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ラブレターズ、愛は光/『キングオブコント2024』

キングオブコント2024、優勝となったラブレターズのネタは素晴らしかった。バリカンのジュビロサポーターと海釣りナンパ師が浜辺で交差する前衛的かつ混沌とした2本目の決勝ネタも最高だったが、ここで強く語りたいのは1本目。「」と名付けられたあのネタについてである。

引きこもりの息子を抱える夫婦が、息子のズボンのポケットからどんぐりを見つけるところから始まるこの物語。“外に出ているかもしれない”という可能性が少しずつ2人の心を支え直していく導入。リアルなラインの喜びの発露にグッとくる。ここまでの苦しみの蓄積が見え隠れするのだ。

新しいどんぐりが“光”として捉える一方、“昔のどんぐりかもしれない”という可能性もまた“光”となる。息子が側に居た愛しい過去へと思いを馳せることができるからだ。穴の空いた、欠けたどんぐりだからこそ、不完全な家族を照らす光となり、3人が生きた時間を温かく包み込んでいくのだ。

ここで息子に話しかけるいう展開を選ばず、慎重に、そして大胆にどんぐりへと執着していく展開も優しく、それでいてあまりにも面白い。その少しズレた優しさによって集まった大量のどんぐりが弾け飛ぶショット。バカバカしい笑いの中に忍ばされた、格別な祈りに胸が熱くなるのだ。

私がこのコントを観ながら思い出していたのは松田龍平主演のドラマ「0.5の男」だ。引きこもりの男性が家の改築を機に社会へ踏み出さざるを得なくなる物語であり、誰もが世界からズレる瞬間があり、それをいかに包摂できるか、という命題が笑えるオフビートなトーンで描かれていた。

このドラマは主に引きこもり男性の視点から語られるもので、全面的に悲哀は出てこない。しかし通奏する葛藤や物悲しさがあり、今回のラブレターズのコントとも呼応する”家族側の心の揺れ“も描かれる。閉塞していたものが不意に解き放たれる瞬間に、これ以上ない感情が溢れるのだ。

息子が今、外へと繋がっていることが分かるラストシーン。どんぐりの笛が奏でる「少年時代」は3人で過ごした夏を想起させていくだろう。季節は秋。彼はもう次へ進む。「ダメだ、、」と諦めてももう1度吹き直す。そしてメロディは続いていく。きっとこの家族は大丈夫だと思えるのだ。

大きな挫折の最中かもしれない。しかしこうやって立ち直り、また動き出せるということ。ノーミスが要求されるこの社会に対し、”お笑い“が成せることとはこういうネタを作ることなのかもしれないと強く思った。結成17年、5度目の決勝だったラブレターズだったからこそ届けられたメッセージ。世界に向けた愛の手紙、確かに受け取りました。愛は光。優勝、おめでとうございます!!


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