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『猫とビールとベーコンエピ』作:飴玉 【5分シナリオ】

「猫とビールとベーコンエピ」 作:飴玉

★登場人物★
木村 佳南(40)
高橋 亮太(40)
店員

○猫カフェ・外観
 《 かわいい猫ちゃん☆待ってるにゃん♪ 》
などと書かれた猫カフェの看板。

佳南の声「え、ふたりだけですか?」

○同・内
テーブルに向かい合って座っている木村佳南(40)と高橋亮太(40)。
エプロン姿の店員が、
店員「そーなんですよー。申し訳ありません」
声は謝っているが、口元が半分笑っている。

亮太「先に言っていただければ……」
と、佳南を見る。

店員「急にキャンセルがありまして」
佳南「確か『最低6人から』って……」
店員「ええ、昨日まで6名様のご予定だったんですよ」

佳南の胸に《かな 40さい》と書かれたバッジ。
亮太の胸にも《りょうた 40さい》と貼ってある。
壁に雑な字で、
 《 猫好き集まれ~! 猫ちゃんといっしょに婚活パーティ大作戦! 》
と横断幕がかかっている。

店員「先ほどお電話で、ちょっと親知らずの方がお痛みになられると」
佳南「親知らず」
亮太「のほう」

店員「あともうお一人は――『忌引きを忘れてた』ということで」
亮太「忌引きを」
佳南「忘れてた」

店員「ええ。困っちゃいますよね」
亮太「あとお二人は――?」
店員「ええと……親知らずです」
佳南「お二人とも?」
店員「ええ」
亮太「親、知らなさすぎじゃないですか?」
店員「最近、そうなんですかね? それで、お二人はどうなさいますか?」

×      ×      ×

アイスコーヒーを飲んでいる佳南と亮太。
部屋に猫が数匹いるが全員寝ている。

亮太「猫……いるんですね」
と、部屋を見渡す。
佳南「ホントですね、猫」

亮太「あの、かなさんは、猫お好きなんですか?」
佳南「ええ。……りょうたさんは?」
亮太「僕もまあ、好きです」

間が持たない二人。
アイスコーヒーの氷がカランと鳴る。
全猫爆睡中。

亮太「これってやっぱり詐欺なんですかねえ」
佳南「……いやー。ねえ。微妙ですよね」
亮太「他の人とか最初からいなかったぽいですね」
佳南「なんか、お見合いみたいになっちゃいましたね」

亮太「猫カフェに来る人は、心優しいから、ちょっとぐらいの事じゃ怒らないとか思ってるんですかね」
佳南「ああー、でもそういう安心感ってあるのかもしれませんね」
亮太「わかりますけどねー。僕もなんだか、こういうパーティに来るのとか抵抗があって」
佳南「穏やかな人と出会えたらいいな、ってのはありますよね」

猫があくびをしている。

○黒味
佳南と亮太があえぐ声。

○ラブホテル・内
バスローブ姿の佳南、ソファに座ってタバコをふかしている。

佳南「ぜんぜん穏やかじゃないな」

パンツ一丁の亮太、横に座って、
亮太「お見合いの夜にラブホって――結婚相手としてどうよ?」

佳南「まあナシだね」

亮太「だよねー。俺もタバコ吸う女ムリだし」

佳南「『女』って言うタイプなんだ。冷めるわ」

亮太「いいんだよ。ワンナイトの相手なんか、冷めたほうが」

佳南「確かにー。じゃ、もう一回するニャン」
と、ベッドにダイブする。

亮太「誘い方終わってんね」

佳南「いいんだよ、終わってるほうが」

亮太「確かにー」

○黒味
プシッ、と。
缶ビールを開ける音。
しばらくしてまた、
プシッ

○街のどこか・階段(夜)
佳南と亮太。並んで座り、缶ビールを飲んでいる。

佳南「――みたいなのは、ちょっとヤダな」
亮太「確かに」

佳南「でも。そうならない、って安心感は大事じゃない?」
亮太「わかるわー。ワンナイトって寂しい響きよ」

佳南、くちびるをぷるんと指でなぞる。

佳南「私タバコ吸わないし」
亮太「僕も『女の人』って言うし」
佳南「やっぱ猫カフェで正解じゃない?」
亮太「かも」

亮太、手をおもむろに街灯に透かし、
亮太「『ベーコンエピ』って曲があって」
佳南「なに?」

亮太「知ってる? TOMOOの『ベーコンエピ』」
佳南「曲名? 知らない。トモオも知らない」

亮太「僕もあんま知らないんだけど。YouTubeで流れてきて」
佳南「うん」
亮太「なんか、『きみが好きだったベーコンエピ、実はわたしも好きだった』みたいな曲」
佳南「うん」
亮太「それはいいんだけど、歌詞でさ、『つないだ手がパズルみたいだった』って言うのよ」
と、自分の顔の前で手をグーパーする。

亮太「パズルって何だろ?って。最初、二人の指がぐちゃぐちゃに絡まってるのかな、って思ったんよ」

佳南も自分の手を見る。

亮太「でもコメントで、『ジグソーパズルみたいにぴったり嵌ったってことじゃないかな?』みたいなのがあって」
佳南「あー、それいいね。なんか」
亮太「でしょ? ラブソングだからそっちのほうがいいよね。ぐちゃぐちゃより」
佳南「うん」
亮太「どんな感じかな、ぴったり嵌るって」
と、また手を街灯に透かす。

佳南、しばらく亮太を見ているが、手を引っこめる気配がない。
ので……
亮太の手をとって、

佳南「恋人つなぎってことじゃない?」
と、指をからめる。

亮太、少し照れながら、つないだ手を見る。ちょっと余裕ぶって、
亮太「これはでも――パズルってほどかな?」

佳南「まあ普通かな」
と、亮太の顔を見て、
佳南「ひとついい?」
亮太「なに?」
佳南「手つなぐ作戦、ダサすぎない?」
亮太「ええええええ」

佳南「話長いし」
亮太、あわてて手をほどこうとするけれど、
佳南「いいよ、このままで」
と、力を入れる。

亮太「……」
佳南「手をつないで。缶ビール飲んで。40歳。まあまあ幸せな夜だよ?」
と、一口。
亮太、頬が緩む。

ぴったり嵌ってる、のかどうか――わからない二人の手。

(おしまい)


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作者より→
裏設定
佳南:理学療法士
亮太:ハチミツ農家

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