『隅田さんのざつ日誌　＃2 車内編』 作：味野たたき【5分シナリオ】

「隅田さんのざつ日誌　＃2 車内編」
作：味野たたき（あじのたたき）

◾️登場人物
隅田　直樹（34）　会社員
小長谷太朗（39）　隅田の同僚
中本　理沙（22）　隅田の同僚

〇会社・前
小さな会社。
隅田、小長谷、理沙が取引先の社員に挨拶をしている。
カエルの鳴き声が聞こえる。

〇車内
運転をする理沙。助手席に小長谷。
後部座席の隅田、具合悪そうにしている。

小長谷「隅田さんの三半規管でリニモ乗ったらどうなるんだろうね」
隅田「なんですかリニモって」
小長谷「リニアモーターカーに決まってるじゃないですか！」
隅田「そんな略してる人見たことないですよ」
小長谷「え、してるよ」
理沙「小長谷さんって自分で気づいていないと思いますけど訳の分からない略し方してますよ」
小長谷「どんな？」
理沙「さっきパワポの事パワポイって言ってましたし」
隅田「確かに言ってた」

隅田、窓を少し開ける。
小長谷「パワポイでしょ。なんでポ終わっちゃうのよ」
理沙「さっき私向こうの会社のトイレ行ったじゃないですか。そこで新卒の女の子が小長谷のあだ名付けてました」

小長谷、理沙を見る。
小長谷「マジで？　なんてなんて？　ポイさんとか？」
理沙「ウシガエル」
小長谷「え？」
理沙「ウシガエル」
小長谷「ウシガエル」

小長谷、寂しそうな顔。
隅田「容赦ない」

隅田も笑う。
小長谷、自分のビール腹を見る。
小長谷「ウシガエル……なんで」
理沙「声のトーンとか似てるんじゃないですか？　ウシガエルに。ねえ隅田さん」
隅田「うん、似てると思う」
小長谷「似てないよ、ひどいよ隅田さん。（理沙に）なんか隅田さんは言われてなかったの？」
理沙「話題にすら上がってなかったですね」
隅田「それはそれで寂しいんだけど」
小長谷「中本さんに付けてもらおう」
理沙「運転に集中したいので小長谷さん、適当にお願いします」
隅田「なんだよ適当って」

小長谷、考える。
小長谷「だし汁とかどう」
隅田「だし汁？」
小長谷「表には出てこないけど、いないと困るだし汁って隅田さんにピッタリじゃないですか」
隅田「んー、なんか微妙だな」
小長谷「（理沙に）なんかそういうの無い？」
理沙「ペペロンチーノのニンニク」
隅田「表に出すぎてるじゃん」
理沙「死んだセミの幼虫」
小長谷「……一生表に出てこないじゃん」
理沙「何でも自己流で略す小長谷さん」
小長谷「何それ」
理沙「恥ずかしいからもう、表に出てこないで欲しい」

小長谷、苦虫を噛む。
小長谷「苦しいな」
隅田、ビニール袋をしまう。
隅田「なんか酔いが治ってきた」
理沙「良かったですね。小長谷さんの生産のない雑談のおかげかもしれません」
小長谷「生産性なんてなくていいんだよ。なあ、隅田さん」
隅田「生産性度外視のチームですから。うちは」

信号が赤になる。
車が停車する。
理沙「なんかお腹減りましたね」
隅田「どこかで食べていこう」

前方にファミリーレストランの看板が見える。
看板に気付く小長谷。
小長谷「ファミトラでランチにしよう」

理沙と隅田、驚きの表情で小長谷を見る。
小長谷のシャツからビール腹がはちきれそうである。

　　　　　　　　　　　　　　　【おわり】