第9話 中帰連洗脳説という愚論
PS 中帰連の方々は、三つの苦悩を味わったのではないだろうか。
一つ目は、例えば初年兵の訓練として捕虜の刺殺が行われていたような日本軍人として、中国人民を殺害する鬼となってしまったこと。
二つ目は、撫順戦犯収容所で、己の罪に向き合わねばならなかった苦悩。
三つ目は、人間性を取り戻し、日中友好と平和のために、戦争の悲惨さを証言する贖罪活動を、中国共産党による「洗脳」と決めつけられ、批判されたことである。
こうなってしまった事情は複雑であり、別の機会に改めて解説をするが、要点のみ列挙しておく。
・日本ではA級戦犯であった岸信介氏が、米国の工作員になることで死刑をまぬがれ、後に首相に返り咲いたように、戦争犯罪の責任がうやむやになったこと。
・戦後、東西冷戦の影響により、戦争を主導した者たちが公職復帰し、先の大戦が聖戦であると弁明する機会を与えたこと。東京裁判を批判する余地を残したこと。
よって、戦後日本の指導者の大部分は、戦争を主導した者たちやその子孫である。彼らが戦争の罪を反省するはずはなく、戦争を美化しているのである。
・社会主義は敵であり、赤狩りや公職追放がなされたこと。
・日本軍の武装解除と占領政策のために、天皇制が維持され、天皇の戦争責任が問われなかったこと。代わりに、「一億総懺悔」という言葉で、責任がうやむやになったこと。
・同じ敗戦国であるドイツでは、国内でユダヤ人が虐殺され、それに協力した大人世代に対して、子供世代が厳しく糾弾し、戦争の罪を自覚せざるを得なかったこと。当然、ドイツでは、ドイツ国内において、自国民自身によって戦犯が処罰され続けた。それに対して、日本軍の蛮行は沖縄以外は異国の地であり、その罪状を日本人が知る機会は全くなく、戦犯への糾弾が東京裁判や植民地以外はなかったこと。日本国内では、戦犯は無罪釈放されたこと。
・戦線が拡大し、現地人への虐殺が横行したところもあれば、現地人と平和に過ごせたところもあり、兵士の経験に格差が多かったこと。
・日本軍の蛮行を行った兵士は、それを語ることを避けたこと。
・朝日新聞の本多勝一氏が『中国の旅』で、中国側の被害証言を、何ら検証せず報道したことで、各地の戦友会の怒りを買い、糾弾されたこと。それに対して、朝日新聞側が、修正や謝罪をせず、今日にいたるまで、歴史論争が続いていること。
・A級戦犯岸信介を祖父にもつ安倍首相が、祖父を助けてくれた米国に感謝し、対米隷従を推し進めていること。
関連するマインドマップ
安倍晋三がアメポチなのは、祖父岸信介を助けて貰ったから
・政治経済マスコミも対米隷従であること。米国にとって、日中が不仲になることは有利なので、歴史修正主義(米国に逆らわない範囲ならば)を黙認していること。
などなどである。
このような状況下で、積極的に日本軍の蛮行を証言していた中帰連の方々が、「アカ」「洗脳された」といわれなき批判を受けることになったのである。
私 #知多郎 は、中帰連の方々が洗脳されたと批判する勢力に対して、それは誤りであると主張する。彼らの著書もできる限り読んでいきたい。現時点では、富永正三著『あるB・C級戦犯の戦後史 ほんとうの戦争責任とは何か』を読み終えたところである。既に、彼らを「洗脳された」と批判する立場の田辺敏雄著『「朝日に貶められた現代史 万人坑は中国の作り話だ』と『追跡平頂山事件』も読んだ。どちらの本も真実を述べており、読む価値のある本である。双方の著書を読んだ上で、「中帰連の方々は洗脳されていない」というのが、私の理解である。
中帰連洗脳説という愚論
中帰連とは、2002年に解散した中国帰還者連絡会のことである。
