第7回 小さな会社でもちゃんと売れています!【M&A論】
学生の皆さんこんにちは。今日もちゃんと出席していますか。
今日は、小さな会社のM&Aについてお話します。
もう一度全体から整理しておきましょう。まず、社長の退任には、強制的に終わらされる場合と、自ら終わりを創造する場合があります。後者のパターンとして、廃業、社内承継、M&Aがあります。2つ目まではお話をしました。今日は3つ目のM&Aです。
「うちは社内承継させるから、M&Aは学ばないでいいや」
こういう人は学生の中にいませんよね?
ここまで学んで感じていただいていると思いますが、ある一つのパターンについて語ったとしても、結局それは他のパターンともつながっています。
さらに、経営や人生といった上位概念でも役立つ学びが、各論から得られることもあります。自分には関係ない分野だと見切りをつけてしまっては、実にもったいないことです。
小さな会社でも本当に売れています
さて、M&Aです。みなさんは、どんな印象をお持ちでしょうか。ここ最近でかなり市民権を得たようです。
昔はエリートビジネスマンや金融関係者の言葉だったのでしょうが、今となっては、地方のおっちゃん社長(失礼!)までが語ります。「そんなときはM&Aすればいいんだぜ」なんて語っていたり。
認知度は上がったとして、問題は本当に「会社が売れるのか?」です。会社を着地させるときの選択肢になり得るのかです。
ヤメ大生が経営しているのは、中小零細企業のはずです。M&Aに対して「大きな会社ならまだしも・・」と思われるかもしれませんね。
しかし、実際のところ、売れています。学長の私は、売っています。
私の実績では、M&Aに動いた会社のうち、9割以上は成約までこぎつけています。
しかも奥村がかかわるような案件は、通常では「売りにくい会社」とされるものが多いところです。規模が小さかったり、利益が出ていなかったり、財務内容が悪かったり……。それでも結果を出せている理由は後でお話することになるでしょう。
まずは、会社を売って終えるという選択肢は「あり!」とご認識ください。
★会社ってどうやって値をつけるの?
M&Aをするに際し、会社の値段ってどうやって決めるのでしょうか。
原則論として、あくまで自由な取引なので、社長が欲しい金額をつければいいという話です。こちらが提示した金額に対して、相手も「その値段でいいですよ」となれば、取引成立です。
ただやっぱり、値付けセオリーはあります。
「純資産額+営業利益の約3年分」あたりが、一般的な計算方法ではないでしょうか。
まず、純資産額。バランスシートの資産から負債を引いた金額です。“モノ”としての会社の価値と表現してもいいでしょう。(このあたりは、廃業論のところでもお話していますが、大丈夫ですよね?)
会社の価値を“モノ”としての価値だけで計測したのでは足りません。会社は利益を生み出す装置であり、将来にわたりお金を稼ぎだすという機能があります。“機会”としての価値とでも言いましょうか。このあたりの価値も金額に加えてあげないと、フェアではありません。
そこで実務では、純資産に加えて、会社が稼ぎ出す営業利益も売値に反映させようとするのが一般的です。何年分かの営業利益を価格に上乗せさせます。
すると「何年分を上乗せするのか」が論点となります。既述の数式の「3年分」というのはあくまで平均です。
安定していて、将来もずっと営業利益を稼ぎ出すことが見込めそうな会社ならば5年以上にすることもあります。逆に浮き沈みが激しい業種だと1年や0年分にしたりもします。
純資産額も、営業利益も、実質的な修正が行われます。
不動産が値上がりしていて含み益があるなら、純資産額を増加させます。M&A後は社長が退任することで、役員報酬の経費が減るのであれば、その分営業利益が増加することになります。
M&A売り出し後の駆け引き
売り出すに際のテクニックとして、ちょっと金額を高めにしておくなんてことはM&Aでもよくやります。3000万円で売りたいと思っているときに、とりあえず高めの4000万円から売り出すようなケースです。不動産売買と似ていますね。
