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『ランチに何食うかが一日で一番大事に決まってる(隅田さんのざつ日誌#3)』 作:味野たたき【5分シナリオ】

「ランチに何食うかが一日で一番大事に決まってる(隅田さんのざつ日誌#3)」
作:味野たたき(あじのたたき)

◾️登場人物
隅田 直樹(34) 会社員
小長谷太朗(39) 隅田の同僚
中本 理沙(22) 隅田の同僚

〇蕎麦屋・店内
メニューを見ている理沙と隅田。
3人分の水を持ってきた小長谷、座る。

小長谷「水持ってきたよー」
理沙「なめこ蕎麦も捨てがたいしなあ」
隅田「蕎麦屋の親子丼って美味いんだよなあ」

小長谷を無視してメニューを眺める2人。

小長谷「……(少し寂しい)」
小長谷、水を2人の前に丁寧に並べる。

小長谷「お冷、もってきたよ!」
と、少し声が大きくする。

理沙「てか山菜の天ぷら蕎麦もあるじゃない。幸福指数あがりまくりなんですけど」
隅田「てか親子丼ってよくよく考えると残酷な名前だよね。鶏肉と卵を使うからでしょ。もっといい名前なかったのかな」
小長谷「……」

小長谷、2人のコップを手に取り、2人の顔の前でわざとらしく見せる。

小長谷「冷たーいお冷。飲みましょ?」
理沙「ここにきてちくわ天蕎麦も登場。やばいな。オリンピックだ。ソバリンピックだ」
隅田「だからといって鳥卵丼なんてしっくりこないしなあ。じゃあ親戚丼? 鶏肉のおじさんに、姪っ子の卵とか……もう意味わかんないな」
小長谷「午前中の商談で乾いた喉を冷えた水で潤しませんかー?」

理沙、小長谷を見る。

理沙「さっきから水水うっせえな! こっちはなめこか、山菜の天ぷらか、ちくわ天の重大な決断に迫られてんだよ! 人生かかってんだよ!」
小長谷「……すみません(コップを置く)」
隅田「メキシコ産の鳥肉とオーストラリア産の卵で作った親子丼って親子なの? それ本当に親子って言えるのか? でも血の繋がりだけが親子じゃないしな」
と、小長谷に言う。

小長谷「知らないよ! 俺お腹減ったんだけど。水持ってきてあげたんだけど。君たちの上司なのに持ってきてあげたんだけど!」

小長谷、水を一気に飲む。

理沙「どんだけ水飲みたいんですか? 蓄えてんすか?」
小長谷「君らのせいだよ」
理沙「水瓶座ですか?」 
小長谷「なんだよ急に……ふたご座だよ」
理沙「……(メニューを見て悩む)」
小長谷「広げろよ! 俺の星座の話」
隅田「国産の鳥肉とアメリカ産の卵で作った親子丼だったら、ハーフ丼だよね、小長谷さん」
小長谷「まだやってんのそれ。ハーフだよハーフ!」
隅田「ですよね、やっぱりハーフ丼がしっくりくきますよね」

隅田、頷きながら水を飲む。

理沙「日本の鶏とアメリカの鶏との間にできた子供だからアメリカの卵ってのは少し変じゃないですか?」
と、水を飲む。

隅田「(考える)」
隅田、理沙を見る。
隅田「確かにな。ってことは卵はアメリカの鶏夫婦から子供を……」

隅田、ハッとする。

理沙「複雑な事情……鶏も色々あるんですよ、隅田さん」
小長谷「……」
隅田「なんか、人生色々あるよね」
理沙「全部抱きしめて生きていきたいです」
隅田「わかるなその感覚」
小長谷「……水」
理沙「隅田さん」
隅田「中本さん」

コップを掲げる2人。

理沙「今、幸せにランチを食べられることに」
隅田「乾杯です」

隅田と理沙、コップをあわせる。
水を飲み干す2人。
隅田と理沙、当たり前のように飲んだコップを小長谷に渡す。

小長谷「……」
小長谷、コップ受け取り、立ち上がる
と、給水機に向かう。
隅田たちのテーブルに店員がやってくる。

小長谷「(振り向き)あ」
理沙「じゃ、マグロ山掛け蕎麦一つ」
隅田「冷やし肉うどんで」

小長谷、店員に向かって手を広げる。

小長谷「待って待って」
隅田「小長谷さん早く注文!」
小長谷「あ、え、えーと……もういいや! 生ビール!!」
隅田と理沙は驚いている。

【おわり】


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