お菓子とビール~読書記録229~
「月と六ペンス」「人間の絆」などで有名なモームの1930年(56歳)に書かれた書。
小説家である主人公の1人称で語られるのだが、これが引き込まれるように物語の世界に入って行くのだ。
あらすじはというと・・
作家のアシェンデンは、あるとき作家仲間のロイから「ドリッフィールドの伝記書くことになった」と聞かされる。
ドリッフィールドとは、最近亡くなった国民的作家のことである。ロイはドリッフィールドの妻である、エイミから伝記執筆の依頼されたのだという。アシェンデンは昔、ドリッフィールドと最初の奥さんであるロウジーと親交があった。そのためロイから、名が売れていないころのドリッフィールドについて教えてほしいと頼まれるのであった。
そのことをきっかけにアシェンデンは、ケント州の海岸沿いの小さな町の郊外、ブラックスタブルで、ドリッフィールドとロウジーと過ごした日々を思い出していく…
国民的作家の最初の妻・ロウジーの美しさ、奔放さが見事に描かれている。
彼女は、結局、本当に好きだった妻子ある男性と駆け落ちしてしまうのだ。
モームについては、好き嫌いがハッキリと分かれる作家ではないかと思う。
実に正直に己の考えを描くからだ。
当時のイギリスの様子もよくわかるものだった。階級制についてだ。牧師とは口を聞いてはいけない身分など。ああ、だからモームは、イエスの教えとは全く違うキリスト教徒嫌いになったんだなと思った。
この主人公であるが、牧師である叔父の家に住み、医学部を出たが小説家となった。
あれ?モーム?と思ったのは私だけではないだろう。
そして、思ったのは、外国の本と言うのは、翻訳者の力量もあるのではないだろうか?
行方昭夫先生は、昭和6年生まれ。東京大学を卒業され、東京大学他で教授をされていた。日本モーム協会会長である。
「当意即妙」など、訳者自身がよく知っていなければ出て来ない言葉である。
題名となっている「お菓子とビール」英語の題名は「Cakes and Ale」だ。
これは、「人生を楽しくするもの」「人生の愉悦」という意味合いだそうだ。(訳者解説より)
ともあれ、モームが何故今も読まれているかわかるものであった。