マハーバーラタ/7-8.前線へ駆けつけるサーテャキ
7-8.前線へ駆けつけるサーテャキ
アルジュナが敵本陣の奥深くまで入り込んでいく一方で、
パーンダヴァ軍の本陣はドローナの猛攻撃を受けていた。
アルジュナ不在のパーンダヴァ軍は劣勢となり、
ユディシュティラは自らドローナと戦っていた。
窮鼠のごとくドローナに立ち向かい、
ドローナはブラフマアストラを使って自らを守るほどであった。
その後、ドローナが戦闘馬車でユディシュティラに近付いて鎚矛を投げつけた。
ユディシュティラもまた鎚矛を投げつけた。
二つの鎚矛は激しい音を立てて火花を散らし、ユディシュティラの旗が落ちた。
ドローナがさらにユディシュティラに近付き、
馬を殺し、戦闘馬車を破壊する一撃を放った。
ユディシュティラは戦闘馬車から飛び出し、地面に降りた。
ドローナはそれを見逃さず、気を失わせるアストラを放った。
ドローナがユディシュティラを捕らえたと確信した瞬間、
サーテャキが現れ、ユディシュティラを戦闘馬車に乗せて連れ去った。
ユディシュティラ捕獲を失敗したのはこれで三度目であった。
一度目はアルジュナによって防がれ、
二度目はユディシュティラが自ら逃げ去り、
三度目はアルジュナの弟子サーテャキによって防がれた。
ドローナは怒りを露わにしてパーンダヴァ軍と戦い始めた。
次第に混戦模様となっていった。
この日、ガトートカチャとアランブシャによるラークシャサ同士の戦いは遂に終わりを迎えることとなった。
二人は長い時間戦った後に、マーヤーの術を使った戦いを止め、素手での格闘を始めた。ガトートカチャの戦い方はまさに父ビーマそっくりであった。
鷹が獲物を捕まえるようにアランブシャに飛び掛かり、
その体を空高く持ち上げ、地面に叩き落とした。
その衝撃でアランブシャの体は粉々に砕かれた。
パーンダヴァ軍から歓声が起こった。
ユディシュティラは甥ガトートカチャを抱きしめた。
ビーマも息子の偉大な功績を喜んだ。
その時であった。
クリシュナのほら貝パーンチャジャンニャの音が聞こえた。
一緒に聞こえるはずのアルジュナのガーンディーヴァの弦の音は聞こえなかった。
実際にはクリシュナがほら貝の音でわざとガーンディーヴァの音をかき消していた。
『このままでは時間が足りない』
そのメッセージをアルジュナには知らせずにユディシュティラに伝えることに成功した。
ユディシュティラはサーテャキの所へ急いだ。
「クリシュナが助けを求めている!
敵本陣で緊急事態が起きている。
今、我が軍でアルジュナを助けられるのはあなただけだ。
アルジュナの最愛の弟子であり、
ヴリシニ一族の中でクリシュナ以外では最も高く評価されているのがあなただ。
私もあなたを高く評価している。あなたは我が弟ビーマに匹敵する。
私の心配はいらない。ここにはビーマがいる。
彼がドゥリシュタデュムナと共にドローナの軍と戦ってくれる。
どうか我が弟アルジュナを助けてくれ。
彼は夜明けからずっと一人で敵本陣の膨大な軍の中で戦い続けている。
クリシュナに守られているのは分かるが、それでも心配なのだ。
彼はもう疲れ切っているはずだ。
そして、もう太陽が西に沈みかけている。
早く! 早く行ってくれ!! 頼む!!」
サーテャキはユディシュティラを安心させようと声をかけた。
「お気持ちはよく分かります。
私も同じ気持ちです。我が師アルジュナの命は私の命より重い。
そしてあなたが私のことを大事に思ってくれていることも分かります。
しかし、私は行くべきではないのです。
あなたを守るという役目を引き受けました。
ドローナの脅威はまだ去っていません。
もし私が前線へ行って、その間にあなたが捕らわれたとしたら、
アルジュナは私に失望するでしょう。
ユディシュティラ王よ、どうかアルジュナのことは心配しないでおきましょう。きっと彼はやり遂げるでしょうから。
そして、私があなたを守らなければならないのです。
ビーマとドゥリシュタデュムナだけでは難しいでしょう」
「あなたの言う通りだ。しかしアルジュナを失うわけにはいかないんだ。
ビーマとドゥリシュタデュムナ、そしてここに残る全ての英雄たちが私についている。大丈夫だ。行きなさい」
サーテャキはユディシュティラに従うしかなかった。
「分かりました。そうしましょう。
我が師アルジュナの兄であるあなたの命に従います。
私の心は愛するアルジュナと合流して戦うことを想像して高鳴っています。
クリシュナと同じように私はパーンダヴァの為に命を捧げる覚悟をしています。
今から敵軍の本陣へ向かい、アルジュナの進む道を邪魔する者を全て殺してみせましょう」
サーテャキは馬をしばらく休ませ、敵陣へ向かう準備を整えた。
