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適応の為の再構築、心象は物語に~2021.11.20 サカナクション『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』(NF member限定公演)

サカナクション、1年3カ月ぶりのオンラインライブ。来春リリース予定のアルバム『アダプト』(本当に出るのか?)、そして来月スタート予定のアリーナツアーに先駆けて新曲を披露するという大義を備えたライブ。しかし、当然それのみでない。適応を意味するアダプトというタイトルを冠したこの一連のプロジェクト。その一手目であるこのライブは過去の楽曲をこの時代と新曲たちに寄り添わせて再構築し、配信という特性を最大限に生かした演出で贈る驚異的なクリエイションとして結実した。速記的に振り返っていく。

青い照明とスモークが焚かれる中でクレジットが流れた後、山口一郎がアコギを弾く姿が映し出される。「multiple exposure」、いきなりディープすぎる1曲。長方形のハコのようなスペースで演奏するサカナクション、<そう生きづらい>と繰り返す楽曲にはどこか閉塞感が漂う。その終わり、不意に後ろ向きに倒れる山口一郎(Vo/Gt)のワンショットにドキッとする。まるで1度、何かが終わったような。そして耳慣れないイントロから早速の新曲①。軽やかなファンクネス漂う曲、だがここで登場した俳優・川床明日香演じる少女の表情はどこか不安げ。電話ボックスのようなスペースで戸惑う彼女と演奏の交差はそのままミュージックビデオにしてしまえるレベルのカット割だった。そしてここでこの日のステージセットの巨大さを思い知ることになる。広い倉庫のような場所に建てられた、数個の空間を持つ構造物だった。

ドープな低音が響く「なんてったって春」が不意に飛び出す。季節感もない曲がなぜ?と思うが、そういえば去年の春は #きっと春は来る と言ってなけなしの希望を繋いでいたか。この曲におけるアンニュイなフィーリングはあの頃の心象ではないだろうか。そこから「スローモーション」に移行したのも意味深だ。ステージにも粉雪が降り出したように、これは冬の歌。<だんだん減る未来>と繰り返すラインにもコロナ禍の閉塞感や冷え切った世界が滲んでいるように思えた。川床明日香は、バックにバンドの演奏を従えてベンチの上で物憂げな表情を浮かべる。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。そういえば僕らも、ずっとこの2年近く何かを待ち続けた気がする。そんな風に沁みている中、改めて今回の会場の大きさに気付く。建物の2階部分で演奏するサカナクションと、床上のベンチにいる川床、その距離の壮大さ。

『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』は、普段のライブで楽し気に披露されるのだがこの日の山口は神妙な顔つき。この曲と言えば2011年に作られ、当時の恋愛を歌った曲。その人恋しさが10年を経ち、新たな意味を持って呼び起こされていた。演出も、MVのセルフオマージュでダンス人形も登場するし、演奏をテレビで眺める、というシーンも登場。これらすべてがリアルタイムでその場で作り出されているのだから驚きだ。また、普段のライブではあり得ないほどにメンバー、特に山口は動き回る。バンドとは別エリアで山口が歌唱シーンを披露したのはトヨタ ヤリスクロスのCMソングとなった新曲②。そのレトロなサウンドメイクに合わせ、動く背景+山口の歌唱というチープさを狙った演出が施されていた。またこの新曲、CMも賑やかな印象と異なる、フルサイズでしか分からないしっとり感もあり興味深かった。

ここからはレアで更に深く心象に潜るような曲が続く。「ティーンエイジ」は2ndアルバム収録で滅多にライブでは披露されてこなかった1曲。厳かなエレクトロサウンドの中、粛々と演奏する姿が印象深い。川床明日香の表情が演奏風景にプロジェクションマッピングされ、若き日の山口の筆致を川床の在り様で想起させているかのよう。中盤の激しいドロップでは、川床も表情を歪め、危うい感情を噴出させていく。もしかすると、彼女はこのライブにおける、つまりコロナ禍における山口の心象のメタファーなのかもしれない。この時代を貫く表現を求め、深くまで潜り、結果として山口自身のあの頃の純粋さに触れる、、、そんなストーリーが思い浮かぶ。その後に頼りない日々の彷徨を歌う「雑踏」が置かれたのも納得。川床が演奏映像の投影部分にブロックを置いていくという演出はアイデアと芸術性が極まっていた。

