MINAKEKKEインタビュー ミステリアスなそのアーティスト像を探る
MINAKEKKE(ミーナケッケ)は、不思議な音楽家だ。弾き語りアーティストとしての活動を経て、2017年に『TINGLES』でデビュー。UKロックの新人として聴いたとしても誰も疑わないであろうサウンドで、当時謎めいた魅力を発していた。インディ/オルタナ系のバンドはこの何年かで海外とのサウンドの違いがほとんどなくなってきているが、2017年時点でリリースされた『TINGLES』は、今思えばそれらに先んじて放たれた一枚だったと言える。
その後、彼女の作風はEP『OBLIVION e.p.』でエレクトロニックなテイストを強め、2022年の最新作『Memorabilia』では元来のフォーキーな魅力とドープな電子音が融合した強い音像へと進化。とは言え、どこかゴスを思わせる空気感と、映像や色彩が浮かんでくるような鮮烈さは引き継がれている。
思うに、MINAKEKKEの不思議さとは、彼女の興味・関心が音楽内にも音楽外にも多方面に拡散している点に由来してるのではないか?そんな独創的な人だからこそ、トラックメイキングをどのように習得し、作曲をいかに進めているのかじっくり訊いてみたい――。いま注目の音楽家のミステリアスな脳内を覗いた、魅惑的なインタビューをお届けする。
打ち込みサウンドに至るまで
幼少期から学生時代にかけて、どういった環境で育ち、音楽とどのような接点がありましたか?
幼少期はディズニーのCDを聴いたりケーブルテレビで流れていたMTVを観たりして、音楽には自然と接していました。親が聴いていたビートルズやカーペンターズを自分もオーディオデッキで流して、なんとなくいい曲だなと思っていましたね。ギターも実家にあって、その後YUIさんを見て自分も小学校高学年の時に弾きはじめました。
中学・高校や大学で、部活やサークルには入っていましたか?
入っていなかったです。すごく内省的な人間だったのでひとりで音楽を始めちゃって、そうなったら周りの人も誘えないし、その頃になると自分で音楽を掘って聴き出してもいて、あまり友達と趣味が合わないなぁと。そういうわけでバンドを組めなかったので、アコギでルーパーを使って色々弾いて試したりしていました。レディオヘッドなどのUKロックを聴いて、ひとりでどこまでバンドサウンドの質感を出せるかトライして。
その頃のUKロックのルーツは、デビュー作『TINGLES』に出ていますね。
そうですね。高校の時は家に帰ったら曲を作って、デモテープをいくつかのレーベルに出してみたり、マイスペースで公開したりしていました。今ではネットの藻屑と化した曲がたくさんあります(笑)。
当時作っていたのはどういったテイストの曲だったんですか?
弾き語り中心で、今とは全然違う普通のJ-POPも作っていました。自主制作で2枚デモを出して。最初は完全に弾き語りで、2枚目はルーパーでもうちょっと音を重ねて作った作品です。それが大学の時ですね。
そこからデビュー作『TINGLES』で大きく音楽性が変化しますね。
2枚目の自主盤を出していた時にすでに(デビュー以来所属しているレーベル・〈IDEAL MUSIC〉代表の)羽山さんとは出会っていて、「ちゃんとしたアルバムを作りたいね」と話していたんです。そこで(プロデューサーの)橋本竜樹さんや(サウンドエンジニアの)葛西敏彦さんを紹介してもらったんですよ。当時は本名のMinakoという名前で活動していたんですが、それだと個性がないので、あだ名だったMINAKEKKEに改名しました。自主盤の1枚目では弾き語りで自分のやりたい質感を目指して作っていたんですが、2枚目でルーパーを使って弾き語りだけではない方向を指向しはじめて。なので、デビュー作『TINGLES』で突然変わったという感じでもないんです。
プロデューサーやエンジニアといったプロの方々と出会って、何が変わりましたか?
