足立祐二さんの話
「僕ね、余命宣告されてるんですよ。余命40年って」
足立祐二さん、YOUさんが一時期頻繁に発していた冗談の一つである。
一言目を言った後に、周囲の反応を伺ってからオチをつける、なんとも意地の悪い冗談だったけど、当の本人はあと40年は生きるつもりだったということの裏返しでもあるので、今では苦笑いしか出来ない。
YOUさんが亡くなったという噂を知ったのは16日のこと。なんの信憑性もないものだったけど、頻繁に更新されていたブログもツイッターも、体調の悪そうだった14日の配信ライブ後から、一度も更新されてなかったこともあり、心をざわつかせた。
ただの悪質なデマだろう、忙しくて更新を忘れているだけだろう。そう言い聞かせて迎えた翌日の17日、18日に予定されていた配信ライブの中止のお知らせを見た。
「都合により中止になりました」
いよいよ、これは本当にまずいんじゃないか?
デマじゃないのかもしれない。
そう思い始めると止まらなくなり、その日は不安を抱えたまま過ごし、泣きながら眠った。
そして2020年6月19日、午前10時
「大切なお知らせ」が発表された。
血の気が引くということを、冷える指先と震えが止まらない手で実感した。やっぱり、どうして、そんなことを考えながら涙は止まらなかった。
私がYOUさんを知ったのは2年前のこと。他の出演者を目当てに、YOUさんが主催する3ピースユニットを見に四谷に行こうと決めたときのことだ。
とはいえ当時の私はYOUさんのことを全く知らず、いくらなんでも情報もなしに初めての現場に行くのも気が引けたので、DEAD ENDの『METAMORPHOSIS』を聞いた。
無意識に脈拍と口角が上がる感覚に、YOUさんの音楽を好きになると確信した。等身大で"この曲カッコいい!"を受け取ったのは久しぶりのことだった。
そして初めて現場に行った時、特徴的なビブラート、情景が浮かぶようなメロディ、予測し辛い構成、人を振り回すMC、すべてに心を掴まれた。○○さんの音、という表現はミュージシャンのファンをしているとよく見かけるフレーズだけど、ここまで明確に自分の音が存在するギタリストを私はこれまで聞いたことがなかった。ブラインドでギターの聞き分けをしろと言われても足立祐二の音ならわかる、と言い切れるほどの特徴は私にとって衝撃的なものだった。
それ以来、この2年間はYOUさんの元へ頻繁に通っていた。去年の記録では年に40回以上。単純計算で月に3回は行っていることになる。
最初こそYOUさんを目当てにというわけではなかったけれど、追いかけているミュージシャンの活動のほとんどがYOUさんの現場だったこともあり、足立祐二の活動を追っているに等しいレベルで通い詰めるようになってしまっていた。
私はただの一ファンでしかなかったけれど、よっぽどの友達よりも頻繁に会う存在で、耳馴染みのいい柔らかい関西弁で繰り広げられる適当な話を笑いながら聞くのが好きだった。
歳上の方にする表現ではないが、とても人懐っこい人で、向こうから話しかけてくれたり、たまに差し入れを渡すと写真をブログに載せてくれたり、ファンとの距離感の近い優しい人だった。
もうあのギターの音が、足立祐二という存在が、この世にないということが悲しいだけではなく、たくさんの人々に残る彼の記憶が、後は少しずつすり減っていくだけ、ということがどうしようもなく寂しいのである。
人はいつか死ぬ、そんなことはわかりきっているけれど、人々の記憶も、残った音源も、時間の流れによって消えていくことが、どうしようもなく耐え難い。
私の中の記憶も、こうして文字として残してでもおかないとすぐに風化してしまうだろう。
誰よりも沢山やりたいことのある人だった。その気持ちに人間の肉体がついていけてないような人だった。
あまり寝ない人だというのはよく聞いていた。元々ショートスリーパーと聞いていたが、それにしても寝てなさすぎるだろう、というくらい寝てない人だった。ちゃんと寝てくださいね、なんて本人も聞き飽きるくらい言われていただろう。
ギターを弾きながら眠ってしまって、ギターが床に落ちた音で起きる。と話していたことがあったけれど、さすがに冗談だったと思いたい。
しかし、その狂気的なまでの音楽への執着が魅力に繋がっていたのは確かなのだろう。
死後の世界があるのなら、もう眠気や疲労感に邪魔されることもなく、ギターを弾き、曲を作り、思う存分に音楽を追求出来ているのではないかということだけが救いだ。
ただ、それを生きている人間が知ることが出来ないのは、この上なく残念でしかない。
ご冥福を、と言えるほどまだ受け止めれていなくて、さようならとも言いたくはない。
お疲れ様でした、と言うと「僕べつに疲れてなんかないよ。めっちゃ楽しかったもん」
ゆっくり休んでください、も「やりたいこといっぱいあるからね、寝てられないんよ」
と返されたことを思い出す。
最期の時が安らかであったことを心から願います。
楽しかったです。ありがとうございました。次も楽しみにしています。
いつものように
「今日はありがとうね!気ぃつけて帰るんやで。またね!」
そう返してください。