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珈琲の大霊師260
夏虫の鳴く夜、宿から覗くは満月。ジョージが窓辺のベッドに座り、夜の珈琲を楽しんでいると、リルケが唐突に目の前に現れた。
「こんばんは!ジョージさん!良いお月さまだよね~。出会った頃を思い出さない?」
「出会った頃ったって、2年も経ってないだろ?」
「そういう事言っちゃう~?ジョージさんにとっては、その程度の事だったんだね」
むすっとした顔をしてみせるが、すぐに顔を綻ばせる。その笑顔は、にこっというよりへらっといった感じで、かくしてジョージとしては同じコメントをせざるをえない。
「お前ヘラヘラしてるよな」
「してないよ!!」
一瞬ムキになって否定するが、ジョージが笑うとつられてリルケもふくれっ面を保てずに破顔した。そんなだから、ヘラヘラしてると言われるのだが。
「花の支配はどうなってる?」
「満月のおかげで早く終わりそうかな~。でも、あと2巡くらいはしないと終わらないかも」
「そうか。まあ、いいさ。この村の野菜は美味い。それに――」
「それに?」
「ガキ共に、旅の話をするって約束しちまったからなぁ」
ふっと、笑ってジョージは珈琲をあおる。珈琲が終わったのだ。
「ジョージさん、珈琲いりますか?」
気づくと、モカナがドアの隙間から顔を出している。こんなふうに、ジョージが飲み終わるのを見計らったようにモカナは訪れる。いつもなら、珈琲を片手に来るところだが、深夜に珈琲を飲むと眠りにくくなると分かってからは、まず聞くことにしていた。
「あぁ、いや、いい。ありがとな、モカナ」
「はい。それじゃ、ボクこれで寝ます。おやすみなさい。リルケさんも、おやすみなさい」
滞在三日目から宿の部屋が空いて、ジョージと女性陣で部屋を分けてあった。女所帯に慣れているジョージとはいえ、同じ部屋では色々と困る事もあるのだ。何とは言わないが。
「うん!モカナちゃんおやすみ~~~」
手を振りあって、モカナとリルケが別れる様を眺めて、ジョージは目を閉じる。
夏虫の鳴き声と、ジョージジョージと鳴く花の精の音だけが、空間を占めていたのだった。いい加減うるさい。
「ここの土、変わった味がする・・・」
翌朝、8種類の花を支配下に置いたリルケが、口元に手を当てて訝し気な顔でそう言った。
「どういうことだ?」
「う~~~~ん、本当に全然違う味なんだよね。何ていうか、独特の味がする。生きてた頃で言うなら、チーズ味っていうか・・・・・。8種類の花がある場所は全部離れてるのに、皆同じ味が隠れてるんだよ」
「へえ。もしかすると、それがここの野菜が美味い理由かもしれないな。その独特の味ってのが、なにか調べられないか?」
「調べてどうするの?」
「その正体が掴めりゃ、もしかすると他の土地でももっと美味い野菜を作れるかもしれないだろ?」
「ははぁ、ジョージさん、この村の野菜にハマッたね?」
「・・・・・・ま、美味いのは確かだ。」
「あはは。暇だし、やってみよっかな。すぐ調べてあげるよ。あ、お骨の移動お願いね?」
「はいよ。丘の上の川辺の3種、森の近くの4種、3軒隣の家の1種だな?了解」
「ふふふ、よぉ~し!リルケさん、いっきま~す!」
さぁっと、風を伴うようにリルケは部屋を出て行った。入れ替わりに、モカナが入ってくる。その手には、2杯の珈琲が握られていたのだった。
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