珈琲の大霊師277
――――――――――――――――――――
第34章
革命の足音
――――――――――――――――――――
「「あんた達は、アースに用があるのか?」」
霊峰アースに向かう途中、四方を山に囲まれた小さな村で休んでいると、どこからともなく響き渡る声。まるで山彦が四方を固めたように、異様に響く音が耳の奥を圧迫する。
すぐさま耳をふさぐ者が居たが、大半は真に合わず、頭痛が襲う。
ジョージが辺りを見回し、ルビーがすばやく木の上に登って周囲を警戒する。
が、声の主は見当たらない。モカナを守るように、ドロシーが体を膨らませて、モカナを中に隠した。
「ありがとうドロシー・・・」
「そうだ!何か用なら、この耳障りなやつをやめてくれないか?」
返事をしつつ素早くリルケを探し、目線だけでコンタクト。周囲に青い空間が広がっていく。
「「あんた達の要件を聞いてからだ。場合によっては、ここで引き返してもらう」」
「ああそうかい。悪いが、他人の流儀には従わない主義なんでね!」
「何?ぬおっ!?」
慌てた声と同時に、異音が消える。広がる青い世界の先端、リルケがジョージに向かって手を振っていた。
「ネスレ、投擲!」
「あそこまででいいのかぁ?」
ネスレの短い問いに、ジョージはただ頷いて答えた。
ネスレとジョージは、まだ組んで日が浅い。故に、ジョージは事前にいくつかの大雑把なプランを打ち合わせしていた。粗い技術でも、状況に応じて使い分ければ、十分に使用に耐えうるからだ。
「いくぞ!!気合入れろぉ!!」
ジョージの足元に土が集まり、瞬く間に巨大な腕の形を成す。腕は、ジョージを2、3度振り回し、そしてリルケに向かって、投げた。
「ぐうぉぉぉ・・・!!」
振り回されている時の遠心力もだが、それ以上に宙を飛ぶ際の回転がきつい。
「櫂!」
「はいよ!」
ジョージの指示に従って、ジョージの手足に薄い土が水かきのような薄い土の板を形成した。
両腕だけ広げ、回転を制御する。細かい調整は、全てジョージの感覚だ。
見る見るうちにリルケが近づいてきて、リルケのいた地点で蹲る何かの影が見えた。
「よしよし。直撃コース。良い狙いだネスレ。軟着!!」
「打ち合わせ通り。いやあ、決まると面白えなぁ」
次の瞬間、ぐみゅんと、ジョージを柔らかい粘土が覆う。そのままジョージもとい粘土の塊は、影と激突するのだった。
「色々言いたい事はあるが、とりあえず。いんちきも大概にしろ……」
縄でぐるぐる巻きにされた獣の仮面の男がぼやいた。位置を特定された上に、視界を封じられたリルケの能力についてだろう。
「さて、何の事やら?」
「とぼけるな……いや、いい。敗北は敗北だ。もっとも、辿り着けるかは別だ。」
「随分ぺらぺらとしゃべるな。寂しかったのか?」
「いや、警告だ。・・・そこの娘、霊峰アースの出だろう?言わなくても分かる。あの里の民には独特の匂いがあるからな」
聞いてない事をペラペラとしゃべるから、寂しかったのではないかとジョージは思うわけだが、あまり突っ込むと機嫌を損ねない為、やめておいた。
「ボクの故郷を知ってるんですか!?やっぱり、この先がボクの故郷なんですか!?」
「そうだ。・・・ん?お前は、思い出したからここに来たのではないのか?」
仮面の男が首を傾げる。妙に愛嬌のあるしぐさだった。
「モカナは、色んな奴からヒントを貰いながら、自力でここまで来たさ。それ、どういうことさ?」
「ほう!自力でとはな。長くここを守護しているが、決められた期間より先にここを訪れたのはお前が初めてだ。いいだろう。事情を説明してやる。縄を解け。逃げやしない」
「……厄ネタの臭いがするなぁ……」
ジョージは苦い顔で縄をナイフで切り落とすのだった。