これはこれでOKです。しかし事前に、売主であるあなたは「いくらだったら即決するのか」の数字を明確にしておくべきでしょう。なんとなく売り始めて、実際いくらでOKするかは後で決めるみたいな姿勢は美しくありません。チャンスに見放されます。
かつて、一度は「5000万円だったら会社を売る」と決めた社長がいました。
私はすぐに買い手を見つけました。私が上手くやったという面は当然ありますが、それ以上に運が良かったための結果です。
しかし、すぐに買い手が現れたことで調子にのった社長は「だったらもっと高く売れるはず」と考えたようです。そして「やっぱり6000万円にする!」と言い出しました。
もちろん私は異議を述べました。後出しじゃんけんはセコイし、潔くありません。
でも社長は値上げをあきらません。やむを得ず、買い手候補にその旨を伝えたら、激怒。「売り手対する不信感が芽生えたので、この取引はやめる」と拒絶されました。
私も、これを機に契約を解除させてもらいました。いくら金を稼ぐためとはいえ、あまりこのような人とは付き合いたくありません。
ちなみにこの社長は、売ることをあきらめて、その数年後に廃業していました。
自分の基準を持っていない人は、こんな風に、自分の人間性を汚してしまったりします。流れも悪くしてしまいます。流れって、目には見えないけど、本当に重要だと思います。M&A交渉に限ったことではなく、人生全体でもそうなのでしょう。
あなたが一番高い金額で売りたいと思うのは当然です。。
しかし実際は、それはできません。というか、わからないのです。目の前の取引の話が一番高いのかもしれないし、これを見送った方がより高いオファーと出会えるのかもしれません。
唯一、一番の高値がわかるのは、売り逃して後悔しているときだけなのです。
「あーぁ、結局あの話が一番よかったんだ。あのときOKしておくべきだった・・・」と。
最高値で売ることにこだわるより、いくらで買ってもらえたら自分は納得できるのかを明確にしておくことです。基準が良い流れを作ってくれます。
金額が頭にこびりつく!?
ただし、いくら自分が納得できる金額といっても、相場や相手方があることなので、あまりに高値を夢見ても意味がありません。
純資産3000万円、ここ数年、毎年1000万近くの赤字を出している会社がありました。
あなたは、先ほどの金額の会社の価値算定の公式からすれば、いくらが妥当だと思いますか。私であれば「まあ3000万円で売れれば御の字。続ければ続けるほど純資産は目減りするんだから、2000万円でも即OKしたほうがいいくらい」くらいの目線でした。
ところが、その会社の顧問税理士が「まず1億円で売り出しましょう!」とぬかしました。
直近は業績が上昇しているし(といっても、まだ赤字)、最初から低く出す必要ない、との意見でした。
会社は赤字を垂れ流しているわけで、時間的猶予は残されていません。また、あまりに現実とかけ離れた金額で売り出すというのは、先ほどのリズムを作るという意味からも避けたいところです。
しかし、1億という金額を聞いてしまった社長の目は輝いてしまいました。もう現実が視界から消えさり、すっかり夢の世界の住人です。考えを改めてもらうことに骨を折りました。本当にいい加減なことは言わないでほしいものです。
さらに昔話をもう一つ。
ある特許を取った社長が「3億円で会社が売れるとM&A会社に言われた」と鼻息が荒くなっていました。私は「自分には、とてもそこまでの売値がつくとは思えませんが」と、その時はフィードバックをしました。
そして、約5年後、その社長が再び相談を申し込んできました。
M&Aの話ではありません。資金が尽きて会社がつぶれそうだという相談です。
なんであのとき売らなかったの?と聞きました。社長は「売り出していたんだけど、満足いく値段で買ってくれるところが現れず、そのまま時間が経ったら……」と。要は、欲張って機を逃したのです。
M&A業者の営業マンは、不動産業者と同じように、最初に高い値段で売れると言う傾向があります。そう言った方が、売ることを決断してくれるし、ライバルではなく自社と契約してもらえると考えるのでしょう。
