すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』
UNISON SQUARE GARDENが結成20周年を記念してキャリア史上初のベストアルバム『SUB MACHINE, BEST MACHINE』をリリースした。10周年はアルバム曲からのセレクト、15周年はB面集と様々な形でアニバーサリーを祝ってきた彼らだが20周年にして遂に正面突破のシングルコレクションである。
しかしそれはDisc2、Disc3の内容。Disc1は未発表曲たち(サブスク配信なし)に新曲「アナザーワールドエンド」を加えたレアトラック集だ。この1枚を加えることでシングルコレクションから"ベストアルバム"とみなされることになる本作。これらの楽曲を通し、ユニゾンとは何を志向してきたバンドなのかをじっくり考えてみたい。
Disc2/君が待ってると信じるために
Disc2は2015年までのシングルをコンパイル。8曲目までは再録と再ミックスが為され、現在のモードで過去と対峙するような趣がある。この盤に収められているのは、現在の在り方に至るまでの挑戦と苦闘の歴史。青さや若さとともに、ヒリヒリとした質感が刻まれた楽曲ばかりである。
デビュー曲「センチメンタルピリオド」は剥き出しの宣誓だ。《世界の音も聞こえない》まま、《使い古した暫定状態》だとしてもロックバンドとしての理想を叩きつける。また続く「マスターボリューム」も《最新の物差しは僕には関係ない》と世界からの要請を拒みながら、《描いてけ 時代の彼方》と歌う勇ましさに満ちる。ユニゾン楽曲のアイデンティティはこの当時から不変なのだ。
しかし当時セールスは奮わず、レーベル側からは“分かりやすさ”を要求されるようになる。そもそもユニゾンの“分かりにくさ”とは、“音楽そのものの楽しさ”や“ロックバンドのロマン”を言葉や音の全てに詰め込み、捉えがたい高揚感を表現しようとしている点に由来する。メッセージが無いのでなく、状態そのものがメッセージ。難解な歌詞、捻った展開そのものがメッセージなのだ。
「cody beats」はソングライター田淵智也(Ba)が上で述べた時期に作られた楽曲だ。《夜が明けないのを誰かのせいにしてるやつはもうどっか行ってしまえ》とは自分自身に言い聞かせていた言葉なのだろう。続く「スカースデイル」は斎藤宏介(Vo/Gt)による作詞作曲の唯一のシングルとなり、当時の苦闘を示唆する。”分かりにくいロマン“を掴み取ろうとする難儀さが痛い程伝わる。
その先、遂に「オリオンをなぞる」がヒットを掴む。アニメタイアップ、ピアノによる華やかさの開花など様々な要因はあれど《ココデオワルハズガナイノニ》という歌い切りに滲む切実さが届いたのだろう。《つながりたい 離されたい つまり半信半疑あっちこっち》という二律背反な思いはまさに”分かりにくさ“を分かってもらえるかどうかの瀬戸際に立っていた彼らの想いそのものだ。
これ以降、"君"ないしは"あなた"を追い求める姿が多くのシングルで散見されている。きっとどこかで待っている"君"に自分たちの音楽を届けたいと思うこと。伝えたいことを描くのではなく、この音楽を必要としている"あなた"の存在を描くこと。強烈な彩度を誇るハイカロリーな楽曲の中で踊るこれらの言葉が彼らが志すロマンを紐解くヒントとなり、我々に広く届き始めたのだろう。
分かりやすさを拒みながら、無邪気な音楽の喜びを追い求める。その姿勢は「シュガーソングとビターステップ」に結実する。迎合しなかったシーンへの毒気と、美学を貫く幸福感を混ぜ込むことでユニゾンの在り方を示したこの曲。《鳴らし続けることだけが僕たちを僕たちたらしめる証明になる、QED!》と今までの歩みの肯定した末に、最大のヒットソングとして世に知れ渡った。
Disc3/純粋なる高揚感のために
遂にセールスで結果が出たが、彼らは"ロックバンドでいい音を聴かせていく(※1)“、“適した場所でやる”(※2)ことを徹底していく。シュガビタの大ヒットは、その後の名声獲得やステップアップへの足掛かりではなく、あくまで好き勝手にやるための地盤作りに必要なピースだったのだろう。
Disc3のシングルは、1曲を除き全てがタイアップ。作品の世界観の寄り添いながらも、そこで表現される大半は“純粋な高揚感”そのものである。主題歌となる作品のエッセンスを拝借しながら、ユニゾンのアイデンティティたる“音楽そのものの喜び“や“ロックバンドのロマン”を余すところなく捕まえるこの手法は活動を重ねる度に更に洗練され、現在に至るユニゾンの好調を支え続ける。
「Silent Libre Mirage」や「10% roll,10% romance」はタイアップ案件を果たしつつ、ユニゾンのライブ表現の在り方を歌っているように聴こえる。ちなみにワンマンライブにおいてMCがなくなり、音楽そのものだけを現場に残すやり方はこれらの楽曲が収録された『MODE MOOD MODE』のツアー以降に定着。徐々に高揚感そのものとバンドが同化していく時期と言える。
