180度違う考え方を知ったとき
急に降り出した雨に頬を打たれながら急ぎ足で自転車を漕ぐ、梅雨に入ってすぐの休日だった。
「俺の妹死んでからさ、お母さんも親父も忙しそうにしてて、こっちまで疲れてくるよ」
「え、」
耳を疑った。言葉が喉から出てこようとしなかったので一息着いてから半開きになった口から低い声を出す他なかった。
「お前の妹、その、死んでたの?」
「初耳なんだけど」
すると友人は数秒前の僕と同じような顔になったあと
「え、まじで?言わなかったっけ?皆に言ったつもりだったんだけど」
と返してきた。
小学校からの付き合いである友人の事はある程度理解しているつもりだった。
友人の妹は生まれたときから寝たきりであること。母親は生まれつき体が弱く、激しい運動が出来ないこと。父親もある程度歳を重ねているが、酒とタバコを未だにやっていて、やめどきを逃し続けていること。
家族を1人失ったという重大なことを知らされていなかったことに対する驚きもあった。
ただ、
正直感心してしまった。
なぜそんなに軽く、世間話をするように話せるのか。不謹慎だという声も僕の頭の中にはあった。あったのだが、その疑問がその声を鎮圧した。
僕は少しばかり友人の表情を伺った後、頭のなかに鎮座している疑問を言葉にした。
「なんでそんなに笑いながら、軽く言えるの?普通だったら躊躇ったりするもんでしょ」
すると友人は純粋な疑問顔をしながら
「そんなに落ち込んでもいられないからね。前向きに行かないとだめだし」
と笑いながら言ってきた。
僕はそれに対して、下手くそに褒めることしか出来なかった。慰めの言葉をかけることも忘れて。
僕とは根本的な考え方が違ったのだ。僕はネガティブ思考。友人はポジティブ思考と言えば伝わるだろうか。
その思考で生きてきた友人は周りに人が集まってくる、クラス写真で中心に座り、胡座しながらダブルピースをするような奴だ。
嫉妬、妬みの気持ちはさらさらないが羨ましかった。
僕にもその考え方が備わっていれば人生が楽しかったと死ぬ間際に遺すことができるのだろうか。
縁起でもないことを考えながら、LINEでデリカシーに欠けるような発言をしたことを謝る僕だった。