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私の父はウッカリ父さん、その6

我が家では、その昔、正月は成田山を詣でていた。
大晦日から徹夜してお札を取りに行く、そしてお札が出来るまで参道にある鰻屋で泥臭い成田の鰻を食べるのが慣わしであった。
ところが、バブルで小さなビルを建てた頃、親戚の親戚とか言う訳の分からない輩まで我が家に出入りする様になって、さすがの父も胃腸が弱ってしまった。
そこで、その年は成田山に行っても鰻は食わないと決まった。

参道にある喫茶店に入ると全てのメニューが特別価格になっており、この時ばかりはラーメンとか天ぷらそばとかちょっと本格的な料理も出す様だった。
父はメニューを見ると「おお、七草粥と言うのがあるじゃないか、七草粥一つ!」。キンキン声の割烹着着たおばちゃんがやってきて「七草粥は七草過ぎてからですよ」と威張って言う。まんま、「孤独のグルメ」みたいな展開だが、同作よりずっと前の話である。

「それならメニューに書いとくなよ!」父は締まりが悪そうに怒鳴ると天ぷらそばを注文した。これが、一体いつ揚げたのか分からない小さくなった見窄らしい海老の天ぷらが一本乗った粗末な物であった。
不味い天ぷらそばを父と啜って店を出ようとしたらパンチパーマに剃り込みの入った怖そうなオジサンが「出せないのならメニューに書くな!」と七草粥トラップに引っかかって怒っているのであった。

翌年、いつも行っている鰻屋がやっておらず、再び昨年の喫茶店に行ってみたら、正月営業を止めていた。恐らく、七草粥トラップに引っかかる御仁が多かったのだなぁ。

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