中国共産党は、撫順と太原の戦犯管理所に収容した日本軍人に対し、罪状を吐露させてから釈放し、日本への帰国を許したのである。その寛大な措置を感謝して結成された会だ。
彼らは日中友好と平和活動に大きく貢献したが、歴史修正主義者による誹謗中傷を受けるようになった。wikiの解説文は、まさに、歴史修正主義者の愚論なので、鵜呑みにしてはいけない。編集履歴を見れば、その異様な粘着さがわかる。
歴史修正主義者は、中帰連の活動を中国共産党の洗脳によるものだと断言しているが、その根拠は極めて乏しい。単に、戦場で鬼のようなふるまいをした罪を自覚し、後悔できるようになっただけである。脱脳が正しい。例えが浅はかだと批判されるだろうが、『鬼滅の刃』で、鬼が日輪刀で首を切られ人間の心を取り戻した状態である。当たり前のことで、みんな普通の善良な市民だったのである。地獄の戦場が普通の市民を鬼に変えたのだ。その罪を認め後悔するのは、当然である。
もっとも、証言者の中には、一部ではあるが、自分以外がやった日本軍の蛮行を自分がやったことのように語ったり、赴任してもいない戦地の状況を語ったりする者もいたのかもしれない。
その点については留意すべきだが、それをもって蛮行が行われなかったというのは暴論である。
また、田辺敏雄氏は、「奪い尽くし、焼き尽くし、殺し尽くし」の所謂「三光作戦」が中国側の表現で、日本軍内では使われていないはずなどのことを、針小棒大に糾弾して、だから洗脳によるものだ主張としている。余りに偏った主張である。 仮にその言葉が日本軍内で使われていなかったとしても、まさに、鬼のような蛮行が行われたのである。
田辺氏は戦友会を主な情報源としているが、部隊に不利な証言をするだろうか?部隊の名誉を傷つけないために蛮行は外部に話すはずはないと #知多郎 は考える。この情報化社会で安倍の証拠隠滅のために馬鹿な官僚が必死に資料を削除しても何の内部告発もない。日本人とはその程度なのである。隠蔽好きの民族なのである。そもそも戦友会は郷士部隊であり、心の傷を癒す場でもある。妻や子供にも話せない加害の体験を、戦友会の内部だけで語り合う役割があると歴史研究者の保坂正康氏は指摘している。
具体的に批判すると、『「朝日』に貶められた現代史』のP173以降にて、承徳憲兵隊の戦友会である「承徳会」の会友にアンケートを実施し、百余名から32名の回答を得て、民間人への虐殺は皆無であったと結論づけている。肝心なのは、回答を寄せなかった(寄せることが憚られた)元憲兵への取材ではないだろうか?そのような感じなので、田辺氏の主張をそのまま鵜呑みにすることはできないと、私は判断する。
「やっていない」という戦友会の主張を元に日中戦争を研究するというのは、最初から無理がある。撫順戦犯管理所の戦犯以外の証言が真実なら、日本軍はほとんど中国人を殺していないし、強姦さえしていないということになる。人間は嘘つきである。最近の国会での安倍首相の答弁がそれを具現化している。
しかし、そんな暴論が、未だに日本会議界隈で通説になっているのである。
愛国カルトそのものである。
【参考資料】
愛国カルト教団!?「日本会議の研究」レビュー【実況解説】
日本会議の主張の最も劣悪で醜悪なところは、例えば、歴史について語るなら、まともな歴史学者が行うべきだが、そんな人材はほとんどいないので、自称教育評論家とか、最高裁判所裁判所長官とか、相撲解説者とか、放送作家とか、元アナウンサーとか、専門でもない者の私見が、何の反証・検証も受けることなく流布拡散させているところである。嘆くべきは、中学社会科教師レベルだと、その程度の門外漢が流すデマ情報を鵜呑みにしているのである。そんなしょうもない愚論を読むよりも!歴史学会の論文を読め!ちゃんと勉強しろ!
