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2022.11.16 MOROHA × 蛙亭、挫け昂るということ

MOROHAがお笑いコンビを迎えて敢行している全国ツアー。名古屋ReNY Limitedのゲストは蛙亭。蛙亭といえば、イワクラがゴッドタンの「マジ歌選手権」でMOROHAをオマージュ(本人はパクったとこのライブで言っておりました)をして、自身の笑いへの想いを叫んだことは有名な話。その後、対談などを経て今回の対バンに至った。

サンパチマイクの前にまず登場するのは蛙亭だ。ツカミでイワクラはMOROHAのファンとしてその出会いや「マジ歌選手権」の話などを語気強く話す。そのマジ歌は「女にしては面白い」など今まで作家や先輩に言われた呪いの言葉を蹴散らすような、彼女の笑いへの渇望を刻んだ1曲。そのイメージを浮かべながら観る漫才2本、「少女漫画」と「仕事と私」は笑いながらもグッとくる。この2本とも男女の役柄を逆に演じるという点が斬新に映るのだが、これも定型にはめてたまるかというネタ作りへのこだわりを強く感じる。

そんな、MOROHAに感銘を受け己の道を進もうとしているイワクラに対し、相方の中野周平は「MOROHAは刺さらない」と言ってのけるのだから超面白い。頑張ったことがない、というのが主な理由で、ただ「早くてかっこいい」とは思うらしい。ボケてるわけでも何でもなくマジでこのトーンなのだから、やはりお笑い芸人としての華を感じるのだ。相反するタイプの2人が、ともに笑いめがけて言葉や動きを交わし合う漫才の奥深さを強く感じる。ウマが合うわけでも志が同じわけでなくて、無敵のダブルスになり得るのだ。


10分ほどの転換時間を経てMOROHAが登場。当然ではあるが瞬時に空気は変わる。ツアータイトルの引用元となった最新曲「チャンプロード」でカッと火をつける。先ほどの漫才に登場した“うんちぶりぶり”に値するHipHopの言葉として放たれた「俺のがヤバイ」の切れ味、そして紅白歌合戦落選、キングオブコント準決勝敗退を告げて始まる「勝ち負けじゃないと思えるところまで俺は勝ちにこだわるよ」のリアリティ。この頭3曲だけでもうクラクラしている。僕もどちらかといえば中野君と同じ頑張れない側の人間、だけど僕は刺さらないどころか問いただされる気分になる。


「落ち込むことが多いからお笑いに救われる」とAFROは語っていた。このラップはお笑いを救いとして生まれているものなのだと思うとこの対バンの意義深さを実感する。挫けた心を昂らせる、その一連の流れを1つのライブで体験することができた。またその言葉と技術次第で大勢に届き、成り上がれる可能性があるという点でも音楽(特にHipHop)とお笑いというのは共通項がある。各地でお笑い芸人とミュージシャンの対バンが組まれているのもクロスカルチャーの面白み以上に闘志の共鳴という意味合いもあるのだと分かる。

MOROHAのライブは知らない曲ほどブッ刺さるな、と思う。「家族の歌」と告げられて歌われた曲に刻まれたのは痛みすら覚えるほどの家族との思い出たち。そして「命の不始末」はUKがギターを掻き鳴らす音が新鮮で、どこまでも自分を沈めていくような1曲。しかしやはり後半、「革命」で立ち上がる。何度折れても立ち上がろうとする心の動きを60分の中でこれでもかと観た。恐らくは不倫について歌ったであろう楽曲など、自らの傷を抉り続けてなお、今ここで表現せねばという気迫。生き様でしかなかった。

とまぁ、こんな風に凄さを書き連ねてもホンモノを観ることで得られる衝撃も1ミリも伝えられていないのだが。MOROHAの歌のその全ては、圧倒的にAFROそのものであり、彼がUKのギターの側で放つこと以外は全部ウソなのだ。偶然にも2022年の紅白歌合戦の出演者が発表されたこの日。2017年末の紅白歌合戦を観ながら募った苦しさをぶつけた「五文銭」がとてつもない生々しさで届いていく。息をするのも忘れるほどに見入ってしまった。カチカチに体は固まっていた。


この引き締まった空気の後に蛙亭が登場するというのだから驚きだ。AFRO曰く「俺が笑って帰りたい」という理由の構成になっており、観客の体もどんどんゆるまっていく。コントを2本、こちらも盤石の「マッチングアプリ」と「牛丼屋」。とかくこの2ネタは中野の爆発力が凄まじい。MOROHAが刺さっていようがいまいが、用意されたステージで観客を沸かせまくっていることの格好良さよ。その発声をMOROHA2人とも天才だと形容していた中野のあの透き通った声とギリギリの異常性。終わる頃には笑い泣きしていた。


ライブが終わるとクロストークへ。やはり話題はMOROHAが刺さらない中野が中心。「着ていいよ、だって服だもん」と刺さりはしないがMOROHAのTシャツを着て、「気になってきたでしょう?」とAFROにアピール。そしてAFROもどんどん夢中になっている状態。我が道を信じ進んでいるMOROHAのスタンスは中野くんにも通じているのかもしれない、とすら思えるほど堂々としたものだった。音楽の趣味嗜好は時に諍いを生むしましてや本人を前にして、と思うがやはり笑いはすべてを飲み込んでいくのだな、と。

ライブの最後に、イワクラが蛙亭の単独ライブの終わりにMOROHAの曲を流しながらやっているという「お前らを絶対てっぺんまで連れていくんで」をUKの生演奏でやることに。曲は中野くんが「今日聴いてない曲のほうがいいでしょ?」とファン心理を完全に把握した最高の振る舞いを見せて「tomorrow」。優しくも力強い爪弾きに載せて叫ばれたキングオブコント優勝宣言。マジにして欲しいなと強く思ったし、挫けた先で昂ぶる魂がある限り、絶対にいけるだろうと思えた。MOROHAと一緒にお笑い観ると、熱量の相乗効果で輝きが増した気がする。またやってほしい!



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