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不気味の谷のやくしまるえつこ~2019.12.22 相対性理論 presents「変数Ⅲ」@ Zepp Fukuoka

相対性理論、2018年からのライブシリーズ「変数」の完結編が福岡で開催。理論が福岡でライブを行うのはフェス「CIRCLE'18」以来なので1年7カ月ぶりだが、単独公演は2012年12月にZepp福岡で開催された「位相Ⅲ」以来、7年ぶり。その間に建て替わった同じ会場にて、久々にがっつり鑑賞した。

7年前、開演予定時間15分過ぎたくらいで「出てこいや!」と叫んだオジサンがいて場を凍りつかせていたので、少し不安な気分になってきていた10分押しでスタート。紗幕の向こうにやくしまるえつこ。ほぼシルエットだがバンドメンバーもいる。1曲目は最新曲「NEO-FUTURE」。ダンスミュージックに根差した硬質なビートとスペイシーな電子音が耳を捕らえる。幕にはやくしまるによるグラフィックが映し出されて会場を支配していく。その後、ゆっくりと「とあるAround」へと繋げ、じわじわとフロアを揺らしていった。

「わたしは人類」ではMVと同じフォントで遺伝子の塩基配列を示す無数のAGCTがスクリーン上で蠢き、レーザーでDNAの二重螺旋構造を模したライティングを施すという、今まで観たことないような映像演出が。特異なループ感を持ったこの曲が光の美しさを味方につけて絶頂へと誘っていくものだから3曲目なのにもう終わりなのかな、、と少し覚悟してしまった。実際はそんなことなく、イントロまでをじっくり焦らして始まった「ウルトラソーダ」で幕が外れ、ようやく相対性理論ご一行のご尊顔がお目見えとなった。

「一番長い、夜が始まる。相対性理論、来ませり。相対性理論presents 変数Ⅲ」というやくしまるの短いMCの後、シリアスに急き立てる「キッズ・ノーリターン」が。今回披露された楽曲は近年の2作のアルバムを中心にしつつ、現体制とはソングライターが異なる初期3部作からの「学級崩壊」、やくしまるえつこがソロ名義で発表した「放課後ディストラクション」など幅が広い。バックのLEDモニターには荒いドット加工で抽象化されたやくしまるの姿がリアルタイムで映し出され奇妙で歪んだ空間を生み出していた。

「プレゼントが欲しいなら、いい子になればいいじゃない」というMCの後に放たれた「アンノウン・ワールドマップ」の瑞々しいメロディは、ストレートに胸に沁みて泣けてしまった。<星に願いをかけたりしない/もしも願いが叶うならなんて思わない>と歌いながらも、溢れ出ているじゃん!祈りの気持ちが!ティーンな感傷に浸った楽曲の後に、「地獄先生」を持ってくるのもズルい。もう10年前の曲だけど、あのザワッとする<わたし まだ女子高生でいたいよ>のフレーズを、録音状態のまま放てるボーカルに震えた。

シーサイドももち海浜公園を入れ込んだ「弁天様はスピリチュア」でディープに引き込んだ後、「まっかなお鼻の、ケルベロス」という前口上から「ケルベロス」に。両手に犬の頭のパペットをはめ、ぱくぱくと口を開けるやくしまるえつこはまるで少女のよう。シャンシャンシャンという鈴の音をそのままタイトルに繋げて始まった「上海an」ではリコーダーを無表情のまま吹いていく。その"人じゃない感”は段々と不安になってくる程であり、今この舞台の中心にいるのは人ならぬ何かでは?という気分になってくるのだ。

「人工衛星」などのバキバキの演奏は肉体的でしかないのだが、観客に向け発している様子がないベースの吉田匡、黙々とリズムを構築していく山口元輝もまた、音を紡ぐべくここに居る、といった佇まい。唯一、ギタリストの永井聖一のみはバンド然としていたのだが、やくしまるによって完璧にデザインされたステージングの一部として溶け込んでいた。そんなことを考えている内に終焉を告げる「FLASHBACK」だ。星空と銀河をイメージさせる映像をバックに映し怒涛のクライマックス。「またね」の一言で本編を終えた。

アンコールでは柔らかな「ほうき星」をプレイ。この曲や、本編でやった「救心」「キッズ・ノーリターン」なども7年前のZepp福岡で披露されていたことを思い出して感慨深くなった。バックスクリーンに移されたほうき星の形のイラストが徐々に文字化けしていき、遂に最終曲「ミス・パラレルワールド」へと辿り着いた。どこを取っても中毒性しか忍ばせていないようなこの曲に仕留められて公演終了。やくしまるは最後に「2020年で待ってる。グッナイ」と告げた。もう彼女はとっくに次の時代へと向かっていたのだ。

時空間移動者が未来、もしくは別次元の音楽を届けていた、とも解釈できる一言で、途端に不穏な気分にさせる大どんでん返しな結末のライブであった。優れた芸術作品やロボットによって写実的に創られた"人間らしき顔"に対し我々が覚える恐怖感を「不気味の谷現象」と称するのだけど、まさにそんな気分。ネオフューチャーに存在するアート、というような。最後に永井が観客を写真で撮ったところでようやく現実に引き戻されたくらいには、ずっとドキドキが止まらない。これ、さっきまでと同じ世界線ですかね?家に帰ったらM-1グランプリが開催されてたから、多分大丈夫だと思うけど、、


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