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終わらない予感は消せない〜2022.11.10 Base Ball Bear 20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」@日本武道館

2010年、2012年に続いて10年ぶりとなる日本武道館ライブ。過去2回は思うようにライブが出来なかったことが何度も本人たちの口から語られており、かねてよりもう1度やりたいと熱望し続けたバンドにとっての立ち向かうべき壁のような会場だった。チケットを売り伸ばすためのニコ生や突然の過去2回の武道館ライブ盤リリース(嬉しい)などもあり、動員はかなり苦戦しているのでは、、?などと余計なことを考えてしまっていたのだが蓋を開けてみれば大盛況。名古屋で仕事を早退して大急ぎで駆け付けた頃には目の前に広がるベボベファンたちの人波。全国各地から集まったそれぞれの思いのようなものが可視化されていて、なんだか開演前から勝手に熱い気持ちになった。


ステージに聳え立つセットはベボベがこれまでいくつもの作品でキービジュアルとして扱ってきた電波塔だ。それも、3本の足で立っている。この記事でも書いたが3ピースバンドになったことはこの10年の節目。それを象徴するかのような立体セットのもとへお馴染みのSEを背負って3人がやってくる。開幕は「17才」だ。この10年、という観点からするとやや意外に思えた選曲だったがやはりこのライブは【This is The Base Ball Bear】なのだ。17才から始めたバンドの、20周年の景色の始まりにこの曲を持ってくることは必然だろう。温かなクラップが場に祝福のムードを漂わせていく。そして間髪入れずに硬質なベースラインとしなやかなドラミングが重なり「DIARY KEY」へ。

最新モードたる「DIARY KEY」でのシリアスで切実な生活の描写は間違いなく20年の重みを感じる。そして《To alive by your side》とこのライブで歌われることの意義深さも強いが、思えば「17才」にも《いつでも飛ばしてよSOS》とあった。時は経てど、聴き手の心の奥底に沁み込む曲を届け続けてくれていたことを強く実感するオープニングだった。そして何より、演奏の抜けの良さと力みのない歌唱に、過去2回からの大きな飛躍を感じてグッとくる。3曲目に終盤の定番曲の「LOVE MATHEMATICS」を投下し、最初のブロックをしっかり盛り上げきって終える姿もどこか余裕すら感じた。今日の武道館は一味違う。レーザーが飛び交う曲中、かなりワクワクしていた。


最初のMCでは正直、かなりの緊張が伺えた。しかしその、ありのままを素直に見せている感じが気を張りまくっていたこれまでとは全く違うように思えた。メジャーデビュー曲を、という触れ込みで始まった「GIRL FRIEND」以降は、ベボベが作り出してきた"ラブ"の要素が強い曲をずらりと並べてきた。今回のライブで最も意外な選曲に思えた、3ピースではあまり披露されてこなかった「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」。たっぷりと情感を積み上げるイントロ、ブルージーなギターソロ。レア曲とは思えぬ仕上がりっぷり。そういえば"ラブレター"は20周年の新曲「海になりたいpart.3」の歌詞にも出てくる。この曲はその予告編のようなイメージも付随していたように思う。


3ピースに鳴ってからほとんどのライブで演奏されてきた「short hair」も特別な輝きを放っていた。言うなればスタンダードでど真ん中なギターロックナンバーが色褪せることなく大きな会場で鳴る様はベボベが過ごしてきたゼロ年代シーンが誇るべき景色だと思った。そして5月の日比谷ノンフィクションIXで解禁された「初恋」がスケール感たっぷりに行き渡っていく。別に大きな会場でやることに意味があるかと言われればそれは分からないのだが、ベボベって大会場が似合う曲もこんなにあるじゃないか!と頼もしくなった。最後の長いギターソロの間、時空を行き来しながら様々な時代の恋や愛の名場面へと触れていくようなこのブロックの終わりを噛み締めていた。


