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ストーリープレイングの定義
釣られましたね?
はい、いらっしゃいませ。
しゃみずいでございますよ。
タイトルに釣られてやってきましたね?
しゃみめが偉そうにストーリープレイングの定義について話をすると思って来られたのでしょう。
残念。
しません。
定義付けなんて、しゃみめはしません。
言葉というのは、必ず意味を変えます。
変わらない意味を持つ言葉なんてありません。
蒲鉾と竹輪
その昔、『蒲鉾(かまぼこ)』という加工食品がありまして。
白身の魚をすり身にし、細かい竹に塗り付けて焼いたのが、蒲(がま)の穂や鉾(ほこ)の形に似ていることから、蒲鉾(かまぼこ)と名付けられたのだとか。
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……白身の魚をすり身にして。
……細い竹に塗り付けて。
……焼く。
うん。それはもう『竹輪(ちくわ)』やないかい!!
ええそうです。今ではそうです。
でも、900年前に生まれた時は、今の竹輪の形のものを蒲鉾と呼んでいたのです。本当です。
で。
この穴の開いた蒲鉾ですが、材料にくまなく熱を通すために薄く竹に塗り付けていたわけですが。
作るのも面倒だし、薄くしかできないのです。
もっと食いでのある形にできないものか……?
そこで誰かが、木の板に厚ぼったく塗りたくって、蒸したのです。
蒸し時間を延ばせば、たっぷりと塗りたくっても熱が芯まで通りますのでね。
で、これも材料だって変わらないわけですから、今までと変わらず『蒲鉾』を呼んだのです。
そして、こっちのほうが食いでがあるので滅法流行りました。
蒲鉾といえば、こっち。板塗蒲鉾を指すのが当たり前となるほどに。
こうなると困るのが、元祖蒲鉾であった穴あき蒲鉾です。
形が違えば、触感も違う。
こうまで違うと名を変える他ないわけで。
変えました。
元祖蒲鉾のほうの名前を。
竹を使って、真ん中に輪ができる。
よし、今日からお前は『竹輪』だよ!
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竹輪は思ったことでしょうよ。
「え~……。オレが本家本元の蒲鉾なのに……」と。
竹輪の不平不満は取り上げられることなく、現代では穴の開いた練り物を竹輪。板に乗った練り物を蒲鉾というようになったのです。
RPGとTRPG
蒲鉾と竹輪の関係によく似た事例がありまして。
RPGとTRPGです。
実は、今はTRPGと呼ばれているものこそが、その昔RPGというジャンルが生まれた当時にRPGと呼ばれていたのです!
本当です。
ロールプレイングゲームというのは、卓上のボードゲームの一種として発生しました。
さらに御先祖を辿るとウォーシミュレーションゲームが祖となるわけですが、あんまり遡っても大変なので割愛します。
まあ、なにせ最初はボードゲームの派生だったわけです。
で。
これをコンピュータで遊べるようにしたものが流行りまして。
『ウルティマ』や『ウィザードリィ』といったタイトルが覇権を取ったわけですな。
そんなゲーム知らないという人でも、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』を知らないという方はいないでしょう。
まあ、なにせ。卓上のRPGが流行る前に、コンピュータゲームのRPGが流行ってしまったのですわ。
で。こうなると。
卓上のRPGとコンピュータゲームのRPGは遊び方も違うわけで。
名前を変えなくてはいけませんわね。
……。はい、お判りですね。
卓上のRPGのほうが、頭にわざわざT(トークもしくはテーブル)を付けて、TRPGと呼ばれるようになったのです。
こっちが本家本元なのに。
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ジャンルに名前を付けること
RPGの始祖は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(Dungeons & Dragons、略称:D&D)です。
これはハッキリと明言できます。
では、D&Dが世に出た時、既に自らをRPGと名乗っていたのでしょうか?