また「Invisible Sensation」の《生きて欲しい》や「fake town baby」の《愛してる この街を愛してる》といったストレートな言葉遣いが不意に差し込まれることが増えた。この変化は、この後に15周年を迎えたユニゾンの”開けてきた姿“の表出と言えるだろう。追い求めてきた“君”との間で結ばれた関係を慈しみつつ、決して分かりやすく/届きやすくはしない意志がそこにある。
これらの意志は、我々が1人残らず経験した危機にも貫かれ続けた。2020年、コロナ禍においてリリースされたアルバム『Patrick Vegee』はその変わらないスタンスが変わり果てた世界にとって安堵するものとして映った。コロナ禍以前に作られていたシングル曲すらその揺るぎないロマンの標榜と剥き出しの肯定が勇気をもたらす。彼らの頑なさが同時代性をも超越してしまったのだ。
本ディスク唯一のノンタイアップ曲「Nihil Pip Viper」はコロナ禍に突入してから作られたシングルである。シュガビタをセルフオマージュしつつ、毒と幸福感、そしてユーモアをもって”コロナ以降“と向き合った曲である。ライブでのルールや感染対策に目を配りつつ、《大事なことはそう 自分で決めようぜ》とも謳う。有事には自分たちの足元を見つめ直す、真摯さの現れだろう。
またDisc3のクレジットにはゲストミュージシャンが多く名を連ね、Disc1,2とはサウンド面は実に豪華絢爛。彼らが求める理想を形作るためならば、アレンジの幅はどこまでも柔軟なのだ。しかし歌っていることは全く変わらない。《結局僕らが勝利しちゃうから/狂騒をくれよ!》と笑う「いけないfool logic」が祝砲のように鳴り響き本作は終わる。高揚感だけが胸に続く、圧巻のエンドだ。
Disc1/もう1つの終点のために
表舞台でユニゾンの在り方を築き上げてきたシングル曲たちを踏まえると、Disc1に収められた未発表曲にもその歩みに必要な痕跡が多く残されていることがよく分かる。本来、世に放たれることのなかったアウトテイク集を1枚目に置くことで“ベスト”の輪郭を濃く浮かび上がらせるのだ。
例えば「レボリューションナンバミー」は今でこそユニゾンらしいタフな天衣無縫っぷりに溢れた曲に思えるがデビュー直後の足掻きの中では身体にフィットしなかったのだろう。「bad music disco」は純粋な高揚感を追求した点でシュガビタ以降の音楽観の萌芽のように見えるが制作当時にはそれを語る説得力が薄かったのだろう。20年を迎えた今だからこそ響く音や言葉が忍ばされている。
「カナシミトレイン」は音像も実直に作り込まれており素朴さ際立つDisc1で異質な曲だが、これは「スカースデイル」とシングルの座を争った逸話がある。先述した「オリオンをなぞる」での爆発に至るまでの田淵が抱えた葛藤の証明として聴くと、普遍性に向けた試行錯誤が胸を打つ。彼は当時どんな気持ちで《大丈夫 笑えるよ 悲しみは景色と共に流れて消えたよ》と書いたのだろうか。
そして”君“への想いも既にここにある。初めてのオリジナル曲「星追い達の祈り」では《言葉で伝えればまたきっと君は消えてしまうから》と音楽で表現することの難しさを思い、「空の在処」では《追いかけては消える花とその花を抱きしめる君》と追い求めるロマンの美しさとその見果てなさを思う。「ナツノヒ」でも幻のようなフィーリングを描き出し、“届かなさ”を思う。最初期からずっと、捉えがたい高揚感を歌おうとしてきたのだ。
届けたい、届かない、届かなくていい、届いてるはず。そんな逡巡や駆け引き繰り返すベスト盤に向けて新曲「アナザーワールドエンド」は書き下ろされた。ただただ届けるためだけに綴られたような言葉と、捻くれることのないサウンドで贈られる、真っ直ぐすぎるほどの“君”に向けた歌だ。
ユニゾンの歩みを振り返れば、特に最初の10年間はどのような形でもバンド活動が終わってもおかしくはなかった。Disc1に収められたアウトテイクたちは別の世界線のユニゾンの姿と言えるかもしれない。Disc2、3の道筋を進んだからこそこの世界線に到達した。「アナザーワールドエンド」はこの20年、そしてその先へと続いていき、永遠の果てにようやく迎えるだろうもう1つの、ただ1つの終点に想いを馳せる温かな1曲だ。
ボツ曲をも輝かせたDisc1によってあり得たかもしれない歴史をも肯定し、積み重ねてきた日々そのものを“ベスト”としてパッケージした本作。その手法自体が分かりづらいし捻くれて見えるが、聴けなかったはずの楽曲までもその歩みの一つと捉える姿勢は他に例を見ぬほどに誠実で嘘がない。その丸裸な在り方もすべてはロマンのために。彼らと同じ時代に居れて、とびきり楽しい。
※1 MUSICA(ムジカ) » Blog Archive » UNISON SQUARE GARDEN、 10年の歩みと特異なるバンド哲学を田淵と徹底討論 (musica-net.jp)
※2 BLOG | UNISON SQUARE GARDEN - official web site (unison-s-g.com) 2019/06/21
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