怒りを愛に変える

数日前、電車に乗ろうと並んでいた時のことです。

私の横に男性の老人がいたのです。電車が到着すると、なぜか私の前に割り込むように並ぶ。この時点で私ちょっとイラっとしました。

電車に乗ってみると、その老人が私の前に割り込んだ理由が分かったのです。私の側に空席が多かった、これが理由です。

その老人は、橋の席を確保できご満悦の様子。私といえば、その老人の正面の席に。私も恥の席に座れたので、割り込む必要もなかったのですね。

席に座ったあと、私の心に先ほどの割り込みされたイヤな気持が残っていた。でも、その瞬間、良寛さんのお話が頭に浮かんだのです。

良寛さんってあなたもご存じと思いますが、江戸時代のお坊さんです。子供を愛し、様々な逸話を残した方。その中で私が思い出したのは、良寛さんがある人に頼まれて、その方の子供さんが心を入れ替えてくれるようにお話をしてほしいと言われたときのお話。

良寛さんは、その方の家に招かれ、食事を出され、問題とされている子供さんと二人きりでいたんです。でも、良寛さんは一言二言その子供さんとお話をしただけで、説教じみたお話は一切されず。

そのお家を出るとき、わらじを履こうとしている良寛さんの顔を、子供さんが覗き込んだのです。

すると、良寛さんは涙をぽろぽろと流していたそう。その姿を見て子供さんは心を入れ替え、とても素晴らしい人になったのですって。

なぜ、そんなことになったのか。それは良寛さんがその子供さんが持つ心の痛みを想像し、その痛みを分かち合って涙を流されたから。

このお話を思い出した私は、せっかくのこの時間、この経験、さっそく試してみようと。この老人はなぜ、この歳になって、割り込むようなことをできるのか? その心情を想像してみようと。

きっとこの老人にも親御さんから愛情いっぱいに育てられた時代があったろう。その姿を想像するだけで、私の心は少し暖かいものが生まれてきたのです。

その後、どんな経験をして、このような心の状態になったのだろう? でもそこまでは想像できなかった・・・。ただ、嫌なこともいっぱい経験したんだろうな、でも頑張ったんだろうな、なんて一般的なことしか思い浮かばない。

たったこれだけだけど、先ほどまであった、割り込まれた怒りは無くなり、その老人への慈しみの気持ちが少しだけど芽生えたのです。

そして、私自身に対しても、暖かな気持ちになれたのです。こっちのほうも大切ですよね。

こんな経験をさせていただいて、感謝ですね。ありがとう!


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