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【奴隷日報】心を亡くした人間と、お金を亡くした奴隷。
人間に入って8日目となった。
既に「シャニカマ」という名前が定着し、社員メンバー以外の方々からも呼んでもらえている。
そんな私が社内で唯一ランチに行っていない人間がいる。
武藤さんだ。
奴隷として採用された時のnoteにも書いたが、武藤さんの入社ブログは人間の中で一番好きな作品の1つだ。理由はタイトルを見ればすぐわかる。
「#胸板が厚い」
まるで意味を成さないハッシュタグ。
事実、人間側にも意図は一切なく、武藤さんもブログ内で胸板については一度も触れていない。そして何より実物の武藤さんは胸板がやや厚い程度なのだ。
最高に面白い。
もう大好き。
そんな愛すべき武藤さんが一昨日「朝から荷物の運搬をしたいから手伝ってくれん?」と頼んできた。もちろん奴隷に断る権利も理由もないので「はい喜んで!」と即答。
翌朝、いつもより1時間早く出社して重い重い荷物を運搬した。
元奴隷の佐々木さんも当然のように駆り出されていたのが少し面白い。
朝から大汗かいて仕事を手伝った後、武藤さんは「アイスおごるよ」とセブンイレブンのアイスコーヒーをご馳走してくれた。しかもラージサイズ。
なんて慈悲深いんだろう。
わたしは奴隷なのに。パンくずでも小躍りするのに。
人間で一番優しい男かもしれない。
武藤さんは。
もしかするとお昼も奢ってくれるかもしれない。
何なら財布とか時計とかくれるかもしれない。
「武藤さん、明日ランチ行きませんか?」
勇気を持って聞いてみた。
「もちろん、行こうよ」
そう、素敵な笑顔で返してくれた。
主人公やん。
そして今日、13時からランチをすることになっていた。
なっていた。なっていたのだ。
12:55。
武藤さんの様子がおかしい。
Macを片手に持って開いたまませわしなくオフィスを駆け回っている。
12:57。
何やら武藤さんがペコペコしている。
花岡さんに詰められているのかもしれない。
12:59。
武藤さんがやってきた。
「ごめん、今日無理だわ」
期待したのに、楽しみにしていたのに。
時計も財布ももらえなかった。
その日は社内全体がそわそわしており、結果的に誰ともランチへ行くことが出来なかった。何ならみんなの弁当を買いに行った。
わたしは唐揚げ弁当を待ちながら、前職の創業者が言っていた言葉を思い出す。
"忙しい"と言う時は『心を亡くす』と書きます。
忙しい時こそ、心無い言葉や行動には気をつけなさい。
そうか、まさにそう言うことなのか。
だったら武藤さんは正しい。
わたしは変な会社に入ったんだ。
教訓めいた真っ当なことを言ってちゃいけない。
だったら前職とは真逆の会社であるべきだろう、そうだろう。
心を亡くしてこそ「人間」だ。
だから武藤さんは正社員になったのだ。
もっと仕事をして、忙殺されて、心を亡くそう。
ふと思い出す。
弁当代をもらい忘れている。
そんなことに執着している時点で忙しくないのだ。
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