信頼関係と本当のここ一番
これは今から約20年前の出来事である。
当時30代だったS課長は、新規開拓に力を入れていた。ある新規のお客さんで量産の話がある案件の試作を引き受けることとなり、ある会社へ製造を依頼していた。その案件はステンレスの難易度が高い製品であった。そんなある日
「やっぱできひんわ」
と依頼していた会社に言われた。
S課長としては、この試作がうまくいけばその後量産につながって大きなビジネスに発展するかもしれないと思っていただけに、なんとかしなければならない非常に大事なフェーズだった。
その時点で納期はギリギリか過ぎているタイミングであった。そんなタイミングでできないと断られたことでS課長は支給していた材料を引き上げ営業車に乗り込んだ。
そしてしばらく営業車で考え込んだが、当時加工屋さんとのネットワークが乏しくすぐに対応してもらえそうな企業が思いつかずに途方に暮れた。
そんなとき、場所も近かったこともありYSKの石川社長の顔が浮かんだ。
シャフト形状の物ではなく、すでに夜の20時頃ということもありYSKに相談するのはどうかとためらっていたが藁にもすがる思いで石川社長に相談に来た。
石川社長とS課長との出会いはこの出来事から数年前に、S課長が飛び込みでYSKに営業に来た際に石川社長が対応したことが始まりであった。そこから、互いに仕事を受けたり依頼する関係性であった。
困っているS課長を見て石川社長は
「ちょっと待ってや」
とその場で電話をかけた。電話先の相手は、石川社長が付き合いのあった腕のいい職人気質の旋盤屋の社長だった。
その社長とは、
「この人で無理やったらどこも無理やわ」
と石川社長が信頼を寄せる人だった。
「ほなすぐ持ってきいや」
旋盤屋の社長がそう言うとS課長はすぐさま向かった。そして旋盤屋に到着して一連の流れを説明すると、
「すぐやったるわ」
とその社長は快く引き受けてくれた。次の日には製品が完成し、お客さんのところへ納品することができた。
そして、製品もうまくいき、量産へと繋がった。量産に繋がったこともあり年間を通してかなりの仕事を引き受けることができた。
S課長が当時勤めていた会社では、新規開拓で実績を上げた営業マンが各ブロックから5、6人表彰をされていた。さらにその中から最も優秀な営業マンにMVPが送られていた。量産品から他の仕事にも繋がり、結果、S課長はMVPを獲得することができた。
それから2、3年後S課長はある営業所の所長として活躍し、現在ではYSKの一員となった。
この出来事を振り返り、S課長は
「新規のお客さんだったこともあり石川社長に助けていただかなければその後に繋がっていなかったと思う。助けていただいたおかげでお客さんの信頼を失わずに済み、その後大きなビジネスに発展して表彰にも繋がった。間違いなく私の中では大きなターニングポイントだった。
こちらの勝手な相談にも関わらず一緒になって考えていただいた石川社長には感謝の言葉しかありません。だから今でもその時のことは忘れていません。」
と語る。
またS課長はここ一番の仕事について、
「大事な人が困っていることに対して、できるできないは別にして、一緒に動いてみたり考えること」
と語った。
石川社長は、S課長が相談に来た際、
「俺に聞きに来て正解や」と言ったらしい。この一言が、石川社長の周りとの繋がりがより強固なもので、人脈が広いことを物語っているように感じた。
石川社長は日頃から「信頼関係」という言葉をよく言われている。これは石川社長が上記のような経験をされているからこそ大事だと感じ、私たちに伝えて頂いているのだと感じた。だからこそ改めて「信頼関係」という言葉の重みを感じた。
ここ一番とは、単に無理を聞くということではなく、相手の困りごとに対して、どうすれば解消できるのかを同じ熱量で考え、行動していくことではないだろうか。本当のここ一番の仕事をするためには、できるかできないかを先に考えるのではなく、どうすればお客さんの困りごとが解消されるのかを考えて精一杯行動することがより重要だと感じた。
今一度、信頼関係と本当のここ一番について考えるきっかけとなることを願う。