見出し画像

『はつうーり(隅田さんのざつ日誌#5)』 作:味野たたき【5分シナリオ】

「はつうーり(隅田さんのざつ日誌#5)」
作:味野たたき(あじのたたき)

◾️登場人物
隅田 直樹(34) 会社員
小長谷太朗(39) 隅田の同僚
中本 理沙(22) 隅田の同僚

〇ショッピングモール・中
家族連れで激込みの店内。
休憩スペースには門松などの飾り。
その奥のマッサージチェアに理沙と小長谷が並んで横になっている。

理沙「結局毎年同じことしてますね」
小長谷「実家帰ればいーじゃん」
理沙「人混み恐怖症なので12月に帰省したんですよ」
小長谷「え、はや」
理沙「甥っ子にお年玉もあげて。雑煮も食って、お正月満喫してきました」

リモコンの強さを調節する小長谷の手。
小長谷、悶絶の表情を浮かべる。

小長谷「尖ってるね」
理沙「まあ、コンビニ的な価値観ですよ」
小長谷「コンビニ?」
理沙「ほら、コンビニってクリスマスの深夜には恵方巻売ってるじゃないですか。そっち側の人間です」

小長谷、リモコンを弱める。

小長谷「俺ね、それに関しては疑問に思うことが沢山あるんだ。クリスマス終わっても1週間くらいは余韻を楽しんだほうがよくない? チキンとかホールケーキとかそのまま置いとけば絶対売れるって」
理沙「どんな人が買うんですか?」

小長谷、少し考える。

小長谷「すぐに浮かぶのは誕生日が1月1日の人だな」
理沙「クリスマスケーキが誕生日ケーキとして提供されるんですよ?『おめでとう』のプレート以外にも、サンタとか家とか、よくわからんグラニュー糖の塊がのってるんですよ?」
小長谷「サンタとかいた方が豪華でいいじゃん。沢山いた方が楽しいじゃん」
理沙「小長谷さん、もし自分の結婚式にサンタが参列していたら嫌じゃないですか?」
小長谷「……別に嫌じゃないよ」
理沙「1人だけ歌ってたら嫌じゃないですか?」
小長谷「……いや、別に構わないよ」
理沙「両親への感謝の手紙の場面でサンタに読まれたら嫌じゃんないんですか?」
小長谷「例えがついていけない」
理沙「まあ、小長谷さんの結婚式なんて来世の話でしょうけど」
小長谷「めっちゃ攻撃するな」
理沙「余韻なんて必要ないですよ」
小長谷「でもさあ、クリスマスの日に恵方巻とか絶対気分下がるよ」

理沙、考えている。

理沙「あ」
小長谷「なに」
理沙「クリスマスの時、恵方巻じゃないですか?」
小長谷「だから何なのよ」
理沙「基本的に2か月先を行ってますね」
小長谷「まあな」
理沙「クリスマスだったら恵方巻。ではお正月なら?」
小長谷「え、3月だからひな祭りとか?」
理沙「ひな祭りなら良くないすか?」
小長谷「たしかに。お正月終わってひなあられ売ってたら買うかも」
理沙「結局クリスマスが嫌いなんですよ、小長谷さんは」
小長谷「ええ、好きだよ?」
理沙「クリスマスは寂しいものって固定観念がこびりついているんですよ」
小長谷「勝手に決めつけないでくれる?」
理沙「結局のところ、どこまで行っても寂しい人間なんですよね」
小長谷「俺とか隅田さんはうら寂しいタイプの人間なんです」
理沙「あ、隅田さん道ずれにした」
小長谷「隅田さんはこっち側の人間だから」
理沙「今年は隅田さん死亡?」
小長谷「インフルだって」
理沙「インフルか」
小長谷「めったに風邪なんかひかないのに」
理沙「忘年会で小長谷さんが、4次会のあとに下品な路上飲みしたからじゃないですか?」
小長谷「路上飲みじゃないよ、5次会。寒空の下でコンビニのレンジで温めたワンカップを飲むのが5次会」
理沙「四十のおっさんが5次会って青春謳歌しすぎじゃないですか?」
小長谷「年末年始は行けるところまで行くって昔から決めてるんだ! ねえ、初売りでクリスマスケーキ買って隅田さん宅に突撃しようよ」
理沙「ケーキが運よく余ってたら検討します」

小長谷と理沙、立ち上がる。

【おわり】

いいなと思ったら応援しよう!