ティザーでも仕様された「目が明く藍色」はちょうどライブが1時間を迎える辺りで演奏された。若さとの別れ、青き日を心に沈めるこの1曲はコロナ禍を経て次のステージへと踏み出す1曲として響く。演奏が切れる瞬間、山口の手が川床の手を握りしめる。歌の中に閉じ込めた、あの日々の純粋さに確かに触れることができた、その一瞬のシーンのようでとてもグッとくる。彼はいつも、大事な局面で北海道にいる自分と対峙しているように見える。その様が、今回は過去曲の再構築によってまるで演劇のように表現されていたのだ。そこからギアを挙げる局面、インスト「DocumentaRy」が変わり目としてプレイ。Macbookを5人1列で操作するフォーメーション、これも先ほどまでの演奏スペースの更に上の階に特設のゾーンが用意されていた。高い。

演奏がバンドセットに切り替わり、5人はついにフロア上の演奏セットへ。バックには先ほどまで演奏を行っていた構造物が見える。奥行きが凄すぎるのだ。あっけにとられていると、「ルーキー」が鳴る。これはなるほど、な選曲だ。10年前の3月、たまたま近辺でリリースされたこの曲は<悲しみと同じ歩幅で歩きたいのに>と言う歌詞を引き連れ、多くの人の不安に寄り添った。2011年を刻み付けたアルバム『DocumentaLy』収録の2曲の流れで、再起動されていく様を表現していたように思う。そこから、超絶アッパーで爽快な新曲③「プラトー」に突入したのも示唆的。今ここに立っていることを高らかに表明するかのような流れだ。また、ここまでの華やかな演出から一転、絞った照明と5人演奏にカメラを寄った、クールで引き締まったシーンになっていたのも特徴的。楽曲のポテンシャルを多彩な技で引き出している。

「アルクアラウンド」「アイデンティティ」と、前半の深海っぷりを急ピッチで取り戻すかのような浅瀬アセムが続く。何度もライブで聴いてきた曲だが、こうも印象が違うのはやはり照明効果と大量のカメラだろう。前半の演奏スペースはこのタームで完全に巨大照明機材に代わり、どれだけ数があるんだという甚大なアングル数から常にベストなワンショットが訪れる。これらによって徹底的に作り込まれたルックは絶品。"オンラインライブならでは"とはここまでやらなくちゃ意味がない、と言わんばかりの執念を感じる。また、古館祐太郎、嶋田久作らが出演する夕方ワイドショーを模したセットに突如場面が切り替わり、新曲④「ショック!」を披露する遊び心たっぷりな面も。ホーンセクションを大胆に取り入れた完全にニューフェイズなこの曲。その高揚感を、演者を巻き込みながら生み出していく巧さに唸った。

「モス」「夜の踊り子」とアッパーに畳み掛けた後、「新宝島」ではいつものチアダンサーたちが登場。最初に出たのは、後方の建築物の極めて狭いスペースだったので、まるで園子温の世界観のような不気味さがあったのだが、最後にはバッハの山口一郎人形も登場しての完膚なきまでの大団円。雲海が溢れた「忘れられないの」でチルタイムとなり(最後、絶対に来てほしいタイミングで嶋田久作にカメラが向いて嬉しかった)終わり、と思いきや最後に新曲⑤が。それこそ「忘れられないの」のその先に進むような、シティポップ感と剥き出しの言葉が耳に残る1曲だった。圧倒的な情報量と端正な演出力でまたしてもオンラインライブの金字塔を打ちたてたサカナクション。しかしこれは「アダプト」の季節の序章に過ぎない。まずは、来月。愛知スカイエキスポでのツアー初日を体験し、またしても打ちのめされたい。

<setlist>
1.multiple exposure 
2.新曲①
3.なんてったって春
4.スローモーション
5.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
6.新曲②(ヤリスクロス)
7.ティーンエイジ
8.雑踏
9.目が明く藍色
10.DocumentaRy
11.ルーキー
12.プラトー(新曲③)
13.アルクアラウンド
14.アイデンティティ
15.ショック!(新曲④)
16.モス
17.夜の踊り子
18.新宝島
19.忘れられないの
20.新曲⑤


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