珈琲の大霊師263
「ごめんなさい、ルビーちゃん。本当は、ついていきたかったでしょう?」
「いいさ。あたいは、別に誘われてないし、さ・・・・・」
カルディが俯き気味に気を使うと、ルビーは何でもない風を装い、しかし頬を膨らませてあぐらに膝をつき、そっぽを向いた。
もちろんそれは、目の見えないカルディには分からない事だったが、ルビーが不満を抱えている事くらいカルディから見れば一目瞭然であった。
カルディには、それが魂の色やオーラとして見えるのだから。
魂が見える分、完全に盲目よりはマシなカルディだが、障害物や高低差は把握しづらい。どうしても、誰かが補助しなければならないのだ。
ガクシュに着くまでは、自分から積極的に世話を焼こうとするシオリがいてくれたから、自由気ままにいられたルビーだったが、丘の上の集落に、ジョージとモカナが行くとなると必然的にルビーがカルディの補助をすることになる。
元々活動的で、じっとしているのが苦手なルビーには辛い。が、それをできるだけ表に出さないように努めていた。カルディ相手では、無意味な事ではあるのだが。
「親父とおふくろが狩りに行く時は、いつもあたいが弟の面倒見てたしさ。そんなに苦でもないさ」
「・・・・・・ジョージさんに誘われなかったのが、悲しいの?」
「ち、ちげーさ!!あ・た・い・は、モカナに誘われなかったのが悔しいだけさね!友達なのにさ・・・」
と口には出してみたが、ルビーを誘った場合不自由なカルディが独りになってしまう事が分かりきっているからこそ、声をかけられなかった。その程度の事はルビーも理解していた。
「どうせ、あたいかモカナだったら、ジョージはモカナ選ぶんだから、この組み合わせは仕方ない事さ」
「そう・・・・・・?今度、ジョージさんに一緒に行きたいって、言ってみたら?」
「えっ?・・・・・・だ、だから!ジョージじゃなくって、あたいはモカナと!」
「そう?本当に?」
と言って、カルディは首を傾げる。それを見て、ルビーはかぁっと顔が熱くなるのを感じた。本当はジョージと一緒に行きたいのだろうと、言われている気がして。
「モカナちゃんがいる時は、いつも一緒にいる・・・よね?いつも、とても楽しそう。でも、ジョージさんと一緒にいる時も、ルビーちゃんは楽しそう。それは、モカナちゃんと一緒にいる時とは違う感じが・・・する」
「んぃぃぃ~~~~~~っっ!!違う!違うっさぁ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るルビーの方に焔が舞う。それは、急速に人の形と、呆れ顔を作った。
「・・・ルビーだっさいし。別に楽しくてもいんじゃなーい?あたしはジョージ割と好きなんですけど?ルビー違うわけ?嫌いじゃないっしょ?」
「は、はぁ~!?・・・・べ、別に嫌いじゃないさ?嫌いじゃないけど・・・・・・」
「だよね~~。ジョージにくっついてる時あるもんね~~」
「あ、あれちがっ・・・!!ち、ちがっ!!」
旅の中で、御者をしているジョージに、暇を持て余したルビーがちょっかいを出す事がある。最初は笑ってジョージが受け流すが、反応が薄いジョージに対しルビーが悪戯心を発揮し、わき腹を突いたり、頭に圧し掛かったり、膝を勝手に枕にしたりする事を言っている。
それは確かに、モカナと一緒にいる時とは違う楽しさで、ルビーは最近ジョージの色んな顔を見るたび、胸のどこかが空くような、弾むような気がしていたのだった。
それを思うと、何故か沸騰するような羞恥がルビーの心をかき乱し、もう何が何やら分からなくなってしまった。
「ち、ちがうっさあああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
ルビーは思わず手近にあった毛布に潜り込み、じたばたするのであった。