営業マンだって本心では、その金額では売れるはずないと思っているかもしれません。
ところがこの社長のように、売主はその金額を適正なものとして採用してしまったりするのです。しかも質の悪いことに、自分に都合のいい数字だけを採用します。
一度数字がインプットされてしまうと、頭にこびりついてなかなかリセットができません。3億円という数字が頭にこびりついてしまった社長は、こうして売れる時期を逃してしまったのです。アーメン。
できるだけ会社を高く売りたいという気持ちはわからないでもありません。
ただ、売り手の都合通りにいくことはないのです。
ある意味、売りはじめたらまな板の上の鯉になるしかありません。そこで欲を出し過ぎると禍を招きます。
売れる金額というものは、実は、はじめから決まっている。そして、私たちにできることは、その金額を探って見つけるだけ。こんなスタンスをおすすめします。(東洋哲学っぽいですね)
M&Aの成否は、売るまでに9割決まっている
会社を売り出してから修正できることはほとんどありません。もし高く売りたいならば、売り出す前から高く売れる会社を作っておくべきです。
なのに、いつかM&Aで会社を売ることまで想定して、前々から虎視眈々と準備をしてる社長なんてほとんどお会いしたことがありません。
みなさん、行き当たりばったり。M&Aを決めてから、ようやく問題に気付いてあたふたするのがお決まりのパターンです。
会社を売るためには最低限、整理しておかないといけない点があります。たとえば契約などの法律関係や、資産の名義などです。
土地を借りて事業をしている会社の件で、賃貸借契約書を見せてもらったら、「これ誰?」という人が賃借人になっていたことがありました。その人は、二代前の社長のお兄さんだったそうですが、会社に関係ないどころか、今は生きてすらいません。この時点で賃貸借契約はアウトです。
M&Aでは、こうしたひとつひとつが買い手からチェックされます。たとえM&Aをしなくても契約書をアップデートしておくことくらいは同然だと思うのですが、できていない会社も多いところです。
当たり前のことができていない会社はかなりあります。
社長がいなくなったら終わってしまう会社ではないか?
「売れる会社にしておく」という意味合いでは、社長がいなくなっても会社が回るようにしておくことがポイントになります。
M&A後、社長がいなくなったら仕事が来なくなる。受注した仕事がこなせなくなる。こうなることが見えている会社のために、買い手が金を出すわけはありません。
この点で、M&Aがほぼ不可能な会社というのは一定数あります。
学長の私も会社形態で仕事をしていますが、奥村だからできる仕事だけをしていますし、お客様も奥村だから頼みたいという方ばかりです。仕事が属人的なのです。するとM&Aという出口は、まず無理だろうという結論になります。
「ならば、M&Aの後も社長が会社にのこればいいんだろ?」という発想もありうるでしょう。実際、M&Aで会社を売却しつつ、社長がそのまま会社に残るケースもよくあります。
M&A交渉における話の流れで「社長さん、いつまでも残って会社のために力を貸してくださいよ」なんて買い手から言われたり。すると売り手の社長も自尊心がくすぐられて、「そこまで言うなら」みたいな感じになるのもよくあるパターンです。
でもこれ、私は大反対です。
会社を売った社長が、そのまま会社に残ったとき、何らかのトラブルになる確率がめちゃくちゃ高いからです。買い手が、元社長が期待していたほどの貢献を全然してくれないと批判してきたり。「うちのやり方に従っていただけないと困ります」と、残った社長が要求されてつまらない思いをさせられたり。いろいろです。
そもそも社長というのは自由に自分のやり方でやっていた人です。他社の管理下に上手く順応できないのが普通でしょう。
こんな話、普通のM&A業者は言いません。奴らは当事者の気分よくさせて取引さえまとめればいいと思っています。「社長は会社を去れ」より「社長は会社に残ってください」のほうがはるかに言いやすいものです。