D&Dは1974年にゲーリー・ガイギャックスとデイブ・アーンソンによって考案されました。
このゲームは、もともとはミニチュア戦争ゲームのルールをベースにしており、特にガイギャックスの「Chainmail(チェインメイル)」というゲームのルールを拡張して開発されました。
そのため、D&Dが最初に世に出たとき、それは「ファンタジー・ロールプレイング・ウォーゲーム」として紹介されたのです。
RPGというジャンル自体が、その時点では明確に定義されていなかったのですね。
D&Dの登場が、実際にRPGというジャンルを確立する重要かつ決定的なきっかけの一つであることは間違いありません。
それでも。
D&Dとその後継作品たちをひっくるめてRPGというジャンル名称になるのは、後になってからのことなのです。
RPG今昔
で。
D&Dと、今の後継作品群とで、遊び方や体験者層は丸かぶりなのでしょうか?
ははは。とんでもない。
ウォーゲームとして発生した当初とは、文字通り隔世の感があります。
キャラの人間性を浮き彫りにしたロールプレイング。
参加者も物語の骨子に手を入れられるナラテイブ。
参加者とキャラとの体験感を合致させたLARP。
様々なものがRPGのカテゴリに内包されています。
また、カテゴリを逸脱して巣立っていった新しいジャンルもありますね。
LARPはもうとっくに巣立ったのだと主張なさる方もいるでしょう。
いていいし、主張していいし、それでいいのです。
で、ストーリープレイングの定義なんですが
これは、しゃみめが付けたジャンル名称ではないんです。
古い盟友であるきつねさん(久保よしや)が付けてくれたものなんです。
作品が出来上がってから、他のどのジャンルとも似つかないものだったから嫌々渋々、きつねさんが名付けてくれたのです。
しゃみめは、最初に『銀の瞳の君を求めて』を作ろうとしたときに、テーマとコンセプトがそれぞれありました。
テーマとは主題です。何をしたいのか? 目的です。
これはとても大切で。
しゃみめにとっては、人生を賭けたチャレンジでした。
「家内の心の奥まで物語を届ける」
これがテーマです。
コンセプトとは主軸です。何をするのか? 手段です。
「家内が遊べるものにする」
これがコンセプトです。
テーマの内訳は、しゃみめがどれほど家内を愛しているのか。そして、家内を失うことを恐れているのか。これです。
コンセプトの内訳は、家内はTRPGもマダミスも遊ばない人なので、ルールやシステムを排除して、それでも遊べる仕掛けを用いるというものでした。
騙しあいもない。ルールもない。ただ会話だけで成り立つ、たったひとつの体験。生涯を潤すかけがえのない体験。
これを、どうしても作りたかったのです。
で。
なんとか出来上がったと思います。
しゃみめにとっても、家内にとっても、特別な作品となりましたから。
これを世に出すと決めたのもきつねさんです。
出しちゃったわけです。
そうしたら、世の才能ある方々が寄ってたかって後継作品を生み出してくださったのです。
しゃみめがストーリープレイング『銀の瞳の君を求めて』を拵えた時に見定めたテーマやコンセプトは、必要からそうしたというだけで。
今の世の中で広がっている作品群の有り様は、拙作とはガラリと違っていることでしょう。
でも、それでいいんです。
違っていい。
それが当たり前なんです。
なので、本稿においてはストーリープレイングの定義については明言しません。
ただ、しゃみめがしたことは搔い摘むと以下のようなものです。
①ルールやシステムを極力排して
②騙しあいや勝ち負けといったゼロサムゲームにせず
③主に対話と設定と場面転換のみで組み立てられた
④ゲームですらない、そういう時間の過ごし方
と、このようなところでしょう。
で。
これも所詮しゃみめがそうしたというだけです。
他の誰かがストーリープレイングはこうだ! という想いで全然違うナニカを生み出してもいいのです。
そうして、遠い将来、RPGのように、広く彼方まで裾野が及ぶような時が来れば。
しゃみめにとっては望外の喜びなのです。
たくさん遊んで、たくさん作ってほしいのです。
どなた様にとっても、たくさんの豊かな物語が、いつもとなりにありますように。