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珈琲の大霊師289
薄暗い洞窟に、ごりごりと珈琲豆を煎じる音が響き渡る。
それを心地良く聞きながら、ジョージは少し逞しくなったヒューイを揺り起こす。
「おい、ヒューイ。寝てる所悪いんだが、起きてくれ」
「ううん・・・?おい、ふざけんなよ・・・。もう限界だってば・・・」
と、うるさげにヒューイがその手を弾くと、主に代わって風の精霊ムジカが現れた。
「主は、唯一の精霊使いとして洞窟の掘削、食料の確保と八面六臂の活躍をしている。もう少し眠らせてやって欲しい。久しぶりであるな、我では不足か?」
「おう、久しぶり。そういや、そうだったな。いや、あんたの方が話しやすそうだ。本当は、寝てるのを邪魔はしたくなかったしな。少し離れた所で話そう」
そう言って、ムジカを伴って洞窟の奥へと消えてゆくジョージを尻目に、モカナは焙煎を始める。
「・・・この香りは・・・」
すると、すぐに住人達の反応があった。皆、少し弱っていた目に活力が戻り始めていた。
「久しぶりに嗅いだ・・・。あんたは、一体だれ・・・ん?」
と、モカナに近づいた中年の女が、目を顰める。
「あれ?あんた、あんたもしかして、モカナちゃんかい!?」
「あ、はい、そうです。すみません、今珈琲淹れてますので、また後でもいいですか?」
と、モカナは真剣そのものの表情で、顔も向けずに応える。
「あれまぁ!!ちょっと、あんた!モカナちゃんだよ!!食糧難の時に出て行った!まあ、生きてたなんてねえ!その珈琲第一って態度も久しぶりだわ。嬉しいねえ・・・またモカナちゃんの珈琲が飲めるなんてねぇ」
中年の女は、目を細めてモカナを懐かしそうに見つめた。
その肩にいたドロシーが、ふとその目を見返し、水を出しながらニカッと笑うのだった。
洞窟内に、珈琲の香りがあふれ出す。モカナは、足元に気をつけながら洞窟を奥へと進んでいた。
その手には、2つのカップ。自分と、ジョージの分の珈琲だ。
「・・・なるほどねぇ。なんとも羨ましい生活を送ってるんだな、あいつの親父は」
「ああ。毎日女をとっかえひっかえというやつだ。といっても、それはこの里にとって外の血がそれだけ必要だという事を意味している。別に彼だけがそうというわけではない。外から来る男は、それだけこの里にとって重要だということだ」
曲がりくねった角の向こうからジョージの声が聞こえてきて、モカナは足を速める。
「それで、例の放蕩親父はここが気に入ったってわけだ。で、純粋な少年はやっとの事でここを見つけたが、そんな親父の姿に幻滅して反抗期に突入ったと」
「・・・身も蓋も無い言い方をすれば、そうなる」
「あっちには、タウロス、ヒューイの親父の他にキーマンはいるのか?」
「この村一の乱暴者もあちらについている。が、タウロスや父親に比べれば小粒だ」
「了解。状況は大体つかめた。後は・・・おい、モカナ来いよ」
「気付いちゃいましたか」
見つかって少し照れくさそうにモカナがひょこひょこと出てくる。二人が話しているのを見て、邪魔をしてはいけないと思って角に引っ込んでいたのだ。
「お前はちゃんと隠れてたと思うがな?珈琲の香りがここまで来れば分かる。・・・あとついでに、隠れるならドロシーにも隠れるように言っておいた方がいいと思うぞ?」
そう言いながらモカナの頭を撫でつつ、珈琲を受け取る。モカナは目を細めて嬉しそうに笑って、ドロシーを見上げる。
「あ・・・」
ドロシーはモカナが止まっても関係なくふよふよしていたようだった。
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