バイオリンと私
最近は、電車でまっすぐ立てずに手すりに寄りかかっていることが多い。
普段外に出て太陽を浴びるのは大好きだが、季節が移ってから毎日が暗いし寒すぎて家を出る気にもならない。
ニューヨークは物価が凄まじく高いので、どうやったらより安く立ち回れるか計算してみたり、お金の心配ばかりして行動範囲と心が狭くなって行くのを感じる。
9月に大学院が始まって早々、包丁でバイオリン奏者の急所である左手の指先の腹をスライスしてしまい、しばらく楽器を触れなくどころかパソコンもまともに打てない時期が続いた。
音楽に対するモチベーションも下がってしまっていた。
そして、今まで私の相棒だったバイオリンを、約半年も放置してしまっていた。今まで、毎日練習し、オーケストラで演奏したりソロリサイタルを続ける日々だったのに、こんなに長い間弾かなかったのは初めてである。
そんな私に、最近、ビオラの友達ができた。
お互い同じ授業を履修しているので、授業の合間に2人で外を散歩しながらお喋りするのが日課になった。私と同じく今年の5月に大学を卒業しており、物の見方や価値観、物腰までなんだか通じるものがあると感じる。
すぐ仲良くなった。
彼女は誰かのようにオーディションの3時間前に指を包丁で切ったりするほど不器用ではないので、無事大学オケに所属している。たまに私にリハーサルの話をしてくれる。
ある日、一緒にビオラとバイオリンのデュオに挑戦してみる話になった。
何ヶ月も触ってないバイオリンケースを開くことにさえ抵抗を感じたが、
いざ楽器を取り出してみたら懐かしい肌触りと音色にちょっぴり感動してしまった。
その翌朝、「今日は弾く気になるだろうか」とふと他人事のように考えた。あまりにも弾いてなかったので、自分の中で弾かないことのほうが当たり前になってしまっていたのだ。
その夜、また楽器を手に取ってみよう、と自分を奮い立たせた。
やっぱりそこには見慣れた景色が眠っていた。
左指もちょっとは回るようになっていたので、昨日よりも長めに弾いた。
その日はいつも以上に楽器を磨いた。
来学期は、その友達と一緒に室内楽をする話になっているので、ちょっと張り切っている。
半年放置してしまったのでまだまだ体は鈍っているが、
また再び、バイオリンと向き合ってみようと思う。