2度目のMCでは、小出祐介(Vo/Gt)がMCで舞い上がっていることを認めつつ、しかし武道館を楽しめていることを明かす。関根史織(Ba)も堀之内大介(Dr)もいつも通り過ごしたことを明かしつつ、関根はスタバでファンのツイートを観て涙し、堀之内は最初から感極まり続けている。自然体だけど特別な場所にいるという感慨も溢れる、そんな理想的なマインドが今の3人はあるように見えた。3人がリレーでボーカルを取る「ポラリス」は、この編成になってからのテーマソング。小出は堀之内の歌唱中にドラム台に腰掛け足をぶらぶらさせているし、すごく丁度いい緩やかさがあった。武道館を楽しんでいる、と思った。もう立ち向かうべき壁ではなくなったのだな、と。

しとやかなギターフレーズが鳴り、久々の演奏となる「ホワイトワイライト」だ。リリース自体は2009年だが、遡ればこの曲はアマチュア時代からあり小出が18歳の時に作ったもの。言うなれば青春の当事者として書かれた曲であり、若々しい描写が光るのだが《"暗い未来はいらない"》や《忘れたくない気持ちがあるなら 忘れないよ、残しておこう》という言葉は今聴くと更にずっしりとした意味を持つ。新旧の所信表明とも言えるようなこの2曲の先、鳴らされたのは最新アルバムから「海へ」だった。個人的にはこの流れが最も涙腺をぶっ壊した。切なげなメロディで静かに思い出や記憶を抱きしめながら永遠や《終わらない予感》を歌うこの曲がここで鳴る素晴らしさ。


青春の日々を振り向きながら《失くしたものにも どっかでまた会えるのさ》と続けたこの流れは、大きな喪失や悲しみの先に今いるベボベを強く肯定しているようで涙が出た。「ホワイトワイライト」の言葉を借りれば《淡く暗くはない未来》に今立っているということ、その歴史の重みをしかと受け止める時間だった。そして眩いイントロが会場を満たす「changes」が鳴り、この曲にまたしても意味が足される瞬間を目撃することになった。アルバム『新呼吸』を経て、3ピースバンドになって、そして20年を迎え。この曲があらゆる節目を彩るに相応しい曲に育ったのも、ベボベが永遠に変わることを止めないバンドだからだ。逞しく光り輝くアンセムの真価を感じ取った。


本編最後のMCで小出はここに集まった観客への感謝を述べたうえで、今この場所に立てているのは「この3人で頑張ってきたから」と力強く語っていた。思えば10年、自分たちのギターロックを深く探究するうちにとてつもない地肩を仕上げることになったバンド。そんな彼らが今、鳴らしたいモードが"キッズな気持ちで演奏"だと言うのだからとても晴れやかな気持ちになった。そして披露されたのは20周年アニバーサリーソング「海になりたい part.3」。バンドの持ち味である清涼感を着飾らずにぶつける、これ以上ない記念碑的な1曲だ。バンドを健やかに営む、そんな喜びにベボベが辿り着くことになるとは正直2012~2015年あたりは思いもしなかった。間違いなく、最高の夜。

続くのは3ピースバンドとして再始動した頃に生まれた「すべては君のせいで」。音源ではシンセが煌めく1曲だが、ライブではタイトなグルーヴでソウルフルなアレンジに仕上がっている。そう、ここからが今回の武道館のピークポイント。この10年間で大きな進化を遂げた関根のベースプレイと更に多彩な技術を獲得した堀之内のドラムが織り成すリズム隊を全面に打ち出した楽曲による、強烈なダンスタイムだ。「「それって、for 誰?」part.1」のディスコチックなアンサンブルが肉体をグイグイ踊らせてくる。冷静かつ批評的な視点を持つ鋭い1曲だがこの日は至高のパーティーナンバーとして機能していた。小出が《武道館を for you》なんて歌詞変えもしちゃうくらいには!