私はそれまでひとりでやっていたので、アレンジという発想がなかったんです。どのようにアレンジしたいかという考えがそもそもない。そこで橋本さんを紹介してもらったことで、自分の曲が物凄く新鮮な形に変わっていきました。
アレンジという概念が入ってきたことが大きかったと。
「えっ、自分の曲がこんな感じになるんだ?」という驚きがかなりありました。でも、意思の疎通をしていくのは最初はかなり苦労しましたね。初めて他人と制作をするので、多少警戒心もありますし。
曲作りのアプローチは、今と当時とではどう違いますか?
今はメロディを作ってからトラックメイクを始めることが多いですが、当時はメロディ作りと弾き語りがセットでした。その後、徐々にエレクトロニックなサウンドの傾向も増していって。実はデビュー作『TINGLES』の「GIRL LIKE GHOST」という曲でも少し打ち込みにトライしていたりするんですけど、そこでもう少しちゃんとやってみようと思ってDTMに本格的に向かい始めた感じです。アレンジも、(2019年リリースのEP)『OBLIVION e.p.』は自分で簡単なアレンジをした上で橋本さんにお渡ししています。もちろん、そこからちゃんとしたアレンジは橋本さんにさらに手を加えてもらいました。
最初打ち込みで音楽を作られた時って、苦戦しませんでしたか?
高校の時に、iPadでGarageBandは触っていたんです。なので抵抗感というのは実はあまりなくて。その時は弾き語りでギターと歌を入れた後にリズムを乗せていくような使い方をしていました。でも自分の感覚だけでは、ちょっとビートを打ち込んでみるくらいしかできないじゃないですか。なので、「こういうビート感でいきたい」「こういう音色(おんしょく)が欲しい」というのは明確なリファレンスをもって探っていきました。手探りでそれを繰り返して自分の中で咀嚼している感じですね。理想の曲の雰囲気を作り出すのは本を読んで勉強できるものでもないと思うので、「これに近いことをやりたい」という音源を聴き込んだり「このアーティストはこれ使ってるらしいよ」とか「この時代の音はこのプラグインを使うのがいいらしいよ」という情報を得ながらやっている感じです。
探していく音と、映像からの影響
2022年リリースの『Memorabilia』はより一層エレクトロニックなテイストが強まっていますが、聴いていた作品はどのあたりでしょうか。
まずBurial、あとInner City、Helixあたりを聴いていました。それまではカッコいいなと思いながらなんとなく聴いていたものを、ビート感や音色をじっくりイメージしながら自分の曲作りまで落とし込んでいきましたね。
模倣から入る、というアプローチはMINAKEKKEさんにとって重要なステップということですね。
そうですね。最初は本当に何をすればいいのかわからない状態から始めていくじゃないですか。だから、真似っこです。それができるようになったら壊して、自分のものにしていく。なので、意外と「そんな曲がリファレンスだったの?」というパーツも多いと思います。ピンポイントで、ビートのこの部分はこの作品のこれ、とか参照して作っています。
以前は映像からインスピレーションを得て曲作りをすることもあるとおっしゃっていました。最新作『Memorabilia』でもそれは変わっていませんか?
今でもそうです。映画やMVなどの色んな映像を見てそのままインスピレーションを受けることもありますし、自分の空想の中で架空の青春ドラマを作っていったりもします。どこかで観た映画の寄せ集めみたいなものを元に、そのシーンをイメージして脳みそと相談しながら音に落としていく。たとえば『Memorabilia』の中だと、「endorphia」は『ユーフォリア/EUPHORIA』というドラマから影響を受けています。
MINAKEKKEさんの中で、音楽を作るというのは「すでに空想や感情としてあるものを具現化する行為」なのか「自分の中にもどこにもない全く新しいものを生み出す行為」なのか、どちらでしょうか。
どちらが先なのかもはやわからないですが、恐らく前者かなと思います。自分の中にあるシチュエーションや雰囲気を音に反映していく感覚ですね。
ということは、音楽を作ることは音を「探す」という作業に近い?
