自分の寿命を決める
以前、タイで日本語教師をしていた時のこと。
職場に40歳ぐらいの新人男性が入ってきた。
細身で、眼鏡をかけていて、いかにも真面目そうな人だった。
その人と関わるうちに、人間的にとても魅力的な人だということが分かった。
以下、彼の経歴について。
元々は大手電機メーカーでシステム系の仕事をして何の不自由もない生活を送っていたが、3.11の東日本大震災で心が折れ、会社を辞めて、大学時代を過ごした仙台に戻った。仙台でアパートを借り、3年間何もしない日々を過ごした。その後、新たな仕事でベトナムへ行き、2年間働いた。ベトナム人にシステム系の仕事を教えるのが役目で、そのときに分かりやすい日本語で説明することの大切さを知り、日本語を教えることを学びたいと会社を辞めて帰国。日本で日本語教師の養成講座を受け、試験を受けて合格。そしてタイで日本語教師デビューをした。
職場では年齢が下の人が多いのに、誰に対しても謙虚で、感謝や気遣いを忘れない人だった。
仕事に対していつも真面目で、自分に厳しい人だった。
その人とたまたま人生の話をしていた時に突然言われた、忘れられない一言。
「僕は自分の寿命を50歳と決めているんです」
え?どういうこと?寿命は自分で決められるのものなのか?とすぐに質問した。
以下、彼の考えを教えてくれた。
なぜ人は自分のやりたいことがあってもすぐに行動しないのか。なぜお金を貯めるのか。
それは自分が長く生きられると思っているから。
老後の不安があるから、今やりたいことを見つけず、せっせとお金を貯めている。
日本人は平均寿命が長いといっても、実際のところいつ死ぬかなんて誰にも分からない。分からないからこそ、予定が立てられない。
むしろ死ぬことなど考えたくないから、すべてを後回しにしてしまう。
自分の寿命を決めてしまえば、そう長くない未来に自分が本当に何をしたいのか見えてくる。
自分が50歳までしか生きられないとしたら、まず彼は海外で日本語を教える仕事をやってみたいと思ったのだ。
だから、今この人はここに居るんだ、と納得した。
その後、彼は青年海外協力隊に応募し、内定をもらっていた。
彼と一緒に働いたのは、わずか半年だった。
もしあなたが50歳までしか生きられないとしたら、今何をしたいですか?