濃厚なファンクネスが渦巻く「十字架  You and I」の爆発力は凄まじかった。思い返せば、小出のギターカッティングや横ノリのグルーヴを追求し始めたのは2010年のこの曲から。当時はやや特殊な1曲として認知されていたはずだが、今となっては鉄壁の演奏を味わうにうってつけの1曲だ。そして小出のラップから幕を開ける「The Cut」が武道館のハイライトを担っていたのは特筆すべき点だろう。こちらも当時はどう受け取るべきか迷うような、小出の言葉で言えば"ふるいにかける"曲の走りだったと言える。しかしどうだ、もはやあの引き締まったキメと怒涛のように押し寄せる曲展開が欲しくてたまらなくなってる。自分たちの音楽を、皆勤賞でやり続けることの強みだ。


間髪入れずの「Stairway Generation」が終盤をちらつかせてくる。しかしこのシリアスな1曲が更なる決意の歌として聞こえるようになるとは、と驚いた。2009年当時の決死な《繋がれますか?》とはまた違う、タフでどっしりとした、雄弁な歌詞の響き方をしていた。解散なんてするわけない、と確認し合う時間もMCであったが、その言葉通りまだまだ先があると思わせてくれる。そして本編ラストは1回目の武道館で1曲目だった「ドラマチック」だ。あの時のように狂騒を煽ることなくじっくりと、それでいて瑞々しく奏でられたこの曲。《ありがとうしか浮かばないフラッシュバック》とは、最初のMCで小出が語っていた「感謝の気持ちを隅々に」ってこのことかも、と。


アンコールはステージの明かりが落ちたままで始まった「風来」。開放感とどこか安堵感すら漂う風通しの良いプレイで、《次の旅 思うよ》と歌われるのだからどこまでもついていきたくなる。来年のツアーも発表されたが、それはもう「Tour 2023 "風来"」で良いのではないだろうか。改めて、解散をしないという強い宣言も3人から聴いた上で、堀之内の熱血すぎるタイトルコールからのインディーズデビューアルバムのタイトル曲である「夕方ジェネレーション」は美しすぎる曲運びだった。めいっぱいの多幸感で会場を揺らし、大団円の雰囲気で満たされ尽くしていた。「どうもありがとうBase Ball Bearでした!」の挨拶で正真正銘のラスト。それは「ドライブ」だった。


コロナ禍の中で作られた「ドライブ」は最新アルバムでも最後を飾っていた。ミドルテンポで優しく語りかけるようなこの1曲。《生きている音がする 何度もくりかえす不器用》という言葉はベボベ自身をそっと包み込んでいるように聴こえたし、《ちょっと愛しているよ》から客電がつき全て曝け出した姿でエンドロールを奏でるベボベの姿はとても頼もしかった。熱狂を起こしまくって現実を彼方へ飛ばしてくれるライブもいいが、リスナーの生活とそっと寄り添うことを着地点に選ぶのがベボベの今のモードであり、20年かけて辿り着いた1つの境地だ。終演後、モニターにThis is The Base Ball Bear、というタイトルが目に入った瞬間、その強さと優しさにまた涙が出た。


紛れもなく到達点のような絶景の中で3ピースの集大成たる強靭な曲を連発し、物語性も高いこのライブ。想像し得る要素が全てあり、その全てが想像を遥かに超えていた。なのに余韻はどこか爽やか。これこそが永遠に続いてく、終わる予感のないバンドが魅せる最高の特別公演だと思った。そして、自分がベボベを聴き続けることはもう人生なのだな、という思いを強くした。ベボベを聴き始めた頃は中学生だったが今やもう15年以上が過ぎ、すっかりライフステージも変わった。当然だ。バンドと同じ分、年も取る。しかし好きな気持ちは新しいまま、アルバムごとに更新され続けている。このライブは自分の人生でこのようなバンドに出会い、長く追える幸せがあることを確かめる夜だった。一生、楽しみが尽きないバンドがいるって最高だ。

<setlist>
1.17才
2. DIARY KEY
3. LOVE MATHEMATICS
-MC-
4. GIRL FRIEND
5. LOVE LETTER FROM HEART BEAT
6. short hair
7. 初恋
-MC-
8.ポラリス
9.ホワイトワイライト
10.海へ
11.changes
-MC-
12.海になりたい part.3
13.すべては君のせいで
14.「それって、for 誰?」part1
15.十字架 You and I
16. The Cut
17. Stairway Generation
18.ドラマチック
-encore-
19.風来
-MC-
20.夕方ジェネレーション
21.ドライブ

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