『首、帰る』 作・天才雨男 あまかどあまお 【5分シナリオ】
【登場人物】
赤沢(56)…………………時代劇映画の巨匠
シルヴィ(47)………………アメリカ人映画プロデューサー
尾形駿一(35)………………俳優
平将門………………帰ってきた怨霊
○東京都大手町・将門の首塚
N「平安時代中期、関東の英雄・平将門は謀反人の汚名を着せられ、その首は京都に晒された。無念の叫びとともに天を舞った首は、首塚の残る東京・大手町に落ちてきたと伝わる。だが、その本当の所在は誰も知らない……」
○宇宙空間
星々がきらめく宇宙に、落武者の首がひとつ、漂っている。
それに近づく、通りがかりの小隕石。
小隕石が落武者の首に衝突する。
首は勢いよく飛んで、地球に落ちていく。
○兵庫県姫路市・閉店後の百貨店内(夜)
ガラス戸を破って、人気のない店内に首が飛び込んでくる。
衝撃で破壊された店内。
墜落している首。
ややあって、その目がカッと開かれる。
× × ×
警備員が慌てて駆けつけてくる。
懐中電灯をつけ、荒らされた店内の暗がりを照らす。
その灯りの中、人影が蠢いている。
警備員、息を呑む。
暗がりの中から、動くマネキンが姿を現す。
警備員、ひっと悲鳴を漏らす。
暗がりでよく見えないが、頭部には落武者の首が乗っかっている。
警備員は逃げ出す。
○メインタイトル『首、帰る』
○姫路城内(日替わり)
映画撮影のクルー達が準備をしている。
武者鎧を纏った男優たち、小袖を纏った女優たちが現場入りしている。
そんな中で、監督の赤沢(56)とプロデューサーのシルヴィ(47)が談笑している。
シルヴィ「カントク、頼ムヨ。コクホー・姫路城、許可トルノ、大変ダッタカラネ」
赤 沢 「そう言うけどな、撮影で予想外のもんが加わらんと、おもろうならんのやで」
衣装担当のスタッフが来て、シルヴィに耳打ちする。
シルヴィ「鎧ガ足リナイ?ナンデヨ?」
その側に、異様に動きがギクシャクした鎧武者が歩いてくる。
皆の視線がそこに集中する。
鎧武者はシルヴィの近くまで来ると、怯えたように刀に手を掛ける。
シルヴィ「ダレ?」
訝しむシルヴィ。
小袖姿の女性エキストラたちが、面白がって鎧武者に群がる。
と、武者の刀がエキストラの一人の首を切り飛ばす。
皆が悲鳴をあげて逃げ散る。
赤沢、驚きながらもそれを凝視している。
シルヴィは赤沢の後ろに隠れる。
赤 沢「な、なんやコイツ?」
鎧武者の首が宙を舞う。
首を切ったエキストラの体に接着して、一体化する。
シルヴィ「カントク、逃ゲヨウヨー!」
赤 沢 「カメラ回せ〜!」
シルヴィ、赤沢の体を引きずって逃げる。
○同・城内の一室
主演俳優の尾形駿一(35)が隠れている。
そこへ、赤沢とシルヴィが慌ただしく逃げ込んでくる。
尾 形「あ、監督!大丈夫ですか?」
赤 沢「駿一!お前、なに隱れとんねん。侍大将らしゅう戦え!その刀は飾りなんか?」
尾 形「いや、俺はただの俳優ですから。し、静かにしてください」
尾形、シルヴィと二人で赤沢を抑え込む。
静かになったところへ、遠くから衣擦れの音が近づいてくる。
徐々に近づいてくる音。
音は、部屋の前まで来て止まる。
赤 沢「(密やかに)駿一よぉ、俺がお前を正真正銘の役者にしたる。侍になってこい!」
と、尾形を部屋の外に蹴り飛ばす。
尾形、扉を破って廊下に転がり出る。
目の前に、落武者首のついた小袖の女性が立っている。
尾形、悲鳴をあげて逃げ出す。
落武者首が、小袖姿の体を捨てて宙を舞う。
首だけが尾形の後を追う。
○同・天守閣最上階
尾形が逃げてくる。
もう上はなく、追い詰められて狼狽する。
そこへ首が飛んでくる。
悲鳴をあげて逃げる尾形を、首が追い回す。
赤沢とシルヴィが追いついてくる。
その時、首は尾形の後頭部に吸いつき、体の中に入る。
尾形の顔つきが変わっていき、人格が落武者のものに変わる。
シルヴィ「シュンイチー!」
シルヴィの絶叫。
将門になった尾形、その絶叫を聞いて突如後ずさる。
刀を抜いて構える。
シルヴィと赤沢、ギョッとする。
が、なぜか将門(尾形)のほうが怯えている。
将 門「も、もののけめ……」
シルヴィ「モノノケ?ナニ?」
赤 沢「……ははぁ、わかった。シルヴィ、あんたが怖いんや。外人はモンスターなんや」
シルヴィ「モンスター?失礼ネー!」
赤 沢「(将門に)あんた、誰や?」
将 門「……将門。相馬の小次郎、平将門じゃ」
赤 沢「ええ?あの、首塚の将門さんか?」
将 門「ぬしは誰じゃ」
赤 沢「俺は、侍が好きな映画監督。要は、あんたの味方や。あんた、何が望みや?」
将 門「京に上って、戦をするのじゃ」
赤 沢「京か……。京はもう都やない。あんた、目指すとこ間違えとるわ。将門さん、東に帰りなはれ。今の都、東京ちゅうとこや。そこならあんたを祀る神社も、塚もある。今のあんたは、都に祀られる神様なんやで!」
将 門「……わしが、神か」
赤 沢「英雄・平将門。今や都の守護神やで。故郷に、東に帰るんや」
将門、言われて東の方を見やる。
将 門「東か……」
将門、何かを決意して、その場に座る。
持っていた刀の柄を、赤沢に差し出す。
将 門「ぬしに頼みがある」
赤 沢「?」
将 門「わしの首を刎ねてくれい」
シルヴィ「エェー?」
将 門「それでわしは、東に帰れる」
赤 沢「(微笑し)……よし、わかった」
と、赤沢は刀を受け取って構える。
シルヴィ「チョット、シュンイチ、シュンイチハ?」
赤 沢「英雄の帰還、見届けたるで!」
赤沢、渾身の力で将門(尾形)の首を切る。
一瞬、閃光が走って、東の空に何かが飛び去る。
尾形の体が床に倒れる。
シルヴィ、慌てて尾形に駆け寄る。
尾形の首はちゃんとついている。
倒れた尾形から、うめき声が漏れる。
赤沢は、閃光が走っていった東の空を、満足気に見つめている。
○東京都・首相官邸・外(夜)
隕石が落下するように、将門の首が首相官邸に突っ込む。
凄まじい轟音の後、静寂。
○赤沢の自宅(日替わり・朝)
赤沢、パソコンでインターネットニュースを調べている。
見出し『首相官邸に隕石落下』
『まるで別人?覇気みなぎる首相』
赤 沢「おお、やっとるやっとる」
嬉しそうな赤沢、別のニュースを開いて表情を曇らせる。
見出し『首相、腰くだけ 日米首脳会談』
赤 沢「こらあかん、アメリカ人はもののけと違うでぇ!」
終