M&Aの後、会社に何が起きているかを知らないケースも多いでしょう。会社を売ったらバイバイというビジネスモデルですから。
会社を売ったあともかかわるとして、最低限仕事の引継ぎ程度にとどめておくことをおすすめします。
一度会社を譲ったら、潔く会社からは距離を置おくことが安泰と幸せのコツなのでしょう。このあたりは社内承継のときにもお話ししたことと通じています。普遍性のある法則なのでしょう、きっと。
おまけのお話として、奥村は「M&Aに向けてどんな準備をしておいたらいいか」をレクチャーするDVDを作成しています。
★あらためて「より高く売る」を考える
先の話は、ここを押さえておかないとそもそも売れないというタイプの話でした。これからは、どうしたら高く売れるのか、を考えてみます。
もう一度、M&Aの価格のセオリーを思い出していただけますか。会社の価格は、主に、純資産と稼ぎ出す利益によって決まるということでしたね。そして、後者の利益をしっかり出せる会社になっておくことが、高く売るためのポイントになってくるわけです。
稼げる会社であることを数字で証明しておけ、ということです。
この点、社長がアピールしようとするポイントがずれていると思われる場面があります。
「うちの会社は社歴が長いから」
「知名度があるから」
「いいお客さんがついているから」と、定性的なポイントを自慢しがちです。
意味がないとは言えませんが、これって買い手からしたら眉唾なんですよね。社長による自己評価には信ぴょう性がありません。
それに、もし本当にそのアピールポイントに価値があるのだったら、利益という形で数字に現れているはずだとも言えます。会社にブランド力があるのだったら、その分稼げているはずなのです。
M&Aに臨むつもりならば、その前から利益率の向上にこだわり、数字として証明できるようにしておいてください。
ただし、利益については「M&Aの後はこうなる」という理屈が通ればOKです。
ちょっと何を言っているのかわかりにくいですね。
たとえば、損益計算書の営業利益の数字を良くしたいがために、社長の役員報酬を減らすことまでしないでいい、という意味合いです。「もしM&Aをしたら、自分の役員報酬がなくなるため、年間利益はさらに2000万円増えるでしょ」と説明できればOKです。
表面上の利益を増やすために、役員報酬を無理に減らせば、会社の税金が増えてしまいます。そこまでしなくても、利益を出す力は買い手に伝えられます。
このあたりに類する論点として設備投資の話にも触れておきましょう。M&Aで買い手と話をすると「売り手の会社の設備が老朽化しているから、買ったあとにかなり投資しないといけなくなる」なんて、ネガティブな声を聴くことがよくあります。
であれば、売り手は設備投資をしてからM&Aをした方がいいのでしょうか。
この点については、NOだと考えます。いくら稼ぐ力を高めておくと言っても、そこまではしないほうが無難でしょう。設備投資の効果は長い目で見て、ようやく元が取れるものです。また、設備投資をすればお金が減ってしまいます。
悲しいからな、投資にお金をかけたわりには、その設備に対する買い手の評価は低かったりします。私でしたら、M&Aをする直前に大きな設備投資はしません。
誰に会社を売らせるかは、すごーーーく重要
M&Aに臨む前までにやっておいたほうがいいことをお話しました。この次は、いざ会社を売却する時のお話です。
ここまでくると、社長ができることはあまりありません。残されている自由のなかで、一番重要なものは「誰に会社を売ってもらうか」でしょう。
もちろん、理屈の上では、自分で買い手を見つけて自分で交渉するというやり方も成り立ちます。でも、一般的の社長を想定すると現実的ではありません。やっぱり、専門業者を利用することになります。
では誰に相談、依頼するか。
先にポイントをお伝えると、できるだけ人で選ぶ、という点です。
有名な会社かどうか、規模が大きいか否かより、M&Aの交渉の成否は担当する人間次第です。結局、担当者のスキルや熱量、人間性だったりします。このものさしを先い提示させていただいたうえで、各プレーヤーを見てみましょう。
★顧問税理士や弁護士は?
