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『カラオケで何歌うかが人生で一番大事なわけがない(隅田さんのざつ日誌#番外編)』 作:飴玉【5分シナリオ】

「カラオケで何歌うかが人生で一番大事なわけがない(隅田さんのざつ日誌#番外編)」
作:飴玉

◾️登場人物
隅田 直樹(34) 会社員
小長谷太朗(39) 隅田の同僚
中本 理沙(22) 隅田の同僚

〇カラオケ屋・店内
曲終わりの演奏が流れている。
隅田、歌い終わってマイクを置く。
画面に《 奏 ♪スキマスイッチ 》

隅田「小長谷さーん。面白いですか」

小長谷、一生懸命デンモクにタッチしている。

理沙「それ、画面を次々に変えてくゲームじゃないですよ」

小長谷「ちょ、ちょっと待ってよ。がんばって選んでるんだから。あの、あの曲なんだっけ」
と、画面から目を離さずにピッピッとしている。

理沙「右下の予約、っての押さないと曲入りませんよ」
小長谷「知ってますよ! もうすこしで決まります……」
理沙「もうすこし、って、一曲も歌ってないじゃないですか!」
隅田「もう尾崎でよくないですか」

小長谷、むくっと顔を上げ、
小長谷「尾崎でいい、とはどういうことですか、『でいい』とは。僕はね、おそれ多くて尾崎豊は歌えません」
理沙「じゃ『また逢う日まで』」
小長谷「……あの、ですね。僕いくつだと思ってるんですか」

隅田「昭和って年齢関係ないんですよ」
理沙「昭和は昭和」
小長谷「僕は昭和61年ですからね。ある意味で平成なんです」
理沙「い、い、から!」
隅田「さっさと選んでください」

軽快な前奏が響いてくる。

理沙「あ」
と、マイクをとる。

楽しそうに歌う理沙、手拍子している隅田。
曲はラストクリスマス。
必死に曲を探している小長谷。

理沙「♪ラースクリスマス・ゲブユマハー ♪ベリネクスデー・ユゲビアウェー」

小長谷「……めっちゃ昭和じゃないですか……」
ブツブツ、ピコピコ。
小長谷「……1月にクリスマスって言われてもなー……」
ブツブツ、ピッピッ。

×   ×   ×

ノリノリでサウダージを歌っている隅田。

隅田「♪その日までさよなら恋心よ ♪あなーたーのそばーではー」

小長谷デンモクを投げ出して、
小長谷「ああーー無理だ」

理沙「(笑って)無理って」
小長谷「世の中には何千何万という曲があるんですよ?よくそんなポンポン選べるものですね」

理沙、手拍子しながら、小長谷の話を聞くともなく聞いている。

小長谷「今日のこの日、この夜は、一期一会なんですよ。今この心にいちばん響く曲はなんなのか、いま僕がいちばん求めているメロディは何なのか…」

隅田、歌い終わった。

小長谷「……恋心を許している場合じゃないんです、こっちは」
理沙「あー、うっせえええ」

と、デンモクを奪ってピッピッと入力する。

理沙「もう私が決める。黙って歌え」
小長谷「いやいやいや、無理だから」
隅田「小長谷さんが歌えるやつにしてあげてね」

理沙「カラオケきて歌わないやつは地獄に落ちるっておばあちゃんが言ってた」
隅田「ああ、らしいですね。担任の川口先生も言ってました」
小長谷「……誰だよ」

カラオケ画面に『天城越え』が映し出される。
前奏が始まる。

隅田「歌いましょう小長谷さん」
理沙「がんばれー小長谷さん」

小長谷、しばらくぼうぜんと画面を見ている。
やがてマイクをもってノッソリと立ち上がる。

隅田、理沙、拍手。
前奏が終わる。

◯同・外(早朝)
三人、出てくる。

隅田「寒みぃー」
小長谷「サムシングエルスー」
理沙「サムギョプサルー」

三人顔を見合わせる。

理沙「はぁ?」

三人歩き出しながら、

隅田「もっかい行きますね」
理沙「もちろん」

隅田「寒みぃー」
小長谷「サムシングエルスー」
理沙「サムギョプサルー」

理沙「なにそれ」
と笑って小長谷の尻に軽く蹴りをいれる。

小長谷「いやいやいや。僕、上司、上司」
隅田「そうだよ、中本さん。小長谷さんの尻はみんなのもの」

小長谷「あっ、中本で思い出したんですが」
理沙「なんですか」
小長谷「富士そば寄って帰りませんか」
隅田「おおー」
理沙「いいですね! 今日まで生きてきて、初めていいこと言いましたね」

三人、体を寄せ合って歩いていく。

理沙「てかなんで中本で思い出すの?」

汚い街に、朝日が差してきた。

<おしまい>

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作者より→
味野たたき先生の大人気シリーズ「隅田さんのざつ日誌」をカバーさせていただきました!
ざつ日誌ファンに刺されないか心配ですが。笑っていただければ幸いです。ゆるく、あたたかく笑えるところがざつ日誌のいいところですね!

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