#97「切り捨て御免」は命がけ?

江戸時代、武士には通称「切り捨て御免」と呼ばれる特権があった。故に、江戸時代は武士がやたらめったら町人や百姓を切り捨てていたような誤解をしてしまうが、実際はそうではなかったようだ。

切り捨て御免とは、武士が町人や百姓から「耐え難い無礼」を受けた際に、その場で切り捨てても罪に問われないという特権である。「切り捨て御免」は後世つけられた俗称だが、江戸時代の裁判の基準となった公事方御定書によってその内容は定められている。

「無礼」とは、具体的には武士に対する暴言や、故意にぶつかったり、道をふさいだりする行為だったという。あるいは、殴り掛かられるなど、正当防衛が認められる場合も切り捨てが認められた。しかし、そうした行為は武士個人の裁量でいくらでも「無礼」となり、相手を切り捨てることができそうだが、重要なのは切り捨てた後である。
切り捨て御免を行った武士は、切り捨てを放置はできない。藩に届け出を行った後、町奉行所(現代の裁判所)で行われる評定において、自分が命を奪うに相応の無礼をされたことを証明しなければならなかった。例えば、切り捨て御免の認められた事例は、武士が無礼を辞めるように注意したにもかかわらず、それでも聞かずに無礼が続いた場合が多いそうだ。少し暴言を吐かれたくらいでは切り捨て御免は認められないのである。
 切り捨て御免を認める基準は厳しく、町人が口裏を合わせて武士を貶める事例もあったことから、実際に切り捨て御免が認められた事例は江戸時代後期にはほとんどなかったらしい。

もし無礼の証明できなければ、武士自らが斬首刑やお家取り潰しの可能性もあり、切り捨て御免を行うのは命がけだった。そのため、大きな戦乱がなかった江戸時代は、多くの武士が実際に刀を振るうことなく生涯を終えたという。

【参考】


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