キーボードを買った
幼いころ、ピアノを習わせてもらっていた。ハハに言わせると自分からやりたいと言ったそうだけれど、当の本人はそんなこと全く覚えておらず、どちらかと言えばやらされていた感満載で、長くやってはいたけれど、やめると言い出せずずるずるやっていたに過ぎなかった。
結婚した時もハハはワタシの婚礼道具にピアノを入れた。
ワタシはこんなもの場所ふさぎなだけだよなと心のどこかで思いながらも「いらない」と言い出すことが出来ず、そのまま持たされるがままに持って行った。
そういうものだから、ほとんど弾くことはなかった。ハハとしては子供でも生まれたら子どもに弾いて聞かせてあげてほしい、なんなら子どももピアノを習うと言ってくれたらいいなと意識の底の底で思っていたかもしれない。
口ではそんなこと思ってもいない、本人がやりたければやればよいと言っていたが、そうとも思わなければあんな良い電子ピアノを持たせてはくれなかっただろう。
今年ハハを見送った。オヤジは数年前に既に見送っているので、両親ともどもめでたくも無事に旅立たせることが出来た。
するとこれまでとは考えられないくらい時間が出来た。
断っておくが両親は二人とも介護が必要だった時期はほとんど皆無に等しい。オヤジもハハも無くなる1か月前までは自宅で暮らし、自ら悟ったのか入院して亡くなっている。自宅にいたときもほとんどのことは自分たちでやっていた。見守りは必要だったけれどこっちが忙しい時は電話やLINEで済ませることもあったし、むしろこちらを気遣って「来なくてもいいよ」という人たちだった。
それでもやっぱり、両親を見送って時間が出来た。この時間をいかに過ごそうかということがワタシの関心となった。
実家を片付けていると物の多さに驚いた。ハハは自分の必要な物しか持たない人だったのに、それでも人1人暮らしているとこれだけのものが必要なんだとおもった。
だから、趣味を探すにあたって「物」が残るものは却下。オヤジは陶芸が好きでやっていたが、本当に物が増えて大変だった。
そこで思い立ったのが、あんなに無関心だったピアノ。
数十年ぶりで楽譜を買った。
「大人のピアノ入門」と言う和音無しでアレンジされた簡単な物。これだったら初見でもそこそこ形になる。
これを初めて2週間。弾ける曲は3曲に増えた。
しかし、ワタシは不満だった。
「指が全く動かない」
自分の意識と身体の動きのずれにイライラするようになった。
・・・ハノンからやろう。
今日、ハノンを買ってきました。
ハノンって「全訳」と書いてあるだけあって、翻訳本なんですね。
「はじめに」を読んであまりに合理的な考えに驚きました。「あとがき」にこの本を一生懸命やれば良いピアニストになれる、というようなことが堂々と書かれていました。しかも「1冊を1回通しても1時間」ということがさらっと書いてありました。
幼少時の自分との意識の違いたるや!
改めて手に取ったものの、毎日練習しようなどとは露ほども思っていないが、あの頃のワタシに言ってやりたい。
「なぜこれを読んで目覚めなかったのか!」
定年までまだ何年もある。それまでに指を鍛えてその時に備えよう。