顧問の税理士や弁護士などは、近い存在で相談しやすい相手かもしれません。でも、その人が会社の着地やM&Aに詳しいのでしょうか。われわれは資格を過大評価しがちです。しかし、この分野に本当に詳しい人は、決して多くはありません。専門家と呼ばれる人間でもすべての分野に強いなんてことはありえないのです。
なお、とりあえず情報をたくさん集めたほうがいいという発想で、様々な専門家に相談を持ち掛ける人がいます。この姿勢に私は反対します。情報がたくさん集まったからといって、良い判断ができるわけではなかったりします。むしろ「この人の言うことなら聞くべき」という人を吟味して、相談を持ち掛けるべきです。
★銀行は?
さて、銀行もM&Aの相談先になるのかもしれません。手数料欲しさに、M&Aに手を出す金融機関が増えました。私としては選択肢に入らないし、相談相手にもしてはいけないとさえ思っています。
まず、専業でやっているところと比べたら、うーん……というレベルだったりします。さらに、M&Aでは、売り手のエージェントに情報をオープンにしなければいけません。銀行はその相手としてふさわしいでしょうか。否。銀行は、何かあれば敵対することになる関係だということを忘れてはいけません。リスク管理としても避けるべきでしょう。
かつて私にM&Aを依頼した社長は「さかんに銀行がM&Aをしないかと営業してくるけどさぁ、依頼するわけないじゃん。銀行の前でストリップ踊ってどうすんのよ?(笑)」と。この感覚がいいですね。銀行というだけでこれまた絶対視してしまう人がいます。この社長の爪の垢でも煎じて飲ませてたいです。
その他、買い手探しを自分のところの顧客に限ったり、何かと融資の話につなげようとしたり・・(苦笑)
★公的機関は?
事業承継・引継ぎ支援センターをはじめとする公的なところも候補の一つでしょう。費用が安かったり、無料だったりする点はメリットです。
でも「人で選ぶ」という方針を考えたとき、引っかかるものがあります。
M&Aの場合もそうですが、公的な相談窓口は。案件をただ他に振っているだけの時があります。しかも、その振った先も適任ではなかったり・・・。また公的な立場ゆえ、当たり障りのない話に終始し、リスクを伴う提案から逃げたりも。
事業承継・引継ぎ支援センターから引き合わせられた相手とトラブルになったときは、「ウチはアドバイザーじゃないから一切責任は負えない」と、さっさと責任を回避したケースも知っています。それまで散々手を出していて、何か起きたらこれです。
ある意味、こちらは人生をかけてM&Aをやるわけです。自分たちだけはリスクを負わないという姿勢の人たちとは一緒に歩めますか。
★M&A専門業者は?
最後は、M&A業者です。小さいところから大きいところ、業種を特化しているところなど、いろいろあるでしょう。
「大きい会社だからよい。有名な会社だから安心」という考え方はしないほうがいいということは、もうお分かりでしょう。「人で選べ」というものさしからしても、あなたが信頼できる人間が担当になってくれるのかに注目です。
有名な会社であったり、大手になればなるほど、あなたの会社の案件は社内的にどうでもいい存在になってしまうかもしれません。M&A業者は、できるだけ多く会社を売ろうとしています。そのためとにかくたくさんの案件を集めようとします。
そして、集めたものの中から、売りやすいもの、売れたら自社がたくさん稼げるものを優先して売ろうとします。契約した案件のうち、一部だけでも売れれば、それで利益が出る仕組みになっていることでしょう。極論言えば、契約した会社のすべてを売る必要はないのです。
はたして、あなたの会社は優先して売ろうとしてもらえますか。案件をたくさん抱える大手ほど、その中に入るのは大変になります。
手数料が高くなる(最低でも1000万円から2000万)になるケースも多く、コスト面でミスマッチだと感じる場面もよくあります。
一方、無名であっても、小さなM&A会社や、個人レベルで動いている専門家に頼んだ方が合っていると思われるケースは、小さな会社のM&Aの場合においてよくあります。費用面も手ごろで、なにより担当する人で選ぶことができるからです。
あなたは何のために会社を売るのか?