そうですね。音を探してはめていく感じに近い……と思います。かなり感覚的なところなのでうまく言えませんけど……。
でも、音を探しても探しても、なかなか見つからない時もあるじゃないですか。
あります。
それでも探し続けるわけですよね。
探し続けますけど、どこかで妥協しないといけない時もある。妥協、というのは言い方が悪いかもしれないですけど。でも、これ以上見つからないなという時は橋本さんに一度聴いてもらってまた違う方向にいったりもしますね。一方で、「ここまで探しているのに見つからないということはもしかしたらこの方向で探していること自体が違うんじゃないか」と思うこともある。
ありますね(笑)。
その時は一回壊したりもします(笑)。全然違うけど第二希望にあったものをチャレンジしてみる。
「自分の感情やイメージに合った、探していた音が見つかった」というのは音楽制作をしている上で一番の快感だったりしますか?
そうですね。「このシンセの音が見つかった」というひとつの音でももちろん嬉しいんですけど、一番はやっぱりシンセ、ベース、ドラム、メロディ全部が全体としてうまくハマった時です。ひとつの音がばっちりハマっても、他と合っていないと気持ち悪いし。結局はバランスがまとまった時が一番快感です。
その「ばっちりハマった」というのが、MINAKEKKEさんの場合はゴスっぽい印象を指していることが多いと思います。
自分に対して「私はゴスです」とは思ってはいないんですけど、やっぱり癖でありルーツとしてあるんでしょうね。中高生の時にレディオヘッドを聴いていてしっくりきた感じというか。根が明るくはないし鬱屈とした青春時代を過ごしてきてはいるので、それに対して卑屈にならずに芸術として表現できたらいいなとは思います。
ゴスというところでいうと、突然、攻撃的な音が入ったりもします。
昔から、ホラー映画を見ると心が落ち着くんですよ。落ち込んだ時にホラーを観る。なんでだろうと考えたんですけど、斧を持った人に追いかけられたり、自分よりも大変な状況にある人を観ることで私はまだまだ大丈夫だなって思うんです。
なるほど(笑)。MINAKEKKE作品に一番合うホラー映画は何でしょう?
『サスペリア』が合う、と言われたことはありますね。『TINGLES』のアートワークの色彩は『イット・フォローズ』を参考にしました。
確かに似ている! MINAKEKKE作品は、どれも色彩が鮮明に想起されますよね。
作品ごとに「こういう色」というのはあります。曲を作る段階から、『TINGLES』は紫だったし『OBLIVION e.p.』は青でした。プロデューサーやエンジニア、MV監督にそういった色彩のイメージも渡します。
ここまでトラックメイクや作曲のアプローチについて詳しく伺ってきたんですが、とは言いつつも、矛盾するようですが私はMINAKEKKEさんの作品においてボーカルも非常に重要な要素じゃないかと思うんです。というか、実はMINAKEKKE作品の記名性として明らかなのはボーカルの方かもしれません。浮遊感があって、メロディを歌っているけれど歌っていないような、不思議な抽象性があります。
元々歌うこと自体が好きで、サウンドは変わってもいつもメロディから作るし、基本的に歌から私の音楽は始まっているんですよ。人によってはホラーっぽいとかふわふわしていると感じるかもしれないけど、自分としてはポップに歌っていると思っています(笑)。ちゃんとキャッチ―で引っかかる部分は意識しているつもりですね。
確かに引っかかりのあるメロディはあると思うんですが、引っかかったそばから逃げていくようなところもあるし、そこがMINAKEKKEさんの個性だと感じます。なので、ポップだけどポップじゃないというか。一筋縄ではいかないところが魅力に感じます。
そう言われてみると、自分の中のポップネスと世間のポップネスが違うのかもしれないですね。
今日伺ってきたような個性を残しながら、これまで大きく変化してきたサウンドが今後またどのように変わっていくのか、ますます楽しみです。最後の質問ですが、女性のトラックメイカーで刺激を受けている方はいらっしゃいますか?
グライムスはずっと好きです。彼女も最初はGarageBandを使って曲を作っていましたよね。自分も、GarageBandを触りながら「あ、これグライムスの音だ」とか遊んでいたこともあります。その時からどんどん音楽性は進化していますが、ずっと好きですね。他には、トラックメイカーではないですがKate BushやBat For Lashes、最近だとMitskiが好きです。
やっぱりちょっと暗いアーティストが多い!
確かに! 今気づきました(笑)
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