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珈琲の大霊師279
「で、そのタウロスの里を巡って、里の保守派と改革派が睨み合って、更に里から新技術を奪おうって魂胆の国が数個控えてるってわけか」
「そういう事だ。ここまで話せば分かるだろう?巻き込まれないように、数年は離れていた方が良い。あんたらだって、命は惜しいだろ。俺達の一族は、常に里を外から見張っているが、今回のような件は始めてだ。十数人なら追い返せるが、軍隊相手じゃ止められん」
「・・・それ、終わった後に里が無事でいられる保障は無いよな?」
「無い。場合によっては、神獣が里を完全に封じてこっちの世界と切り放すかもしれないな。・・・そんな事ができるかも知らないが」
「冗談じゃねえ」
ギリッとジョージの歯が鳴る。
「モカナ」
「はいっ!」
「ルビー」
「なにさ?」
「リルケ」
「はいな~?」
「カルディ」
「はい・・・」
「ドロシー、ツァーリ、ネスレ、お前らも聞け」
ジョージが呼びかけると、精霊達も契約者の肩に現れる。
「里には、モカナの最初の珈琲がある。そうだな?モカナ」
「あ、ええと。はい、その通りです」
「で、もしその神獣とやらが結界を張って切り放したり、その改革派のバカ共が里を破壊するとどうなる?ルビー」
「え?・・・いや、そりゃ珈琲の木が無事なはずないさね」
「だよな?で、俺の目的は確かにモカナに故郷を見せてやる事・・・でもあったんだが、一番の目的はな」
「あっ!!」
と、モカナが顔を輝かせる。
「あの珈琲を飲む為ですね!?」
モカナがそう言うと、ルビーの足がかくんと崩れた。カルディも困惑気味におろおろしている。
「その通りだ!!さすがはモカナだ分かってるな!!俺はあの珈琲を求めてこんな遠くまで来たんだ。諦められるわけがねえだろうが!!この戦争、止めるぞ。俺達の全力をもって!!」
ジョージは大真面目に言い放ったのだった。
巨大な霊峰アースのふもとには、その霊峰を国境とする三つの国があった。
1つは、死者の国アナンザ。1つは鉱山立国ヤモンド。1つは商業国家イリェ。
このうち、ヤモンドとイリェにタウロスの里改革派の息がかかり、顔の広いイリェは近隣諸国の貴族に話を持ちかけ、私兵を集め、また自身でも傭兵を雇ったのだった。
「最終的には、里の保守派と改革派の和睦を目指す形になるだろうが、一度巻き込まれた国はおいそれと引けねえ。まずはこいつらを退かせる必要がある」
「へへっ、久しぶりに腕が鳴るさぁ。殴り込めばいいのさ?」
「いや、相手の事を知らないで突っ込めるわけがねえだろ。相手に同じ精霊使いがいたら、どうするつもりだお前」
「・・・なぎ倒す!!」
「アホかっ!!」
ずびしっとジョージのチョップがルビーの額に炸裂する。ツァーリも呆れて援護しないようだった。
「カルディが暴れればいいんじゃねえのか?」
ネスレがジョージに囁くが、当然ジョージは否定した。
「自覚が無いのにいきなりそんな事できるわけがねえだろ。・・・まあ、どんな状況でも使えそうなのは・・・」
「私だね!」
と、リルケが胸を張る。
「そう。リルケなら、とりあえず男がいれば行軍を止められる。が、それは切り札にしておくべきだろ。対策が打たれる可能性は低いが、絶対に打たれないって保障も無いしな。今の所は、まずリルケには偵察を頼みたい所だな」
「しかし、そう時間をかけてもいられないぞ?例の軍は、もう麓まで来て近隣の村を占拠しているからな」
「それは、どのくらい前からだ?」
「・・・そうだな、1週間程になるか」
「・・・・・・なるほどな。付け込むなら、その辺りが良さそうだ」
ジョージはにやりと笑った。
モカナが珈琲を入れて、全員に注いで回る。豊かで複雑な香りが漂い、空気がゆるりと弛緩した。
その中、珈琲を飲みながらもジョージの目だけは鋭く輝いていたのだった。
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