第1話 戦地への船出
虚しい日である。本日、202X年某日、私は、テレビのニュースを観ながら、泣いている。画面には、港を埋め尽くす国民が、日の丸を振りながら、海上自衛隊の艦船を見送っている。万歳と叫ぶ者がいる。大声を枯らして、自衛隊員を励ます声が交錯しているようだ。中には、夫を見送る家族だろうか?何も声に出来ずに、必死に手を振り、涙を流す母子がいる。
ああ、とうとうこの日が来てしまった。
2019年にトランプ大統領が始めたイラン戦争(敵司令官の殺害が発端となった)に、とうとう自衛隊が参戦することになったのである。確かに、中東の石油に依存する我が国が、この戦争に加担しない訳にはいかないという意見もある。
しかし、私は、全くそうは思わない。それは、米国がどんな国なのか、痛い程知っているからである。
もう一度、あの本を読み返してみよう。
数々の国際紛争を調停してきた平和学の世界的権威であるヨハン・ガルトゥング氏の著書『日本人のための平和論』を。
彼の警告は、残念ながら日本人には届かなかった。
ヨハン・ガルドゥング氏の著書『日本人のための平和論』より
ネットで著者の紹介やまえがきを読むことができる。全日本国民に読んでもらいたかった名著だ。一部を引用させていただきます。
(まえがきより引用開始)
第二次安倍政権以後、安保関連法制定や集団的自衛権の容認など、安全保障をめぐる日本の政策が大きく変化している。憲法改悪の動きもいよいよ現実のものとなってきた。著者は、この変化はきわめて危険なものに映る。
ところが、メディアからは目立った政権批判がなく、言論空間では排外的な言説が幅をきかせ、市民感情のなかにも力による”解決”を容認する風潮が感じられる。
現政権への国民の支持が高いことを世界は総じて驚きの眼差しで見ている。
(引用終了)
(P14より引用開始)
米国の事情と憲法9条
過去のどこかの時点で、米国は、日本が思い通りに動いてくれないのは憲法9条が邪魔をしているからだと気づき、取り除こうと思った。憲法9条がなくなれば、自分たちが行う他国への軍事介入に日本を参加させられるようになるからだ。
(引用終了)
(P28より引用開始)
米国は初めて他国に軍事介入した1801年から今日までに248件の軍事介入を行った。第二次世界大戦以後、37か国で2000万人以上を殺害した。そのことをどう思っているか、これらの37か国の人々にたずねてみてほしい。アフガニスタン、イラク、スーダン、ソマリア、シリア・・・これらの国の人々にたずねてみてほしい。
(引用終了)
世界各地の紛争の背景には、必ず大国の介入がある。そして、米国は最も多くの紛争を作り出してきた好戦国家である。軍産複合体(死の商人)が儲け続けるためには、戦争が必要なのだろう。戦争は、米国にとっての経済活動の一部であり、定期的に戦争を行わなければ、景気を維持できない。(ケネディ大統領暗殺にもCIAや軍産複合体が関与しているのは明白だ。)そして、日本の軍産複合体も、参戦を歓迎するのである。2019年に日本で初めて武器展示展が開催されたのも、その準備だったわけだ。死の商人は、誠に商魂逞しい。
今更なぜ、戦争を始めるのだろうか?太平洋戦争では、米国をはじめとする55か国を敵として戦い、日本は焦土と化したが、今度は、その米国が味方だから、負けるはずはないとでも思っているのだろうか?
アメリカはテロに勝てるのですか?
本当にイラクに勝ったのですか?
ベトナムには勝てませんでしたよね?
軍事力があれば勝てるという訳ではないことを、未だに理解できないようだ。
今度の戦争は負けるはずがないと為政者たちや資本家は考えているのだろうか?
日本の大戦の戦費は現代に換算して4400兆円だそうだ。そして、負けた。愚かとしかいいようがない。既に多額の赤字を抱えている日本が、どれだけの戦費を捻出できるというのやら?
戦争で死ぬのは、自衛隊員や市民だから、自分たちには関係がないのだろうか?
ヨハン氏の本は、日本への警告だけではなく、平和を守る代替案が具体的に提示されていた。その通りにすれば、戦争などする必要はなかったのである。こんな国になってしまう前に、全国民に読んでもらいたかった。( #知多郎 注:2020年の今なら、まだ間に合います。読みましょう。)