『日本会議の研究』のまえがきで、菅野完氏は、韓国・中国へのヘイトスピーチを行うネトウヨの情報源について、その出典のほとんどは、『正論』『Will』『歴史通』などの『保守論壇誌』であり、その執筆陣を調査することで、日本会議の存在に気づいたのだと説明している。
中帰連洗脳説も、まさに門外漢の東京大学理学部中退の田辺敏雄氏の妄言が全てだが、菅野氏の指摘通りに、『正論』で愚論を披露している。「万人坑は創作」の部分についてはその通りのようだが、「中帰連洗脳説」についての説明は、揚げ足取りに終始し、脱脳して自らの戦争犯罪を証言した中国帰国者連絡会の賢者への冒涜以外の何ものでもない。当事者の怒りと反論については、下記のサイトにて公開されている。
(注:田辺氏の「万人坑は中国の作り話だ」というのは事実であると私も思う。しかし、「中帰連線洗脳説」とは別の話である。)
富永正三「田辺敏雄氏・藤岡信勝氏の挑戦に応える」
(この文章を後日引用連載させていただきたいと思います。リンク先から飛んで先に読むことができます。富永氏の本『あるB・C級戦犯の戦後史―ほんとうの戦争責任とは何か』も読んだ上で、富永氏の洗脳はないと断言できます。)
下記も田辺氏への反論です。
「兎狩り作戦」は実在した 田辺敏雄氏の反論に答える 小島隆男
関連する1995年頃のニュース映像
中国帰還者たちの戦後60年 ←この方たちの話が洗脳だなどと思う者こそ、日本会議に洗脳されている。
果たしてどちらが正しいのか、妄信も多い田辺氏のサイトもあえて示すので、
科学的批判的検証(ネトウヨが得意な小保方叩きと同じように)をお願いしたい。
彼が約1000人の元戦犯やその家族に、そして、肝心の中国の被害者たちに取材をしたのか?どうやらしていないようだ。
収容されずに帰国した兵士に取材し、「やっていない」という証言を根拠に、洗脳による創作だと批判しているだけなのである。学会では、決して通用しない愚論である。
(PS 田辺氏の「万人坑はなかった。中国の作り話だ」という主張は、その通りだと知多郎も認めます。しかし、それをもって、中帰連の告白が全て否定されるわけではありません。)
両者の主張を読み比べていただければ、富永氏が正しいのは自明である。この小説では、この反論と富永氏の著書を元に、この小説の主人公の坂本によって反論を代弁させたいと考えている。
前述したように、一部で全部を語る田辺氏が間違っている。約1000人の戦犯の自白が全て嘘だと証明できない限り、戦犯の罪は逃れられない。
自分はやっていないと主張し続ける死刑囚は、みんな無罪だと主張しているようなものだ。妻は子供に知られたくない加害の事実を墓場にもっていっただけのことも、田辺氏は理解できていない。(中帰連の方々も、終戦直後に帰国していれば、加害の証言はしなかったであろう。)
(PS 田辺氏は戦友会を主な取材源しているが、何も覚えがない人は積極的に弁明し、部隊の汚名を晴らそうと尽力する。それは当然の行為であり、何ら非はない。その一方で、蛮行を行った元兵士は、それを語ろうとはしない。聖戦を、郷士の部隊の名を、戦友を貶めることになるからである。その点を配慮すべきであると、知多郎は考える。結果として、日本軍は中国で蛮行を行わなかったという極論=歴史修正主義をおしすすめているのである。虐殺された中国人にとっては、「俺はやっていない」というのは何の意味もない。日本軍によって殺されたという事実こそが重要なのである。)
死刑囚で、私がやりましたと罪を素直に認める者は少数派であろう。オウムの麻原彰晃も罪を一切認めなかった。それだけのことだ。
このように、日本会議の情報は、全て学術とは遠くかけはなれた愚論にまみれている。
日本兵がひどいことをしたことは認めたくない。それを真実だと認めることは自虐であり、嘘だという情報ばかりをせっせと集めて拡散する。それが嘘だと本当はわかっていても拡散する。
彼らにとっての歴史とは、決して真実を明らかにするものではなく、日本を美化する情報だけを残した黒塗り教科書なのである。
その愚論を漫画で分かりやすく流布した愚か者がいる。 #ネトウヨの生みの親 と評されている、 #小林よしのり 氏の悪書『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』である。私自身は、当時、この漫画を読み、言いようのない不快感を覚えた。これほど戦争の加害の罪をなきことのように扱い、被害者を愚弄する本は読んだことがなかったからだ。これを鵜呑みにするようなら、ネトウヨになるのも仕方がない。それほどの悪書だ。しかし、中身は偏向の塊で、あんな駄本で洗脳される者達なんて、単なる情報弱者である。
この悪書が誤りだと気づかせたいと自分なりに活動をしてきた。そして、この小説で、それを証明する覚悟である。
なお、小林よしのり氏は、その後、少しは変節して、反ネトウヨの立場で『ゴーマニズム宣言SPECIAL 新戦争論1』を出版した。対米隷従と戦争の愚かさを訴えた点ではまともにはなったが、前作で洗脳と誹謗中傷した中帰連の会員への謝罪は一切なされていない。実際に蛮行もあったのだと、わずかな情報を載せただけである。
あの悪書のために、中帰連の方々がどれほど傷つけられたのかをわかっていない。
ネトウヨが誤読しただけだと、自己の弁護に終始している。
彼は、日本会議の片棒を担いだ罪を真摯に謝罪し、自身が産んだネトウヨを脱脳させる贖罪活動に尽力すべきである。
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