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『レンタル・バレンタイン』作:小耳鋏うさみ【5分シナリオ】

『レンタル・バレンタイン』
作:小耳鋏うさみ

【主な登場人物】
創<はじめ>(17)
道彦(17)

○しらら高校・体育館・中
S「2月12日」

体育のバスケットボールの試合中。背が高い男子生徒同士の激しい攻防戦が繰り広げられている。
シュートが決まり、隣のコートから女子生徒たちの歓声が響く。
その様子を無表情で眺めている男子生徒が2名。創(17)と道彦(17)が体育座りしている。

創 「クソッ。あいつ、絶対バレンタイン意識してるだろ」

道彦「へえ……」

創 「スポーツ枠も厳しいか」

道彦「創がスポーツで輝いたことあったか?」

創 「今年は俺にもスポットライトが当たると思うんだ」

道彦「他の作戦あたろうぜ」

創 「みっちゃん、今年もやるでしょ。チョコの報告会」

道彦「いや……俺今年はいいや」

創、道彦の肩をつかみ揺らしまくる。
創 「どうしたんだよおお! 毎年ゼロだからって諦めるのは早い」

道彦、荒ぶる創を静止して、
道彦「なあ、創。やっぱり時代はバラードだよ」

創 「ええ? つい最近デスメタルしか勝たねえって話し(てたじゃん)」

道彦「俺、ラブソングの意味が分かったんだ」

創 「え? ええ?」

道彦、手を振りはじめる。
道彦の目線の先、女子生徒がはにかみながら手を振っている。

ハジメ「ええ?」

道彦「バレンタインなんてのはな、数じゃないぞ。心のこもった1個が大事だ」

創 「俺がたくさんチョコもらっても羨ましがるなよ! 絶対だぞ!」

体育教師の笛の音。道彦、颯爽と彼女の元へ去っていく。
 
○創の家・居室内(夜)
創、貧乏ゆすりをしながら、パソコンで何かを検索している。勢いよくエンターキーを叩きまくっている。
パソコン画面。

【バレンタイン チョコ もらう方法】
【バレンタイン レンタル彼女】
などの検索文字列が並ぶ。

検索結果を眺める創、画面に食いつく。

創 「これだ」

パソコン画面。

【レンタルバレンタイン! 今年こそチョコが欲しいあなたに】
【今ならレンタル無料キャンペーン】

創、ニヤリと笑い、申し込みボタンを押下。

【好きなチョコを選んでね】【いくつ選んでも無料!】
創、ものすごい速さでチョコにチェックを入れていく。

×   ×   ×

創 「……17年間の分だと思えば少ない方か」

パソコン画面。

【最終確認画面】【申込数100個】

【利用規約に同意し、申し込む】ボタンが表示される。
お構いなしにボタンをクリックする創。
ボタンの下の方に小さな赤文字で何か書いてある。
 
○同・リビング(朝)
S「2月14日 バレンタインデー」

創、いつもより念入りに髪をセットしている。
創、台所に向かって、

創 「母ちゃん、今日荷物届いても開けないでよ」
 
○歩道(朝)
周りをキョロキョロしながら歩く創。
いつもと変わらない通学路。

創 「おとなしく届くの待つかあ」
と、後ろから声をかけられる。

女性「すみません!」

創が振り向くと、20代ほどの女性が立っている。

ピンク色の箱を創に押し付けて、去っていく。

創「え、ええ?」

創、箱の匂いを嗅ぐ。
創 「……甘い。甘い! 甘い!!」
 
○しらら高校・昇降口前~下駄箱
創、スキップしながら登校してくる。
下駄箱を見て驚く。

創 「ええ?」

下駄箱にハート型の箱が三つ。
ニヤニヤしながら取り出す創。

道彦を見つけ、声をかけようとする。
が、道彦、彼女とイチャイチャしている。

創 「くっ……」
 
○同・教室内
チャイム音。生徒たちがお弁当を出し始める。
創、ピンクの箱を眺めてニヤニヤ。
 
○同・廊下~自販機前
創が廊下を歩いている。
と、ラグビー部の集団が走ってくる。すれちがい様にタックルされる。
タックルと共にチョコをどんどん押し付けられていく。
チョコの箱が散乱した廊下に呆然と座りこんでいる創。

○点描
教室にいる創。廊下から学校のマドンナに手招きされる。

×   ×   ×

マドンナからチョコをもらって嬉しそうな創。後ろから腕を引っ張られる。

×   ×   ×

購買に来ていたパン屋のおじさんからチョコを渡される創。

×   ×   ×

トイレの個室にいる創。上からチョコが降ってくる。慌ててキャッチ。

×   ×   ×

疲れた様子の創。
創の前には長蛇の列。流れ作業のようにチョコをもらい、青いゴミ袋に入れていく。
×   ×   ×

下校中の創。周りをキョロキョロしながら怯えている。
前方からやってくる犬の散歩中の老夫婦や主婦たちからチョコを押し付けられる。走って逃げ出す。

×   ×   ×

創、老若男女に追いかけられている。
 
○公園・中(夜)
道彦、彼女からチョコを受け取っている。
二人で微笑み合っている。と、道彦のスマホに通知。

【創:助けてくれ】
 
○創の家・居室内
青いビニール袋いっぱいに入ったチョコの箱。
道彦、驚いた様子で、

道彦「スポットライト当たってよかったな」

創 「俺が悪かったよ」

道彦「謙遜すんなって。なんか知らないけどモテてよかったじゃん」

創、パソコンに向かい、レンタルバレンタインのホームページを開く。

創 「これだよ、頼みすぎたわ」

道彦、椅子に座りじっとサイトを見る。
創、嬉しくなさそうにチョコを食べ始める。

創 「一緒に食べようぜ」

道彦「なあ、お返しどうすんの?」

創 「まーたみっちゃん、紳士ぶっちゃって。心こもってないチョコに返す必要ないだろ」

創、薬のようにチョコを流し込んで食べている。

道彦「ほらこれ」

道彦、パソコン画面を見せる。

【レンタル無料キャンペーンにつき、ホワイトデーまでにお返しを用意してください】
【選択したチョコ以上の額のお返しをご用意ください】

創 「聞いてないよ! いくらだよ!」

パソコン画面。【総額:15万円】

創、チョコを食べるのを止める。

創 「こんなの詐欺だ! どうしよ、みっちゃん!」
道彦に泣きつく創。

道彦「とりあえず……もらったチョコ数えてみるか」

創 「絶対100個ももらってない」

箱を積み上げて検品し始める道彦。

×   ×   ×

道彦「99、100……101」

創と道彦、顔を見合わせる。

創 「もう一回」

×   ×   ×

創・道彦「99、100、101」

創 「おまけついてるって書いてあった?」

道彦「ねえよ」

道彦、包装がシンプルなチョコを一つ持ち上げる。チョコについてるカードを読む道彦。


道彦「創! このチョコ本命だぞ!」

創 「ええ?」

カードを読む創。頭を抱える。

創 「誰にもらったか全然分からん」

道彦「大事な本命チョコ、ゴミ袋に入れてたんだな」

道彦、創の本命チョコについたゴミを払ってやる。

創 「お願い、チョコくれた子探すの手伝ってえ」
創、道彦に泣きつく。

終(?!)

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