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珈琲の大霊師262
いつの間にか旅の詩人兼商人として狭い村の中で名前が知れたジョージが家々を巡り始めて1週間。
「いやぁ、あんたが毎日野菜をこれでもかってくらい貰ってきてくれるから、あたしも料理しがいがあるってもんだよ。普段は、こんなに誰彼構わず野菜貰ったりしないしねえ。見なよ、このトウモロコシ。でっぷりして美味そうだろう?これを潰して、ポタージュにでもしようかね!ひひひ。ありがたやありがたや」
女将は上機嫌に、大きなバスケット山盛りに入った野菜を眺めていた。
人参、かぼちゃ、ほうれんそう、長ネギ、タマネギ、トマト、きゅうり、ナス、大根、ビーツ、etc......
「まぁ、俺も宿を借りてる身だしな。正直貰ったはいいが、使い切れるわけもねえ。こんだけ美味い野菜なんだ。使ってくれて、俺たちの胃袋に入るなら進呈するさ。おかげで、毎日スープが具沢山で豪勢だ。オムレツにも美味い野菜が盛りだくさん。損はしてねえよ」
「今だけ野菜取り放題の定食でも出そうかね。こう、ボウルに切った野菜を入れてさ。それを沢山並べておいて、好きなだけ食べてもらうんだよ」
「はは、そいつはいいな。何も知らずに来た客が喜びそうだ。・・・ところで、聞きたい事があるんだが。少し離れた丘の上に集落があるよな?あれは違う村なのか?」
それは、リルケが見つけたものだった。リルケが馴染む為に選んだ花から、丘の上に家が見えたのだ。
「あぁ、あそこかい。あれは、牧畜やってる連中さ。牛や羊、ヤギなんかを飼っててね昔はこのあたりにもいたんだけど、なにせ畑を荒らすもんでね。あっちに移住してもらったんだよ。苦労して育てた野菜を、牛なんぞに食われてごらん。ぶん殴って捌きたくなっちまうよ」
「あ~~・・・・・・。確かにそれは殺意湧くわ」
畜生に食わせるには、この村の野菜は美味すぎる。
「でも、牛やヤギがいるって事はミルクが手に入るって事だな。もしかして、ここで使ってるミルクはそこからか?」
「いや、ミルクみたいなもんは他に持ってった方が高く売れるんじゃないかい?こっちには持ってこないんだよね。だから、うちで使ってるのは違う村のさ」
「へぇ・・・・・・」
日々珈琲の布教と、旅物語と、野菜に明け暮れているジョージだったが、どうにも一つ気にかかる事があった。
それは、野菜の美味さについて秘訣はなんだ?と聞くと、皆一瞬何かを言いかけてから誤魔化すように手間をかけてるからとか言うのだ。その一瞬の迷いを、ジョージは見逃さない。
この村の野菜の美味さには、手間だけで説明できない何かがある。
そんな謎を目の前にぶら下げられては、気にするなという方が無理な話である。
野菜を実際に作っている村人はともかく、追い出されて丘の上に移住した村人からなら、話を聞けるかもしれない。
そう思ったジョージは、リルケとモカナをハイキングに誘うのだった。
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