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『ソーシャルディスタンス』作:小耳鋏うさみ【5分シナリオ】

「ソーシャルディスタンス」
作:小耳鋏うさみ(こみみはさみうさみ)

【主な登場人物】
彩乃(25)
隼人(25)

○ドームのある海・俯瞰
海に浮かぶ小さい白いドーム状の建物の数々。
 
○ドーム・003A245番
003A245番のプレートがついた東京ドームくらいのサイズのドーム状の建物。
近くの波止場の船から防護服を着た3人が降りてくる。
ドームの前に到着すると、自動ドアを開ける。ドアの先には街が広がる。

○彩乃のアパート・居室
鏡の前。彩乃(25)が服装と髪型をチェックしている。
スマートスピーカーから今日の予定が告げられる。
スピーカー「今日の天気は晴れ。ウイルスライフ社の青春リピートの予約1件。再会まであと30分です」
 
○コンビニ・店内
彩乃がコンビニのドリンク売り場で扉を開き、お茶を取ろうとする。
彩乃の手と隼人(25)の手が重なる。

彩乃「あ」
隼人「あ」

彩乃と隼人は照れながら笑い合う。

彩乃「久しぶり」
 
○隼人のアパート・居室
1Kの狭いキッチン。お茶を入れながら話す隼人。

隼人「あんなとこでばったり会うとは思わなかった」

彩乃「運命感じちゃう?」

隼人「ええ? いつぶりかなー彩乃は元気だった?」

彩乃は隼人の部屋を見回して嬉しそうに話す。

彩乃「なんだかんださー別れてから1回も会わなかったね。ステイホーム挟んだら縁切れちゃうもんだね」

隼人、がお茶を渡す。

隼人「でもこうして再会できたってことは?」

彩乃「私たちの運命に乾杯?」
彩乃、麦茶の入ったプラスチックコップをカツンとあてる。

彩乃「あ」
彩乃、後ろの戸棚からカメラを取り出す。

彩乃「これ私のカメラ! 置きっぱなしだったんだね」

彩乃、デジカメ内の写真を見始める。
隼人、隣にくっついて一緒に見る。
デジカメ画面。彩乃と隼人のツーショット写真が次々と映る。

彩乃「昔の写真そのまま残ってるんだね」

隼人「いつか返さなきゃと思って」

彩乃「この隼人の表情好きだったなあ」

隼人は彩乃の顔に自分の顔を近づけて囁く。

隼人「どんな表情だって?」

彩乃と隼人が見つめ合う。
彩乃が目を瞑り、隼人がキスをしようと唇を近づける。


が、突然、彩乃からピーと機械音が鳴り響く。
彩乃は目を大きく開き、機械音声で話しだす。


彩乃「料金不足エラーです。登録されたクレジットカードが無効です。これより、コミュニケーションのアンインストールを行います」

続いてピーヒョロロロと通信音が鳴り響く。うるさくて頭を押さえる隼人。
彩乃はしぼんだゴム人形の抜け殻になっている。

隼人が唸る。思い通りにならないイライラで手をグーにして自分の頭を両手で叩く。
怒った様子で電話をかける隼人。

隼人「ちょっとママ! なんで出ないんだよ!」

隼人テレビをつけてソファに座る。CMが流れる。

テレビ画面に『ウイルスにかかっても、変わらない毎日を。Supported by ウイルスライフ社』と画面に表示される。
 
○テレビの中
海に浮かぶドームの数々の映像。1ドームにつき1人が吸い込まれるアニメーション。ドームの中で人々が楽しく暮らす様子が映される。

テレビ「私たち、ウイルスライフ社は永久感染者となった皆様に通常通りの生活を提供します。施設内に擬似ヒューマンを配置し、孤独な隔離生活とは無縁の人生を実現。
ご家族、ご友人が隔離ドームにアクセスすることで人との触れあいが再現可能となりました。二度と会えなかった大切なあの人とかけがえのない時間を。
新製品、『青春リピート』もぜひご活用ください」
 

○田島家・リビング
高級な家具に広いリビング。テーブルの上のスマホがバイブ音を鳴らしている。
田島京子(50)は画面を見て、暗い表情をする。

画面には「隼人」と表示されている。が、出ようとしない。
田島健斗(52)は窓の遠くを見つめる。

京子「あなた、これからどうすればいいの……隼人はどうしましょう」

健斗「仕方がないだろ。もうドームの利用料が払えない。隼人は国の隔離施設に搬送してもらう」

京子「でも……あんなところに隼人を送るなんて!」

健斗「この家も家具も全部売っぱらったってもう無理だ。このままだと俺たちの生活だって送れなくなる。俺の責任にしていい、隼人を忘れるんだ」

健斗が頭を下げる。京子は俯いて涙を流す。
 

○国の隔離施設
防護服を着た3人に抱えられて、四畳ほどのコンクリート壁の部屋に投げ込まれる隼人。

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