫才が始まる。一発目のボケがそこそこウケる。2個目もそこそこウケ、入れるかどうかで迷いまくってケンカ寸前までいった3個目もそこそこウケる。しかし、そこそこウケる時間が続くばかりで、ガツンとくる感じがまるでないのだ。

会場キャパ500は半分程度が埋まっていてそのほとんどがおそらく出場者の身内だと思うのだがそれでも“漫才を観て笑いに来ている”という意識の人々ゆえ、ちゃんと頑張れば笑ってくれる場所ではある。終盤ちょっとだけ笑いの数が増えたもののぜったいれいどがキマってる手応えは来ずに終わった。

間違えずにやりきった達成感だけはあったし、他のコンビのネタを観ていないので客観的な評価は分からないままだったが先述の通り結果は出ず。白衣とスーツで職業と衣装を全面にネタにして、そこそこウケはしたけど突破力はなかった。振り返ると、まぁこういう結論になってしまう。残念ながら。


終わってみて思うのが、漫才とは凄すぎる演芸である。人を笑わせるためだけの数分間の”対話”をゼロイチで作り出す恐ろしい創造物と言える。初期費用なし、ただ頭を回して言葉と動きを練り上げる、あまりにも開かれたエンターテイメントだ。是非とも、皆さんもM-1グランプリ出てみてはいかがだろうか。相方と仲違いし得るという覚悟は必要だが意義深い挑戦だと思う。最後に我々が5か月かけて作り上げた渾身の一回戦落ちネタを載せてみる。

ちなみにこのネタ中の"てへぺろ"をどうすべきかでケンカしたのだけど、、

結果的に、良い写真になって良かった!!


【別刊 M-1グランプリ2023に至る道のりを語ったポッドキャスト】

#エッセイ #漫才 #M1グランプリ #アマチュアお笑い

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