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【小説】くの一が如く(1)

第1話 夜明けまえ

                              2話→

#2032年  9月24日

「日本のみなさんこんばんは!  こちら豪州・ブリスベンは昼間はぽかぽかした春の涼しい陽気でしたが、夕方から一気に冷え込んできました。夜空には南十字星がキラリと見えています」

「スタジアムは10万人の超満員です。日の丸の旗を持った日本からのファンもたくさんつめかけています。今日はオリンピックの華、陸上のトラック最終種目であります、女子の4*100mリレーの決勝をお伝えします。32年前の今日、同じ豪州・シドニーであの高橋尚子さんがマラソンで日本女子陸上初の金を獲りました」

「注目はなんといっても、オリンピック史上初めて決勝に進出した日本が悲願のメダルを獲とれるかでしょう」

「そうですね。前回2028年のロス五輪は9位で予選落ち、昨年の世界陸上は惜しくも4位でしたからね。なんとかしてメダルに食い込んでもらいたいです」

.....

「さぁ、スタートのレーンの紹介です。2レーン イタリア、3レーン イギリス....8レーン 日本!! 1走 中川さくら 2走 桜井 陽菜 3走 田原七海 4走 鈴木 結衣」

「今やおなじみのメンバーです。1走さくらは正確で精密なAIスタート、2走陽菜はガールズコレクションに出たモデルと2刀流、3走七海はママさんランナー、アンカー結衣は100mで7位入賞。そして1走から3走の出身は高校から一緒で.....」

「シーーッ!」

「オン・ユア・マーク」

「セット」

パァーン!!

「がんばれー!! ファイト―!!」
「いけーっ!」
「Common!!」
 ワーッ!!!

「さぁスタートしました。先頭は、アメリカか、ジャマイカ、日本はどうか⁈」
「いいっ、いいですよ!」

#2021年7月インターハイ・バスケットボール  東京都予選

「リーバウンッ!」
「ディーフェンス!」
 ピピーッツ! 
「ワワーッツ!」

「帝都高校111 対 小向高校31で、帝都高校の勝ちです」

「ありがとうございました!!」
「ありがとな。ウチらの分まで絶対インターハイいってな」
「ウン、任しといて」

「ウッ、ウッ」
「はるはる泣くなバカ!」
「だって3年の先輩たちこれで引退だよ」

「そうだけど、ウチらはまた来年もあるんだから」
「たしかに。もう1年練習して3ポイントを決めたり、リバウンドもっと取れるようになれるんじゃね」
「でも...」


 さくら,陽菜(はるな),七海(ななみ)は大の仲良し。さくらは背が低いが筋肉質の体型、あねご肌のしっかり者で”さくちん”と呼ばれ、陽菜は色白い美人で長身で細く、おとなしくて”はるはる”と呼ばれ、七海は頭脳明晰で某WEBのように知恵袋の担当で”みーなな ”と呼ばれていた。

 バスケットの強豪校に大敗した練馬区の都立小向高校に通う3人が帰るところは同じだった。寮ではない。もちろんシェアハウスでもない。

 そう児童養護施設だ。児童養護施設とは、簡単に言えば...

『事情により子どもが親から離れて生活するところ』である。

さくらは6歳の時から、

陽菜は9歳の時から、

七海は11歳のときから、

この施設で暮らし育ててもらっていた。3人は東京にある”光が岡園”で。


 その日の夜、施設でいつものように夕食をとっていた。

本橋指導員
「みんな今日は頑張ったね。お疲れさん。たくさん食べなよ」

直子保育士
「ホント、あなたたちは光が岡の希望よ」

さくら
「でもー、2回戦敗退です」

七海
「あんな強いの反則だよ! 100回やっても勝てる気がしない」

陽菜
「来年は出たいなぁ、インターハイ」

さくら
「もちろん出たいけどさぁ、現実的じゃないないよねー」

七海
「もういいよ。バスケは忘れてTikTok撮ろうよ」

さくら
「だね!」 

陽菜
「さんせー」


 施設の温かいスタッフにも恵まれて、高校2年生の三人は平穏な毎日を送っていた。


 この時、自分達がそう遠くない将来に日本を代表するスプリンターになるとは知る由もなかった。


つづく


◎登場人物

中川さくら/さくちん 158cm あねご肌

桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人

田原七海/みーなな 166cm 知恵袋

本橋 光が岡園 指導員

直子 光が岡園 保育士



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