#235 陸上の世界大会にド素人選手が出場?
中国で開催された学生スポーツの世界大会、女子陸上100mの予選で21秒台というとんでもない記録を出した選手が話題になっている。
ブラジルの選手が11秒台でゴールする中、ソマリア代表のナスロ・アブカル・アリ選手のタイムは21秒81。
大会で最も遅い記録を出したアリ選手は、陸上選手でもスポーツ選手でもない「ド素人」だったそうだ。
そんなアリ選手はなぜソマリア代表に選ばれたのか。
アリ選手は、実はソマリア陸上競技連盟の会長と親戚関係で、スポーツ省は、選考過程において何らかの便宜があったと指摘。職権を乱用したとして、会長を停職処分にした。
この部分だけ切り取られたニュースを見ると、「ソマリアの競技連盟はどれだけ腐敗しているんだ、けしからん」となりそうだが、実はこのニュースは報道の一部。フルサイズのニュースではソマリア特有の事情も紹介されている。
ソマリアは国民のほとんどがイスラム教スンニ派の国。スンニ派はイスラム教における多数派であり、イスラム教のルールを厳格に守ることを重視する。
そのため、女性の肌の露出はふさわしくないとして女性のスポーツ参加が遅れている。
ソマリアで活動するイスラム過激派組織「アル・シャバーブ」は、スポーツに取り組む女性を標的とした攻撃なども行っているという。 BBCによると、実際に2012年のロンドン・オリンピックで女性400メートル走に出場した選手は、大会期間中ずっと殺害予告を受けていたという。
このような中、アリ選手は出場の意図についてこう語っている。
「ソマリアでは、多くの女性がスポーツ参加を恐れている。女子100メートル走の出場選手がいなかったので、私が出場を申し出た。ソマリアの人々を勇気付けたかった」
もしこの発言が本当であれば、アリ選手の行動は称賛されるべきだと思う。
本当に出場を希望する選手がいなかったのか、陸連の競技連盟会長の不正があったのかは確かめようがないし、そこまで踏み込んだ報道を行っているメディアも今のところないようだ。
その真意が分からなければ、遅かったことだけを切り取ってアリ選手を中傷することは絶対にしてはいけないだろう。
イスラム圏の文化について知るとともに、メディアリテラシーとしても好事例である。
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