令和6年 予備試験 論文 答案再現 - 民法
第1 設問1(1)
1. 遺言の効力は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(985条1項)。そ
して、失踪宣告により死亡したものとみなされる(31条)。
本問では、Aは令和3年4月1日に船舶火災によるタンカーの沈没という
「危難」から、その1年後の令和4年4月1日において生死が明らかでなかっ
たことから(30条2項)、「危難が去った時」であるタンカーが沈没した令和
3年4月1日に死亡したものとみなされる。
そのため、Aの遺言の効力により、乙土地はCが相続し、Cが所有権者と
なる。
従って、Bは乙土地については何ら権利を有さず、無権利者から買い受
けたDも何ら権利を有しないのが原則である。
2. もっともDは、Bの登記を信頼して乙土地を買い受けていることから94条
2項が類推適用されることで保護されるとの反論が考えられる。
しかし、94条2項は権利外観法理の表れであることから権利者の帰責性
が要件となるところ、本問におけるCには何ら帰責性は認められず、従
って、Dの反論は認められない。
3. 以上から、本問ではCの請求は認められない。
第2 設問1(2)
1. 本問ではAの失踪宣告が取り消されており(32条)、従って、乙土地の所有
権はAに帰属することになり、Bは無権利者となることから、Bから乙土地
を買い受けたE、及び、Eから乙土地を買い受けたFはいずれも無権利者と
なることが原則である。
2. Fは、32条が、取消前に善意でした効力に影響を及ぼさないとしており、
Eは善意であることから、Eは乙土地に対する権利を有していたと反論する
ことが考えられる。
この点、32条がこのように規定している趣旨は、取引の安全から失踪宣
告の取消しより不利益を受ける者を保護しようとする点にある。そうする
と、ここでいう「善意」とは、取引を行う双方が善意であることを要する
と解する。
本問においては、取引の一方当事者であるBが悪意であり、本条港は適
用されないため、Fの反論は認められない。
3. 従って、Aの請求は認められない。
第3 設問2(1)
1. GのHに対する不当利得返還請求権(703条)は認められるか。
2. HはGの振込により500万円を得ており、「法律上の原因なく」とは言え
ないとも思える。
もっとも、703条の趣旨は、当事者間の実質的な公平を確保する点にあ
ることから、「法律上の原因」とは、債務を弁済する場合のように経済的
な出費を行うべきという関係がある場合を言うと解する。
本問では、GとHには、債務を弁済する場合のような経済的な出費を行う
べきというような関係は無い。
従って、「法律上の原因」があるとは言えない。
3. そして、本問では、Hは500万円の「利益」を得ており、一方でGは500
万円の「損失」が認められ、両者の間には因果関係も認められる。
4. 従って、GのHに対する不当利得返還請求権(703条)は認められる。
第4 設問2(2)
1. GのLに対する不当利得返還請求権(703条)は認められるか。
2. Lは、Lの利得はJの一般財産からの弁済であることを反論としている。
もっとも、Jの口座残高はここ数年間は0円であり、本件振込及びその払
い戻しを除き入出金は行われていなかったのであるから、Lに弁済された5
00万円はGが誤振込した500万円と同一であると認定でき、Jの一般財産か
らの弁済であるとは言えない。
従って、この点でのJの反論は認められない。
3. では、「法律上の原因がある」との反論はどうか。この点、Lは債権の弁
済として500万円を受領していることから、経済的な出費を伴う関係によ
り500万円を受領していると言え、「法律上の原因」があるとは言えな
い。
従って、この点ではJの反論が認められ、Gの請求は認められない。
4. このように解したとしても、本件は、誤振込によって受領した500万円
で弁済をおこなったJが責任を負うべきであるが、単に弁済を受領したに留
まるLにJが無資力であるリスクを負わせるべきではない。
そもそも、Gが誤振込をおこなったことが原因となっているのだから、J
の無資力のリスクはGが負担するべきであり、それが実質的公平に叶うと
言え、結論として不当ではない。
以上
●自己評価: C-B
●事後評価・感想:
・設問1で899条の2を挙げなかったのがマイナス(なぜか今回の事案は対
象外と思ってしまった)。
・設問2(1)が、出題意図を把握できず。
・設問2(2)は、騙取金の判例は頭によぎったが、本問は騙されたケースで
はないため挙げなかった(言及する時間が無かった) 。
ただ、誤振込したGと悪意とは言え弁済を受けたJの利益衡量が出題の意
図だと思うのでそこは記せたと思う。