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第一の人生 漢陽(ハニャン)

雲から降り立った私が目にしたもの
それは町だ。
城下町?
通りの左右にはいろんなお店が並んで人々が忙しく往来し、賑わっている。
近くには川が流れている。(※1)
風水的に重要な川のようだ。

「そこはどこですか?」
と、セラピストが言う。

「う〜ん、、、中国?のようなところです。」

「町の名前はわかりますか?」という問いにすかさず私は
「ハニャン(漢陽)」と答えた。

「では、進みたい場所に進んでみてください。何が見えますか?」
「門」

門は、きちんとした石組で作られていて、朱色に塗った木の扉がある。
上を見れば、光化門?のような漢字が見える。
門の向こうは広大な敷地で、中央の広場からお城が見える。
二段重ねの朱塗りの瓦屋根の城だ。
中央は石畳で、石畳をゆっくり歩いて進んでいく。
まるで韓国時代劇のような佇まいだ。

「お城の中に入ってみてください。誰がいますか?どんな格好ですか?」
奥に王座があり、玄関のような広間には左右にたくさん家臣達がいた。中央の道はあけてある。濁った赤?朱色のような衣装を着た人々、濁った青のような衣装を着た人々で、皆、頭を下げ、目線を下げている。
「昔の、、、中国や韓国のような着物を着ています。」

「あなたはどんな格好をしていますか?同じ格好ですか?」
ふと我にかえると、自分が何者なのかがわからない。
20歳前後の女性で、どうやらここに住んでいるらしい。

「家臣達とは違います。女性の服装です。」
上は、白っぽいような水色の着物でネイビーの帯のようなものがついていてて、スカート部分は色が違っている。髪は結ってある。

「ここに住んでいますか?」
はいと答える。
「ここですが、ここは仕事をする場所で私は離れに住んでいます。城の敷地内です。」

「あなたは誰ですか?」
「・・・側室。一番上の側室。」

「位があるのですね。」
「はい。一番上です。上ですが、虚しいものです。」

「王妃は知っている人ですか?」
「はい。元義母です。貧しい出の私が困らないよう、守ってくれたり配慮してくれてとても優しいです。仲は悪くはありません。」

「ではなぜ王宮に来たのですか?」
私は小さな村で祖父と共に暮らし、父母がいなかった。
王子が嫁候補を探していると王宮から使者がやってきて、村の若い女の子達を数名連れていくことになった。
その村から嫁が出れば、その村には見返りがあり、村が潤うのだ。
祖父一人ではもう働けないので、私は村と祖父のため、出稼ぎの嫁にいくことにしたのだった。
自由に暮らすことはもう出来ないけれど。

「選ばれたのですね。」
「はい。でも私は王子は好きではありません。」

「王子は誰ですか?」
「前の旦那です。」

「では、お部屋に行ってみましょう?どんなお部屋ですか?何が見えますか?」
私は城の中を歩き、庭を眺めながら少し離れた部屋に着いた。
部屋を開けると、オンドル(床暖房)式の床があり、螺鈿の
机があった。机の上には贈られた翡翠のかんざしがあった。
「・・・ピニョ」

「それは何ですか?」
「もらったかんざしです。」

「誰にもらいましたか?」
「王子」

「それではこの人生で大きな出来事があった時に行きましょう。何がありましたか?」
「先代の王が亡くなり、王子が王になりました。そして、生まれた子供が殺されてしまいました。男の子だったので。王妃のせいにしたい勢力が仕向けた罠です。」

「王子はどう動きましたか?」
「何も・・・」
ただ、傍観していた彼は何も知らぬ顔で王として君臨している。

「村に帰れますか?」
「無理です。祖父も亡くなり、身寄りもありません。」

私についた勢力がクーデターを起こすならば、相手の思うツボであり、私はそれを避けた。ただ唯一の平和な選択が、側室として、別れることも、村に帰ることもせず(それも許されない)、この宮廷の中で逃げられずに死ぬまでただ毎日を過ごしていくだけだった。側室は後にたくさん入ってきただろうけれど、私にはどうでもいいことだった。
何不自由ない暮らしでも、人生は虚しく心は貧しく、ただの飾りのような人生だ。

「好きなことはありますか?」
「う〜ん、特に何も。鳥を見ることぐらい。」

「では、死の直前に行きましょう。どんな感想ですか?」
「やっと終わりました。」

「あなたの魂がこの人生で得ようと思った目的は何ですか?」     「自由、、、を知るための不自由。」

「ここで得たものは何かありますか?」
「カルマの解消。」

「この人生で何を学びましたか?」
「・・・我慢。」

現生でのカルマの解消を促すための前世だった。
全く同じことが繰り返されていて、
前夫は、私を罵倒し続けたけれど、言い返すことを途中から諦めたのだった。でも逃げられなかった。カゴの中の鳥のようだ、と思いながら。
この結婚では、義母だけが自分がほっと安らげる人だった。
本当の娘のように思い、親の愛を教え、与えてくれた人だ。
子供は、いなかった。と言うよりは、一度流産していたため、前世で持てなかった子供が一瞬だけやってきて、やはり去っていったのだった。
その時私はいなくなった瞬間にわかり「これでいいんだ。」と思ったことを思い出した。
なぜならば、罵倒され続け、子供を守り切れないと察した私は子供を作らないことを彼に宣言していたのだった。
まるで主従関係だけど、王には誰もが逆らえないのだ。
実は、それを現生も引きずっていた家族関係だった。
彼は韓国系の家柄で、家の中でも韓国語の単語が飛び交っていた。
その中で家族は、彼を「ワン」(王)や「ワンジャ」(王子)と皮肉って言うことがあった。彼がまるであたかも自分が王のように偉そうに言う言動や振る舞いから、そう呼ばれていたのだ。
結婚してる間もその前も私は、『不自由の中に自由を見出す』ことに生きがいを感じるように自分で仕向けていた。その目的のためにさまざまな考え方を学んだのであるが、一番大きかったのがヨガの教えだった。
私は『非暴力』であること。
この現生の結婚生活の部分は、セラピストに事前インタビューであらかじめ答えていた。

「そんなことがあったのに、あなたは言い返さず、新しいカルマを作らないでいたのですね。」
とセラピストに最後に諭されて、自分は間違っていなかったのだな、とほっと安堵し、ここで初めて自分を肯定することが出来た。

新しいカルマ、、、いや、きっとそうじゃない。
逃げ出すことが出来なかった自分が弱かっただけだ。
非暴力もきっと使い方を間違っていて、相手に対しては戦わないけれど、自分に対しては自分で自分を傷つけながらずっと逃げられず我慢していただけだったからだ。
それを勇気を出して、何年もかかった上でやっと飛び立てたからこそわかることだ。
籠の中の世界しか見えてなかった視野の狭い鳥は自分だったのだと知った。


編集後記:                             漢陽は、中国かと思ったけれど、後で調べたらソウルのことだった。
光化門は、景福宮(キョンボックン)で、景福宮には王妃や側室、女官のための住まいがあったそうだ。
※1の川は清渓川(チョンゲチョン)だと思われる。漢江(ハンガン)だと郊外になり大きい川だから。

側室の位にもたくさんあるのも調べてわかった。
その位別に名前がついているのだそうだ。名前まではわからなかったけれど、トップの側室は、王子を産めば嬪(ビン)、産んでいない場合は貴人と呼ばれるとのこと。






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