今日の講義も長くなりました。事務局に怒られるので、そろそろ締めてまいります。
「1億円くらいでM&Aで買ってもらえるんだったら、売るんだけどな……」
かつて私に相談を持ち掛けてきたある社長が、こんなことをつぶやきました。私は、この姿勢を結構強めに叱らせていただきました。社長の年齢は70歳を過ぎていました。体力や気力面の衰えを自分でも感じていて、社長のパフォーマンスの低下がここ数年続く売上げ減少にもつながっていました。後継者は特にいません。
ザクっと会社の売値を金額を計算したところ、売れても1000万円か2000万円です。売り出したところで買ってもらえない可能性も高いでしょう。1億円なんて金額は夢物語でしかありません。宝くじあたらないかなぁと同じレベルです。
ただし、私が叱らせていただいたのは、希望金額が高すぎたからではありません。社長から、「自分はどうにか会社を着地させなければいけない」という切実さがまったく感じられなかった点に危機感を覚えたから、厳しいことを言わせていただいたのです。
★社長は、会社が売れなかったらどうするのか?
現実を受け入れ、どうにか会社の着地問題に決着をつけようという誠実な姿勢が社長からはまったく感じられませんでした。ただ夢を見てボケーっとしているだけ。思考が停止してしまっていました。
M&Aにチャレンジするのは悪くありません。でも相手方あってのことなので、確実なことはわかりません。であれば、売れなかったらどうするかまで社長は想定しておくべきでしょう。
みなさんもあらためて、考えてみてください。M&Aの目的ってなんでしょうか?
単に会社を高く売ることではないはずです。あくまで社長が、会社の着地問題に決着をつけること、そして、自分が社長をヤメて次の人生に進むことではないでしょうか。M&Aは、その方法の一つでしかありません。
金に目が行って、本質を外したり、本当に大切にしなければいけないものを見落としてはいけません。
会社が高く売れたのはいいものの、その後、やりがいもなにもない人生を送って不貞腐れている社長も知っています。
売ることが目的になってはいけないのです。自分の人生、生き方を中心にものを考え、決断していきましょう。
そういった面では、「会社の売り時」も、やっぱり自分の人生からタイミングをはかるべきです。
巷の本などでは、高く売れる時期はいつかを見計らって、そのタイミングで会社を売ることを推奨しています。
はたして、社長自身はまだ社長を続けたいと思っている時期でも、会社を売るべきなのでしょうか。私にはそうは思えません。社長は自分の人生を見つめながら、売るタイミングを決めるべきです。
「経営をやり切った、もう心残りは無い」
こう実感して社長をヤメられたらいいですね。あくまで自分の人生を良きもにすることを目的にしましょう。
《事務局からの連絡》
①今回の宿題
任意の着地の3タイプ(廃業、社内承継、M&A)を解説しました。そのなかで自社はどこに行きそうか、自分はどこに行きたいかを考えてみてください。
宿題の提出や、感想、質問は、奥村のホームページの問い合わせフォームからお送りくださいね。
→ 奥村のホームページ
②入学金の納付手続きについて
払っても、払わなくてもいい入学金(税込8万8000円)は随時受付中!!
ご納付は、リンク先のシステムで決済してください。
→ 入学金決済システムへ
③次回の講義
内容的にひと段落しましたので、来週は休講にします。
次回は3月15日(金)の予定です。