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『竹を刈る』作:天才雨男 あまかどあまお 【5分シナリオ】

【登場人物】

竹取の翁(50)
隣の翁(50)

○竹林

青々と竹が生い茂る竹林。
竹林の中を、真新しい斧を背負った老人・竹取の翁が歩いて行く。

N(ナレーション)「昔むかしの話。竹を刈って道具を作り、細々と暮らしていた爺さんがおった。ある日、竹の中に小さな赤ん坊を見つけ、自分の子どもとして育てることにしたそうな。それから後、爺さんが竹を切ると中から金が出てくるようになり、たいそう羽振りがよくなったということじゃ」

竹取の翁、黙々と歩いていく。険しい顔で黙々と行く。
向かう先の方から、バキッ、バキッと竹を切り割る音が聞こえてくる。
翁、歩みを早め、しまいには音のする方へ駆け出していく。

見ると、隣の翁が夢中で竹を割っている。
隣の翁、割った竹の中を見る。
竹の節の中から、金塊が覗いている。

竹取の翁「この盗人が!」

隣の翁「(気づいて)!」

竹取の翁、隣の翁に飛びかかり、押し倒して馬乗りになる。

隣の翁「ヒィぃ!盗んどらん、何も盗んどらん!」

竹取の翁「もう許さんぞ。今日こそお役人に突き出してやる!」

隣の翁「よ、よく見てみい。こんなに多く、わし一人で刈れると思うか?見てみい!」

相手を取り押さえながら、竹取の翁は辺りを見渡してみる。
たしかに、一人で短時間に刈ったとは思えない広さの竹が刈られている。
隣の翁、竹取の翁を跳ねのける。

隣の翁「(息を切らして)元はわしの林じゃろうが。盗っ人呼ばわりするな!」

竹取の翁「ちゃんと銭を払うたじゃろう?あんたも、それでええ、と言うたじゃろうが!」

隣の翁、じっと相手を見て、うすら笑みを浮かべる。

隣の翁「……変わったのう、竹取の。わしが分けてやった米で、冬を越したのを忘れたか」

竹取の翁「……」

竹取の翁、隣の翁に近づいて、その懐に手を入れる。
懐から、手のひらに入るくらいの金塊を取り出す。

竹取の翁「あんたは、変わらんのう」

みすぼらしい隣の翁の衣服が目に入り、憐れむような目でその顔を見る。

竹取の翁「……」

一度は取り返した金塊を、隣の翁の手に掴ませる。

竹取の翁「これで縁切りじゃ。持っていけ」

隣の翁、摑まされた金塊をじっと見る。
と、地面に腰を下ろして、気が狂ったように笑い出す。

隣の翁「……ははぁー!あーはっはっは!これで縁切りじゃと!わしが、うんと言うと思うか?馬鹿にしくさって」

隣の翁、立ち上がって竹取の翁の胸ぐらを掴む。

隣の翁「このひと掴みなんざ、おぬしにとったら惜しくもなかろう?……あの拾い子、おぬしが娘というとるあのアマっこがおりゃ、これがなんぼでも出てくるんじゃろうが」

竹取の翁「(憎々しげに相手を見て)……」

隣の翁「ぬしの考えはようわかる。あのべっぴんと、黄金がありゃ、欲の出んほうがおかしい。みな噂しとるが、ありゃ本当か?お前の娘をくれちゅうて、帝の使いまで来たというんは?」

竹取の翁、いまいましげに相手の手を振りほどく。

竹取の翁「そんな話はない。娘は、然るべきお方のところに嫁がせるわ」

隣の翁「……ふん、……そうか、然るべきところにか……」

と、隣の翁は突然力なく地面にへたり込む。

隣の翁「言うことを聞くように育てたなら、ぬしは利口じゃな……」

竹取の翁「……どうした?あんたの娘は?」

隣の翁「あんなもん、わしの子でない」

竹取の翁「自慢の娘じゃったろう?」

隣の翁「……ちゃんと世の中をわからせにゃならんということよ。せっかくの縁談じゃったのに、あんな貧乏の小倅と……。親の気も知らずによぉ」

竹取の翁「あんた、今は独りか」

隣の翁「悪くはないぞ。気が楽じゃ。どのみちそう長く生きるでもなかろうし……」

竹取の翁「……」

竹取の翁、思案顔で隣の翁の周りを歩く。

竹取の翁「……なあ、ワシと一緒に竹の根を掘らんか?」

隣の翁「……?」

竹取の翁「金が出るのは、竹の中からと思われとるが、それだけではない。いちばん多く取れるのは根っこなんじゃ」

隣の翁「(目をギラつかせ)ほお、そうかい」

竹取の翁「根っこを掘るのは骨が折れるでな、めったにやらんが、あんたの手を借りれば、できるじゃろ?」

隣の翁「ええのか?そんなことを教えて」

竹取の翁「女房が死んで、娘もおらんのじゃ気の毒じゃ。あの世に行くにも支度の銭が要るじゃろう」

隣の翁「なんじゃ?急に気前がようなって」

竹取の翁「(決まりが悪そうに)いやぁ、あんたのおかげで飢えずに済んだのを、今まで忘れとったのよ」

と、近くに積み上げられた竹材の方に歩いていく。
竹取の翁、竹材の中から、鍬を2本取り出す。
その1本を、隣の翁に渡す。

竹取の翁「では、始めるか」

隣の翁「(興奮して)よし」

      ×     ×     ×

隣の翁、熱心に竹の根元を掘る。
ずいぶん大きな穴が掘られている。
竹取の翁、その様子を立って見ている。
隣の翁、くたびれて穴の淵に腰を下ろす。

隣の翁「(息を切らして)まだか。ずいぶんじゃのう、根っこの深さっちゅうのは」

竹取の翁「まだまだ。まだまだじゃよ」

言いながら竹取の翁が、鍬で隣の翁の後頭部を思いきり殴りつける。
隣の翁、倒れたまま、動かない。

竹取の翁「(見下ろして)……」

竹取の翁、隣の翁の体を穴の中に横たえる。
鍬でその上に土をかけ始める。

竹取の翁「わかっとらんのう」

鍬で土をかけ続ける。

竹取の翁「あんたに取らせる分はないわい。わしの黄金は、わしの思うように使うに決まっとろう」

言いながら、土をかけて穴を埋めていく。

N「爺さんが豊かになるほど、娘は爺さんのことを嫌うようになっていったそうな。しまいに娘は爺さんを捨てて逃げ出し、金が取れなくなった爺さんは、惨めに落ちぶれて死んだということじゃ」

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