彼自身もこの日のドローナとの激しい戦いで疲れていたが、
それを気にかけようとはしなかった。
その疲れを感じるよりも、アルジュナの所へ行って偉大な功績を成し遂げることを想像して興奮していた。
そして、これから向かう敵の本陣の方へ目を向けた。
一つ目のヴューハは既にアルジュナが壊滅させていた。
問題は二つ目のヴューハを守っているドローナであった。
サーテャキはユディシュティラに挨拶をし、足元の塵を手に取った。
ライオンの旗を掲げた戦闘馬車に乗り込み、微笑みを浮かべる彼の姿はまるでクリシュナのようであった。
サーテャキの旅が始まった。
彼は見送りに来たビーマに話しかけた。
「ユディシュティラ王の命により、アルジュナの元へ向かいます。
今朝アルジュナはユディシュティラの守護という重責を私の肩に乗せた。今、この重責をあなたの肩に乗せます。あなたならそれができます。
ですが、ドローナの攻撃に対してはくれぐれも用心深くいてください。
私がドローナを突破したら、きっとユディシュティラを連れ去りに来るでしょうから」
「任せろ! 難しい役目だというのは分かっている。
ドゥリシュタデュムナと共に兄を守ってみせる。
サーテャキ、さあ行け! 手遅れになる前に急ぐんだ」
二人はしばらく抱き合った後に分かれた。
彼を見送り、ドゥリシュタデュムナの傍に立っていたユディシュティラの所へ戻ってきた。
「サーテャキは栄光と共に帰ってくるだろう。
さあ、あの怒り狂ったブラーフマナ、ドローナの攻撃に備えよう」
サーテャキは今朝アルジュナが通った道を進んだ。
襲ってくる敵達を蹴散らしてドローナの前まで進んだ。
二人の戦いが始まった。
お互いに矢や槍を放ち、猛烈に戦った。
ドローナは微笑んでいた。
「サーテャキ、あなたの目的は分かっている。
あなたのグル、アルジュナの所へ行きたいのだろう?
彼が今日私と会った時にどんな風に振舞ったか知っているか?
あなたのグルは臆病者だ。
戦おうとはせず、敗北を認めて私にプラダクシナをして去っていった。
私を殺さない限りここを通すことはない」
サーテャキはアルジュナが取った簡単な方法を知って微笑んだ。
「生徒にとってグルの足跡を辿ることほど光栄なことはない。
私のグルがそうしたのであれば、臆病者を演じることは誇りでしかない!」
そう言いながら戦闘馬車の向きを変え、
ドローナの周囲を回ってプラダクシナを作り、走り去った。
怒り狂って追いかけてくるドローナを尻目に御者に命じた。
「急いでくれ! ドローナが追いかけてくる。彼に構っている暇はない。
目の前にいるバールヒーカの軍の横にラーデーヤの大軍が見える。
あそこへ向かってくれ。ラーデーヤの所から突破する!」
サーテャキは急ぎながらも冷静に敵軍の中を進んだ。
彼の戦いぶりはまるでアルジュナそっくりであった。
目の前にクリタヴァルマーが現れた。
同じ一族でありながら敵に味方している従兄弟に怒りを露わにした。
たくさんの矢で彼を覆い、槍で御者を殺した。
クリタヴァルマーは自ら手綱を握って戦い続けようとしたが、
サーテャキは既に遠くへ行ってしまっていた。
ドローナがドゥルヨーダナと弟達を連れて攻撃し始めた。
ドゥルヨーダナは勇敢に戦い、サーテャキの弓を破壊し、さらに彼の体にも矢を当てることに成功した。
それでもサーテャキは全く怯むことなく戦い続けた。
ドゥルヨーダナの旗を落とし、馬達も殺した。
ドゥルヨーダナは戦い続けることができず、戦場から離れていった。
クリタヴァルマーが追いつき、再び戦い始めた。
サーテャキの御者が攻撃を受け、気を失った。
サーテャキは自ら手綱を握って片手で戦い続けた。
クリタヴァルマーに向かって放った矢が鎧を貫き、気を失わせることに成功した。
今度はドローナがサーテャキと戦った。
二人はしばらくの間戦い続け、ドローナの御者が傷付けられた。
ドローナもまた自ら手綱を握りながら戦った。
サーテャキが馬に矢を当てると、馬はその痛みに耐えきれずにドローナを乗せたまま逃げていった。
ドゥルヨーダナと弟ドゥッシャーサナは投石の軍を送り込んだが、
全てサーテャキの矢によって破壊された。
ドゥッシャーサナがサーテャキと戦い始めたが今日の彼には全く歯が立たず、弓も戦闘馬車も失い、成す術を無くした。
しかし、サーテャキはビーマに誓いを果たさせるために彼にとどめを刺さず、去って行った。
サーテャキはさらにたくさんの敵軍の戦士達と倒しながらさらに速く進んで行った。誰も彼を止めることができずに敗走していった。
その戦闘馬車が駆けていく姿はまるでアルジュナと見間違えるほどであった。
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