#159 平和の式典に持ち込まれた「核のボタン」

アメリカの大統領には、冷戦期より代々、「核のかばん」や「核のフットボール」とよばれる核攻撃指令ができる通信機器が入ったかばんが引き継がれている。かばんには「核のボタン」とよばれる通信機器の他、核の攻撃目標のリストや暗証コードなどが入っていると言われている。大統領の軍事補佐官が交代で大統領とともに行動して管理し、外遊先やプライベートでも常に随行している。

アメリカの大統領が日本を訪れた時に核のフットボールが注目された。2016年にオバマ大統領が広島を訪れた時も、2023年にバイデン大統領が広島を訪れた時も、その傍らには核のボタンがあったのである。
日本国内では平和の式典に核のボタンを持ち込むのは矛盾しているという批判が相次いだ。おそらくアメリカもそういった批判があがることは分かっていただろう。にもかかわらず核のボタンが持ち歩かれるのはなぜなのだろうか。

1つは、アメリカが核攻撃を受けた際、迅速に反撃を行う必要があるからである。例えばロシアがアメリカに核攻撃を行った場合、アメリカは軍事拠点
が核ミサイルによって破壊される前に反撃の核ミサイルを発射する必要がある。一度被弾してしまえばアメリカの軍事拠点が壊滅的な被害を受け、反撃ができなくなってしまうからである。その猶予はおよそ30分と言われている。核ミサイルを発射されたことが分かった場合、反撃を即断しなければならない。そのために常にアメリカの大統領は核攻撃の準備をしていると言われている。

さらに、そのボタンを物々しいかばんに入れて持ち運ぶことで、他国のメディアに注目を浴び、結果的に核抑止につながるという効果が期待できる。ことに、人類唯一の被爆地である広島に、平和の式典にかばんを持ち込むことは全世界の注目の的となる。そこで、世界がアメリカの核の力を否応なく認識することになる。むしろアメリカにとっては平和の式典だからこそ意味があるのかもしれない。

ちなみにロシアも同様に「核のかばん」が存在していると言われている。ロシアの核のかばんは「チェゲト」と呼ばれている。「チェゲト」という名前は、ロシアとジョージアの国境に位置するチェゲト山に由来している。かばんは大統領・国防相・参謀総長の3人が持っていると言われており、3人全員同時の操作が必要という説と、誰かが操作不能になった状態を想定して個々に作動するという説があるが、詳細は謎につつまれている。

【目次】

【参考】


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