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勝ち抜く力~読書記録441~
勝ち抜く力 猪瀬直樹 2013年
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副題 なぜ「チームニッポン」は五輪を招致できたのか
当時、東京都知事であった猪瀬直樹氏によるオリンピック誘致までの著。
2012年12月東京都知事に就任した猪瀬氏は翌年1月オリンピック立候補ファイル申請。ロンドンで記者会見。
知事になった当初からマラソンレースの如く、頭の中でイメージしながら招致活動をしていた元知事。
東京には世界有数のインフラがある。大会会場近くまで整備された高速道路や、1日2600万人もの乗客を運ぶ緻密な交通網が秒単位で正確に動く洗練された都市である。誰に対して何を伝えるのかに心を砕いた。
1964年に東京でオリンピックを開催した時、現在の国立競技場や代々木体育館が建設され、それがレガシーとして、現代の生活の中で風景として息づいている。前回の東京オリンピックは、敗戦後の後輩から復興、高度経済成長の緒についた日本の姿を世界に伝えた。今回、我々に課されているのは、50年に一度オリンピックを開催すること。
ハーバード大学の教授をしていたサミュエル・ハンティントンは「文明の衝突」の中で、世界の文明を7つに分類し、日本は、中国や韓国などの儒教文明圏とは別の独自の文明圏と位置付けた。東京で暮らしたことのある人なら、この違いは体感的にわかるはずだが、日本を訪れたことのない人に説明するのは難しい。
皇居という伝統の中心とテクノロジーやビジネスが共存し、世界一の治安が保たれているのが東京だ。そこからおもてなしの心が生じる。
ヨーロッパの諸都市は都市の周辺に緑がある構造になっているが、東京は中心に皇居があり、そこが大きな緑になっている。中心部がブラックボックスのようであり、ゼロであり、無であること。これをフランスの哲学者ロラン・バルトは「空虚」と表現した。(バルト、表徴の帝国より)
皇居は手をほとんど加えずに自然のままになっている。ヨーロッパの発想は逆で、自然を抑え込むことによって近代化した。だから、ヨーロッパの庭園はすべてシンメトリー、左右対称になっている。真ん中に噴水があって、右と左は同じ造り。「これは人間がつくったぞ、自然を征服したぞ」というのが、キリスト教を含めたヨーロッパの文明だ。
明治になり、日本はヨーロッパ以外で初めて近代社会をつくりあげた。アジアの他の国々は植民地であったり、封建社会であったり、未開だと位置付けられた時代のことだ。
キリスト教文明と違う宗教性を内に秘めている。
東京には世界に誇る素晴らしいインフラがある。都心部では10分も歩けば鉄道の駅に行ける。コンパクトでアスリートファーストのオリンピックを売り込んだ。
今回の五輪招致に当たっては、「中枢」を作らなければ勝てないことがわかっていた。竹田恒和(竹田恒泰氏の父)招致委員会理事長、水野正人専務理事と都知事、安倍首相、菅義偉官房長官が常に細かく連携を取り合い、がっちりと手を組んだ。
2013年3月4日、IOC評価委員会のクレイグ・リーディ委員長ら関係者17名と東宮御所の皇太子殿下への表敬訪問が実現した。これは「オールジャパン体制」を印象付けることができて、おもてなしの心が伝わった。
4月16日、ニューヨークタイムズ紙のインタビューにて、東京は治安が良く、交通機関も正確に運営されている。公衆トイレが綺麗だとアピールした。インタビューが終わるころに、「イスラム圏初というのは意味があるのかなあ」とという感想をふと漏らした。その後、「イスラム圏で共通しているのはアラーの神だけで喧嘩ばかりしている」と言ってしまった。不適切な発言をニューヨークタイムズ紙は記事にした。それを「NHKニュース」が取り上げたことで、日本国中が大騒ぎになった。そういった発言だけを大きく取り上げるNHK。。。
5月、公式プレゼンテーション。
「財布を落としても、お金が入ったまま戻ってきます」という」話をし、会場からどっと笑いが起きた。日本にも泥棒はいるが、財布を落としても持ち主の所に戻ってくるなんて外国人には信じられない。これが日本という国のホスピタリティ。
ただ「東京は安全だ」と言ってもインパクトがない。数字で示した。
現地時間9月7日、「東京」に招致が決まった。
オリンピックでは海外から大勢の観光客の来日が予想される。2020年までには現在進めている首都高速中央環状線、東京外郭環状道路、首都圏中央連結自動車道の三環状道路の工事がほぼ終わる。都心の通過車両をいかに減らすか、課題を克服するのだ。三環状道路は、日本の心臓である東京をさらに力強くする鼓動させるために不可欠な路線だ。世界の主要都市で環状道路が整備されていないのは東京ぐらいだ。
今、読み返してみる。。。
やはり、東京都は失敗したのだ。猪瀬直樹氏がオリンピックの年まで都知事であるべきだったのだ。
今は亡き石原慎太郎元都知事を病身の中で百条委員会にかけたり、何をやっていたんだろう。
たら、れば、を言っても仕方ない。だが、これだけの熱意を持って準備をした方が外され、華やかなスポットライトを浴びた女性都知事。なんだか納得しない自分がいるのであった。