見出し画像

『新盆』 作・天才雨男 あまかどあまお 【5分シナリオ】

【登場人物】

松岡ヒロシ(20)…………………大学生
ミハル(20・82)………………ヒロシの祖母
サナエ(50)………………ヒロシの母
ヨシロウ(54)………………ヒロシの父
じいちゃん
親戚一同
僧侶


⚪︎松岡の家・仏間

仏間から、朗々と読経の声が聞こえてくる。
真言宗の僧侶が経をあげている。
後ろで家族親戚が10人ほど、参列している。
ヒロシ(20)、居眠りをして体がぐらついている。
イビキが出て、後ろの叔父から頭を小突かれる。
仏壇に、ミハル(82)の遺影。その顔が笑っている。


⚪︎同・外

親戚たちが、それぞれに車に乗って帰っていく。


⚪︎同・仏間

Tシャツ・短パンに着替えたヒロシが、縁側で寝そべっている。
同じく普段着に着替えた母・サナエ(57)が隣の部屋から顔を出す。

サナエ「もう行くで。ほんまに行かんの?」
ヒロシ「行かん」
サナエ「……ほなあんたは、ばあちゃんと留守番しとき。行ってくるけんな」

ヒロシ、機嫌悪そうに寝返りをうつ。
玄関の方で、両親の声が聞こえる。
ヨシロウ「ええんか?」
サナエ「行こいこ」
      ×     ×     ×
陽が傾いてきた縁側、相変わらずふて寝しているヒロシ。
汗だくで眼を覚ますと、目の前に見知らぬ若い女の顔がある。

ヒロシ、びっくりして、
ヒロシ「何や?……あんた、誰?」
飛び起きるヒロシを、女はおかしそうに笑う。

女、ヒロシをニヤニヤしながら眺めて、
女 「なんや、わからんのか」
ヒロシ「?」
女 「ばあちゃんじゃ」
ヒロシ「……」

今度はヒロシが可笑しくなって、
ヒロシ「え、何言うてんの?ばあちゃん、こないだ死んだばっかりなんやけど」

ヒロシ、仏壇の遺影に見入る。
今度は女を見て、まさかという顔をする。

ミハル(女)「お盆やけん、戻ってきたんや」
ヒロシ「……お盆やったら、戻れんの?」
ミハル「お盆を何やと思うとん?」

ミハル、仏壇に供えられた桃を手に取る。
その皮を剥き始める。

ミハル「ヒロシ、教えとくわ。供えてくれるんはええんやけどな、皮むかんと食べられんやろ?」
ヒロシ「……」
ミハル「ヒロシ、包丁持ってきて」
ヒロシ、しぶしぶ従う。
      ×     ×     ×
綺麗に切り分けられた桃が、皿に並べられる。
ミハル、それを仏壇に供える。

ミハル「これでええ」
ヒロシ、まだ半信半疑でミハルを見ている。
ミハル「ヒロシ、お腹減ったやろ?」


⚪︎同・台所(夜)

鍋にグツグツ煮えるすき焼き。
ミハル、肉を少しよそってヒロシに渡す。
ヒロシ、それを口に含む。
その味を噛みしめる。

ヒロシ「……ほんまや。ばあちゃんなんやな」
ミハル「そう言うとるやろ。早よご飯ついで。お客さんいっぱいおるんやから」
ヒロシ「お客さん?」

⚪︎同・客間(夜)

ヒロシとミハルがすき焼きの鍋や白ごはんを持って客間に入っていくと、ご先祖たちが着席してくつろいでいる。
先祖たち、歓声をあげる。
面食らうヒロシ。

      ×     ×     ×
隣に座った青年(じいちゃん)からビールを注がれるヒロシ。
じいちゃん「ん?もう、二十歳になっとるんやな?」
ヒロシ「はぁ……」

じいちゃんのグラスが空になっている。
ミハル「あんた、もうええん?」
じいちゃん、少し迷って、
じいちゃん「ん、ここでやめとこ」
ミハル「(ヒロシに)じいちゃんはな、酒で命縮めたけん、摂生しよんやで」
ヒロシ「へえ……」

ミハル「(じいちゃんに)この子、ヨシロウによう似てきたやろ?」
じいちゃん「そら似てくるわ、親子やのに。わしに似たほうがええぞ。周りの女が放っとかんから」
ヒロシ「(苦笑)……」
ミハル「この子な、今フラれてふて腐れとるんや。そんなんもヨシロウにそっくり」
ヒロシ「なんでそんなん知っとん?」
ミハル「そのぐらいわかるわ、身内やのに。けどあんな、だらしない子はやめとき。ばあちゃんは好かんで」
ヒロシ「……」
じいちゃん「まあ、ようあることや。飲め飲め」
周りの先祖がグラス片手に集まってくる。
先祖A「そうや、飲め飲め」
先祖B「乾杯!」
ヒロシ、何人もの先祖と次々にグラスを合わせる。


⚪︎同・仏間(夜)

陽が落ちて暗くなった縁側で、ヒロシが眼を覚ます。
寝ぼけ眼で体を起こす。

ミハルの声「あんな、だらしない子はやめとき。ばあちゃんは好かんで」
ヒロシ、声を聞いて仏壇の方を振り向く。
遺影のミハルが笑っている。
                            終 

いいなと思ったら応援しよう!